12 / 19
第12話
しおりを挟む
「ああ、うん。それならテレビで見たから、知ってるって。…あのな、何度も言わせんなよ…、この部屋空調が全然ないし、まともな家具もないから長居したくねェんだってば」
多聞からの電話を受けながら、柊一は被っている毛布を身体に巻き付け直した。
「だぁから、それはもうイイっての! 俺の服をオマエが焼却しちまったコトを責めてるんじゃなくて、この部屋にいるのが大変だって話で。椅子もねェし、床は冷たいし…」
いくら室内にいるとはいえ、山の中であるこの場所は夜になるとかなり冷え込んでくる。
服を焼却されてしまった柊一は、とりあえずあり合わせのバスローブを羽織り、上から毛布を巻き付けていた。
まともな暖房器具のある部屋にいても、その格好をしていないと厳しいと感じる時さえあるのに、この家の中で唯一電話機がある部屋は、その暖房器具すらないのだ。
多聞の話を聞きたくない訳ではないが、まともに腰を掛ける場所すらないこの部屋に長居をしろと言われるのはかなり酷な話だった。
日に一度掛かってくる電話が、必要だと柊一も思う。
テレビが伝えてくれる情報には、嘘や誇張も混じっていて、正確に状況を把握するには、その場に居る人間からの情報が必須だ。
だがここ数日の多聞からの連絡は、泣き言にばかり偏りがちだった。
「なんか進展があるまで、連絡しなくていいって言ってる…」
言いかけて、柊一はふと喋るのを止めた。
階下で、物音がしたような気がしたからだ。
しかし、そちらに神経を集中する前に、柊一に遮られる事の無くなった多聞が一気に喋りだしてしまい、階下の様子を伺う事も出来ない。
「ちょ…ちょっと待てって…あぁ? なに?」
まくし立てる多聞の話をおざなりに聞き流そうとした柊一だったが、そこで語り始められた話の内容にそれが出来なくなる。
「俺の車が、見つかったって? 北沢サンと、オマエとで、こっちに確認に来たのか?」
内容が泣き言ではなく、多少なりとも事態の進展を伝えるものになってきたので、柊一はすっかり階下の不審な物音の事を忘れてしまった。
「で、警察の方でも俺の車だって認めたんだな? …そりゃ、メンバーが一人死んだかもしれねェって時に無理に事務所に引き留めたりはしねェだろ。じゃあ、オマエ今夜すぐそっち出るの? うん、じゃあな」
道理で妙にはしゃいだ感じの声だと思ったと、柊一は受話器を置きながら小さな溜息をついた。
多聞からの電話を受けながら、柊一は被っている毛布を身体に巻き付け直した。
「だぁから、それはもうイイっての! 俺の服をオマエが焼却しちまったコトを責めてるんじゃなくて、この部屋にいるのが大変だって話で。椅子もねェし、床は冷たいし…」
いくら室内にいるとはいえ、山の中であるこの場所は夜になるとかなり冷え込んでくる。
服を焼却されてしまった柊一は、とりあえずあり合わせのバスローブを羽織り、上から毛布を巻き付けていた。
まともな暖房器具のある部屋にいても、その格好をしていないと厳しいと感じる時さえあるのに、この家の中で唯一電話機がある部屋は、その暖房器具すらないのだ。
多聞の話を聞きたくない訳ではないが、まともに腰を掛ける場所すらないこの部屋に長居をしろと言われるのはかなり酷な話だった。
日に一度掛かってくる電話が、必要だと柊一も思う。
テレビが伝えてくれる情報には、嘘や誇張も混じっていて、正確に状況を把握するには、その場に居る人間からの情報が必須だ。
だがここ数日の多聞からの連絡は、泣き言にばかり偏りがちだった。
「なんか進展があるまで、連絡しなくていいって言ってる…」
言いかけて、柊一はふと喋るのを止めた。
階下で、物音がしたような気がしたからだ。
しかし、そちらに神経を集中する前に、柊一に遮られる事の無くなった多聞が一気に喋りだしてしまい、階下の様子を伺う事も出来ない。
「ちょ…ちょっと待てって…あぁ? なに?」
まくし立てる多聞の話をおざなりに聞き流そうとした柊一だったが、そこで語り始められた話の内容にそれが出来なくなる。
「俺の車が、見つかったって? 北沢サンと、オマエとで、こっちに確認に来たのか?」
内容が泣き言ではなく、多少なりとも事態の進展を伝えるものになってきたので、柊一はすっかり階下の不審な物音の事を忘れてしまった。
「で、警察の方でも俺の車だって認めたんだな? …そりゃ、メンバーが一人死んだかもしれねェって時に無理に事務所に引き留めたりはしねェだろ。じゃあ、オマエ今夜すぐそっち出るの? うん、じゃあな」
道理で妙にはしゃいだ感じの声だと思ったと、柊一は受話器を置きながら小さな溜息をついた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる