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第13話
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「一週間も帰ってこられないなんて、思ってもみなかったよっ!」
ログハウスに戻ってきた多聞の第一声は、それだった。
「んなこと言ったって、仕方ねェだろ」
「そんな風に言うけど。俺はスゴク大変だったんだよっ! 戻りたいの我慢するのはもちろんだけど、シノさんが生きてるの知ってるのに、生死が分からない不安な顔しなきゃならないしっ! みんながスッゴイ心配してるのに、言えない辛さったら…」
しょげたような顔をする多聞の様子から、それでもそれなりに反省はしているのかと、柊一は奇妙な納得をする。
「帰り際、北沢クンはヒトの事スッゲェ心配するような顔で見てさぁ。多聞クン力落とさないでねとか、みょ~に優しい声出して。皆にも同じよーなコト言われて、変に優しくされるのがキモチワルイのなんの!」
「そりゃあ、オマエを一人にしたら、首でもくくると思ったんじゃねェの?」
柊一の一言に、コーヒーの入ったマグを手に取りかけた形で多聞は顔を上げた。
「…そうか…。…でも、そーだよね。ココにこうしてシノさんが居てくれてなくて、あの状況だけだったら…それぐらい考えかねないモンね」
今更のように頷く多聞を見やり、本当はどこまで反省しているのかとちょっと疑問を覚えた柊一だった。
「そんで、オマエはこれからどうすんだよ。とりあえず、しばらくはココに引きこもってる予定なんだろ?」
「ああ、うん。…実は、このあいだ一人でいる間に少し面白い楽曲が出来てね。アレをもうちょっといじろうって思ってるんだけど…」
「なんだ、俺を監禁する為に手ぐすね引いてただけじゃねェのか?」
皮肉混じりの柊一の台詞に、多聞は少しだけイヤな顔をして見せる。
「ヒドイなぁ、基本的にはちゃんと仕事してました。だいたい、ホント言うとほとんど思いつきだけで実行しちゃって、ちっとも計画立ててやったワケじゃないんだよ」
「…それ、なおさら悪いぞ」
唖然とする柊一を無視して、多聞は立てかけてあったギターを取りに立ち上がる。
「シノさんも、欲しい?」
「そりゃあ、ただ聴かされるだけじゃ不満に決まってんだろ」
当然のごとく右手を伸ばした柊一に、多聞は嬉しそうに笑って一棹を渡してきた。
楽譜をテーブルに置き、改めて座り直した多聞は、自称「自信作」を披露する。
それをしばらく黙って聴いていた柊一は、多聞が演奏を終えるのを待って自分もギターを抱え込んだ。
そして、即興の歌詞を口ずさみながら、楽曲にアレンジを加えていく。
柊一のアレンジに触発されたかのように、多聞もまた負けじと演奏を始め、二人はそこでしばしの間セッションを楽しんだ。
「今まで、こんなふうにシノさんと合作する事なんて無かったから、スッゲェ新鮮でなんかメチャメチャ楽しいなぁっ! そー思わない?」
「でもオマエ、この曲、俺と連名じゃ発表できねェだろ?」
柊一の言葉に、多聞はハッとなった。
「あ、そうか…」
しばらく押し黙り、多聞は酷く陰気な笑みを浮かべてみせる。
「みんなに嘘つくのも、シノさんとの合作を連名で発表できないのも、全部自分が悪いって分かってるけど…、でも…俺…」
多聞はそこから先の言葉を言わなかったが、柊一にはなんとなく察しが付いた。
柊一を手放したくないと、そう言いたかったのだろう。
「オマエがワガママなのなんて、今に始まったこっちゃねェだろ」
ベッドの上から手を伸ばし、ギターを壁に立てかけた柊一の肩に、多聞は自分の額をのせる。
「シノさんって、ズルイよ。いつも絶対に折れないクセに、ギリギリの所で優しいフリするんだモン。…そんな風に言われたら、俺、またシノさんの事が欲しくなっちゃうよ」
顔を俯けている多聞の肩を押し戻し、柊一は多聞と向き合うようにして顔を覗き込む。
「じゃあ、抱けば?」
「えっ?」
驚いた多聞に、柊一は平然と同じ言葉を繰り返した。
「抱けば?」
「だ…っ! だって…シノさん?」
慌てふためく多聞とは対照的に、柊一は落ち着き払っている。
「オマエってホント、いらんトコで気ィ使ってくれるよな。あんなクスリ使われよーが使われまいが、俺にとっちゃ同じなんだぜ」
「同じって…、シノさん、そんなにショックだったの? そんなに、投げ遣りになっちゃう程イヤだったのっ?」
「だれがそんなコト言ってんだよ…」
呆れ返ったように溜息混じりで呟いた柊一を、多聞はますます訳が分からないと言った顔で見つめた。
「セックスなんて、たかがセックスじゃねェか。生理現象の始末にしろ、慰めあいにしろ、結局は一時のコトだろ。んなモンで、いちいち傷ついたり凹んだりしてられるかっつーの。俺が言いたいのは、俺の気持ちを無視してオマエが俺を好き勝手に扱うってのがムカツクって、そういうコトなんだよ」
「だって、シノさんは俺のこと嫌ってたから、そいつにあんな風にされたからグレちゃったんじゃー?」
「だから。なんで俺がオマエを嫌ってるって言うの? 俺がいつ、オマエが気にいらねェって言ったよ?」
「シノさんは、俺のこと避けてたじゃん。飲みに誘ったって一度もイイ返事してくれたこと無かったし、仕事以外の事でつるんでくれたコトだって一度もないよ? それって、嫌ってるって言うんじゃないの?」
多聞の言い分に、柊一は少し困ったような顔をして見せる。
「あのなぁ…」
ジッと自分を見つめてくる多聞の目線は、やはり大きな犬を思わせるもので。
「ホントは…カッコワリィから言いたくなかったんだけど」
柊一は、諦めたように溜息をつく。
「俺、酒が飲めねェんだよ。でもオマエの誘いって、基本的に飲みに行くだろ? 断るしかねェじゃんか」
「言ってくれればいいのに…」
「だぁからっ! 下戸だなんてカッコワリィから、誰にも言いたくなかったんだよっ!」
激昂したのと、気恥ずかしいのとで、柊一の顔は見る間に赤く染まる。
「じゃあ…」
「嬉しそうな顔すんなっ!」
柊一に叩かれても、多聞の顔は満面の笑みを湛えたままだった。
「だって、それって俺にはスゴク嬉しいコトだよっ! それに…、それにシノさんは俺とスルの、オッケーってコトでしょ?」
「オッケーじゃねェよっ! 俺はあくまで、俺とオマエが対等で、あんな風に…うわぁっ!」
皆まで言い終わらぬウチに、柊一は多聞に抱きしめられてベッドの上に押し倒されている。
「テメェッ! ヒトの話は最後まで聞けってーのっ!」
「うん、…うん、解ってる。…もうあんな風に、勝手にしない。シノさんの事、大事にする」
それも、ちょっと間違っている…、と、柊一は思ったが。
しかし、すっかり盛り上がりきって浮かれている今の多聞には、なにを言ってもムダだろうと目を閉じた。
ログハウスに戻ってきた多聞の第一声は、それだった。
「んなこと言ったって、仕方ねェだろ」
「そんな風に言うけど。俺はスゴク大変だったんだよっ! 戻りたいの我慢するのはもちろんだけど、シノさんが生きてるの知ってるのに、生死が分からない不安な顔しなきゃならないしっ! みんながスッゴイ心配してるのに、言えない辛さったら…」
しょげたような顔をする多聞の様子から、それでもそれなりに反省はしているのかと、柊一は奇妙な納得をする。
「帰り際、北沢クンはヒトの事スッゲェ心配するような顔で見てさぁ。多聞クン力落とさないでねとか、みょ~に優しい声出して。皆にも同じよーなコト言われて、変に優しくされるのがキモチワルイのなんの!」
「そりゃあ、オマエを一人にしたら、首でもくくると思ったんじゃねェの?」
柊一の一言に、コーヒーの入ったマグを手に取りかけた形で多聞は顔を上げた。
「…そうか…。…でも、そーだよね。ココにこうしてシノさんが居てくれてなくて、あの状況だけだったら…それぐらい考えかねないモンね」
今更のように頷く多聞を見やり、本当はどこまで反省しているのかとちょっと疑問を覚えた柊一だった。
「そんで、オマエはこれからどうすんだよ。とりあえず、しばらくはココに引きこもってる予定なんだろ?」
「ああ、うん。…実は、このあいだ一人でいる間に少し面白い楽曲が出来てね。アレをもうちょっといじろうって思ってるんだけど…」
「なんだ、俺を監禁する為に手ぐすね引いてただけじゃねェのか?」
皮肉混じりの柊一の台詞に、多聞は少しだけイヤな顔をして見せる。
「ヒドイなぁ、基本的にはちゃんと仕事してました。だいたい、ホント言うとほとんど思いつきだけで実行しちゃって、ちっとも計画立ててやったワケじゃないんだよ」
「…それ、なおさら悪いぞ」
唖然とする柊一を無視して、多聞は立てかけてあったギターを取りに立ち上がる。
「シノさんも、欲しい?」
「そりゃあ、ただ聴かされるだけじゃ不満に決まってんだろ」
当然のごとく右手を伸ばした柊一に、多聞は嬉しそうに笑って一棹を渡してきた。
