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第10話
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「酷ェよ、シノさんッ! 殴るコトないじゃんかよっ!」
「オマエがあんまりバカだから、殴りたくなったんだよっ!」
「なんだよ、バカッてっ!」
「バカはバカだっ!」
それ以上何かを言おうとする多聞を、柊一は振りかぶった拳で黙らせる。
「で、どうすんだよ? 自首して出るのか?」
柊一の問いかけに、多聞は再び首を激しく左右に振った。
「なんで俺が警察行かなきゃいけないんだよっ! 俺はただ、シノさんが好きでシノさんを抱きしめたかっただけじゃんかっ!」
思わず、柊一はもう一撃、多聞を殴る。
「痛ェッ!」
多聞は先程と同じポーズで、額を押さえた。
「相手の都合も訊かずにツッこむのは、世間一般ではフツー犯罪つーんだよっ!」
「だって、シノさん気持ちよかったでしょ?」
鬼のような形相で睨まれて、多聞は思わず口を噤む。
「大体テメェは、監禁なんぞという大それたコト企んどいて、こんな事態も予期して無かったんかいっ!」
「もっと時間が掛かると思ってたんだよ。…その間に、シノさんが俺のコト忘れられなくなったら、一緒に帰れば良いって思ってた…」
「じゃあもう、諦めてやめりゃ良いじゃん。…ムカつくけど、色々考えると面倒くさいから俺は黙っててやるさ」
なんだかもう呆れ果ててしまい、柊一はその話を打ち切ろうとしたが。
いきなり、殆ど突き飛ばされるかと思うような勢いで、多聞に抱きつかれて仰向けに押し倒された。
「イヤだっ! シノさんを手放すくらいなら、俺、ココでシノさんと心中するっ!」
「っ…っ!」
いくら柔らかなベッドとはいえ、そんな勢いで突き倒されたらかなりの衝撃がある。
オマケに柊一は、つい先程階段から転げ落ちたばかりなのだ。
さすがに一瞬、息も出来なかった。
「もし、シノさんが俺を振りきって東京戻ったら、例えシノさんが誰にもなんにも言わなかったとしても、シノさんを殺して俺も死ぬ」
「…俺を殺して、オマエも死ぬって? …本気で言ってんの?」
「本気だよ! だって、あんな風にシノさんに触れちゃったんだよ、俺! シノさんはもう二度と俺に触れさせてなんてくれないだろうし、でも俺は、そんなコト絶対に耐えられないモン!」
抱きついている多聞の腕に、必死な様子を伺わせるかのように力が込められる。
柊一はもう、底をついて出ないんじゃないかと思っていた溜息をついた。
「じゃあ、殺せよ」
「…ええっ!」
ガバッと飛び起きる多聞に、柊一は冷めた目線を当てる。
「殺せってばよ」
「…だ…だって…、シノさん?」
「しかたないだろ。オマエは俺を解放する気はねェって言うし、俺がココから強引に出ようとしたら殺すっつってんだから。無駄な抵抗出来るほど、今の俺には余力が残ってねェよ。殺るなら、出来るだけスッキリさっぱりやってくれよな。いつまでも苦しんだりするのはイヤだぜ?」
「う…」
言葉に詰まった多聞を、柊一は黙って睨み据えた。
しばらく逡巡した後、多聞は両手を柊一の首にかける。
柊一はやはり黙したままで、多聞の行動を遮る様な事はしなかった。
「…う…、うぅ…っ」
口唇を噛みしめ、多聞はギュッと目を瞑ったが、両手に力を込めない。
「…うわぁっ!」
ブルブルと全身を震わせた後、多聞は今度ガバッと身を伏せて泣き出した。
「出来ねェコトを、口に出すんじゃねェよ。カッコワリィな…」
その行動を予想していた柊一は、ボソリと一言つぶやく。
多聞は、ますます大きな声でワアワアと泣きわめいた。
「だってっ! だって俺、ホントにシノさんを手放すくらいなら死んだ方がマシだけど、でも死ぬのはイヤだよっ! シノさんと一緒に、生きてたいよっ!」
「勝手なコトばっか言いやがって…」
「シノさん! 助けてよーーっ!」
抱きついて、わあわあと泣き続ける多聞に、柊一は最後にとどめの長い溜息を付いた。
本来なら、ココで多聞を殴り飛ばしてでも納得させて、事務所に連絡を取るのが筋だろう。
しかし…。
柊一は、自分の右足に目をやった。