楽譜をテーブルに置き、改めて座り直した多聞は、自称「自信作」を披露する。
それをしばらく黙って聴いていた柊一は、多聞が演奏を終えるのを待って自分もギターを抱え込んだ。
そして、即興の歌詞を口ずさみながら、楽曲にアレンジを加えていく。
柊一のアレンジに触発されたかのように、多聞もまた負けじと演奏を始め、二人はそこでしばしの間セッションを楽しんだ。
「今まで、こんなふうにシノさんと合作する事なんて無かったから、スッゲェ新鮮でなんかメチャメチャ楽しいなぁっ! そー思わない?」
「でもオマエ、この曲、俺と連名じゃ発表できねェだろ?」
柊一の言葉に、多聞はハッとなった。
「あ、そうか…」
しばらく押し黙り、多聞は酷く陰気な笑みを浮かべてみせる。
「みんなに嘘つくのも、シノさんとの合作を連名で発表できないのも、全部自分が悪いって分かってるけど…、でも…俺…」
多聞はそこから先の言葉を言わなかったが、柊一にはなんとなく察しが付いた。
柊一を手放したくないと、そう言いたかったのだろう。
「オマエがワガママなのなんて、今に始まったこっちゃねェだろ」
ベッドの上から手を伸ばし、ギターを壁に立てかけた柊一の肩に、多聞は自分の額をのせる。
「シノさんって、ズルイよ。いつも絶対に折れないクセに、ギリギリの所で優しいフリするんだモン。…そんな風に言われたら、俺、またシノさんの事が欲しくなっちゃうよ」
顔を俯けている多聞の肩を押し戻し、柊一は多聞と向き合うようにして顔を覗き込む。
「じゃあ、抱けば?」
「えっ?」
驚いた多聞に、柊一は平然と同じ言葉を繰り返した。
「抱けば?」
「だ…っ! だって…シノさん?」
慌てふためく多聞とは対照的に、柊一は落ち着き払っている。
「オマエってホント、いらんトコで気ィ使ってくれるよな。あんなクスリ使われよーが使われまいが、俺にとっちゃ同じなんだぜ」
「同じって…、シノさん、そんなにショックだったの? そんなに、投げ遣りになっちゃう程イヤだったのっ?」
「だれがそんなコト言ってんだよ…」
呆れ返ったように溜息混じりで呟いた柊一を、多聞はますます訳が分からないと言った顔で見つめた。
「セックスなんて、たかがセックスじゃねェか。生理現象の始末にしろ、慰めあいにしろ、結局は一時のコトだろ。んなモンで、いちいち傷ついたり凹んだりしてられるかっつーの。俺が言いたいのは、俺の気持ちを無視してオマエが俺を好き勝手に扱うってのがムカツクって、そういうコトなんだよ」
「だって、シノさんは俺のこと嫌ってたから、そいつにあんな風にされたからグレちゃったんじゃー?」
「だから。なんで俺がオマエを嫌ってるって言うの? 俺がいつ、オマエが気にいらねェって言ったよ?」
「シノさんは、俺のこと避けてたじゃん。飲みに誘ったって一度もイイ返事してくれたこと無かったし、仕事以外の事でつるんでくれたコトだって一度もないよ? それって、嫌ってるって言うんじゃないの?」
多聞の言い分に、柊一は少し困ったような顔をして見せる。
「あのなぁ…」
ジッと自分を見つめてくる多聞の目線は、やはり大きな犬を思わせるもので。
「ホントは…カッコワリィから言いたくなかったんだけど」
柊一は、諦めたように溜息をつく。
「俺、酒が飲めねェんだよ。でもオマエの誘いって、基本的に飲みに行くだろ? 断るしかねェじゃんか」
「言ってくれればいいのに…」
「だぁからっ! 下戸だなんてカッコワリィから、誰にも言いたくなかったんだよっ!」
激昂したのと、気恥ずかしいのとで、柊一の顔は見る間に赤く染まる。
「じゃあ…」
「嬉しそうな顔すんなっ!」
柊一に叩かれても、多聞の顔は満面の笑みを湛えたままだった。
「だって、それって俺にはスゴク嬉しいコトだよっ! それに…、それにシノさんは俺とスルの、オッケーってコトでしょ?」
「オッケーじゃねェよっ! 俺はあくまで、俺とオマエが対等で、あんな風に…うわぁっ!」
皆まで言い終わらぬウチに、柊一は多聞に抱きしめられてベッドの上に押し倒されている。
「テメェッ! ヒトの話は最後まで聞けってーのっ!」
「うん、…うん、解ってる。…もうあんな風に、勝手にしない。シノさんの事、大事にする」
それも、ちょっと間違っている…、と、柊一は思ったが。
しかし、すっかり盛り上がりきって浮かれている今の多聞には、なにを言ってもムダだろうと目を閉じた。
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