もし本当に折れているのだとしたら、此処を出た時に医者を呼ばれるのは必須だろう。
それは柊一にとって、究極の選択だった。
しばらく考えてから、柊一は多聞の肩に手を掛ける。
「じゃあ、俺が殺してやるよ」
「…えっ…?」
顔を上げた多聞は、次の瞬間に顔を青ざめさせてバッとそこから飛び退いた。
「イヤだよっ! シノさんなら絶対にちゃんと俺の息の根止められそうだもんっ! 俺はまだ、全然死にたくないよっ!」
「バカ。殺すったって、オマエを殺すワケじゃねェよ」
柊一はニィッとイタズラっぽく笑うと、多聞に向かって手招きをする。
こそこそと近づいてきた多聞の耳をつまむと、それをそっと自分の口許に引き寄せた。
「俺が俺を殺すんだ」
「ダ、ダメだよっ! 自殺なんてっ!」
「バカ、話を最後まで聞け」
促して、柊一は多聞をそこに座らせると、側にあった紙とボールペンを手に取る。
「オマエ、俺の車どうした?」
「シノさんの車? 人目に付かないように裏の車庫に移してあるよ?」
「よし、それは都合がいい。あの車をな、ココに来る途中にある渓谷に落とすんだ」
「シノさんの車を?」
大きく頷き、柊一は紙に渓谷の側を通る道路地図を描き出す。
「あの渓谷の側を通る時に、急なカーブが立て続けにあるだろ? 俺が来る時、あすこで事故があってガードレールがブッ壊れてたんだよ。とりあえず応急手当的に補修工事がされてたけど、あの程度なら車が突っ込んだらすぐまた壊れて下に落ちるから」
語りはじめた柊一の話の内容に、多聞の小さい目がまんまるに見開かれる。
「なんか、シノさんってば、保険金詐欺みたいな事を言ってない?」
「蒸発と言え」
柊一の究極の選択は、医者を避ける方が選ばれたらしい。
「オマエがあんまりバカだから、殴りたくなったんだよっ!」
「なんだよ、バカッてっ!」
「バカはバカだっ!」
それ以上何かを言おうとする多聞を、柊一は振りかぶった拳で黙らせる。
「で、どうすんだよ? 自首して出るのか?」
柊一の問いかけに、多聞は再び首を激しく左右に振った。
「なんで俺が警察行かなきゃいけないんだよっ! 俺はただ、シノさんが好きでシノさんを抱きしめたかっただけじゃんかっ!」
思わず、柊一はもう一撃、多聞を殴る。
「痛ェッ!」
多聞は先程と同じポーズで、額を押さえた。
「相手の都合も訊かずにツッこむのは、世間一般ではフツー犯罪つーんだよっ!」
「だって、シノさん気持ちよかったでしょ?」
鬼のような形相で睨まれて、多聞は思わず口を噤む。
「大体テメェは、監禁なんぞという大それたコト企んどいて、こんな事態も予期して無かったんかいっ!」
「もっと時間が掛かると思ってたんだよ。…その間に、シノさんが俺のコト忘れられなくなったら、一緒に帰れば良いって思ってた…」
「じゃあもう、諦めてやめりゃ良いじゃん。…ムカつくけど、色々考えると面倒くさいから俺は黙っててやるさ」
なんだかもう呆れ果ててしまい、柊一はその話を打ち切ろうとしたが。
いきなり、殆ど突き飛ばされるかと思うような勢いで、多聞に抱きつかれて仰向けに押し倒された。
「イヤだっ! シノさんを手放すくらいなら、俺、ココでシノさんと心中するっ!」
「っ…っ!」
いくら柔らかなベッドとはいえ、そんな勢いで突き倒されたらかなりの衝撃がある。
オマケに柊一は、つい先程階段から転げ落ちたばかりなのだ。
さすがに一瞬、息も出来なかった。
「もし、シノさんが俺を振りきって東京戻ったら、例えシノさんが誰にもなんにも言わなかったとしても、シノさんを殺して俺も死ぬ」
「…俺を殺して、オマエも死ぬって? …本気で言ってんの?」
「本気だよ! だって、あんな風にシノさんに触れちゃったんだよ、俺! シノさんはもう二度と俺に触れさせてなんてくれないだろうし、でも俺は、そんなコト絶対に耐えられないモン!」
抱きついている多聞の腕に、必死な様子を伺わせるかのように力が込められる。
柊一はもう、底をついて出ないんじゃないかと思っていた溜息をついた。
「じゃあ、殺せよ」
「…ええっ!」
ガバッと飛び起きる多聞に、柊一は冷めた目線を当てる。
「殺せってばよ」
「…だ…だって…、シノさん?」
「しかたないだろ。オマエは俺を解放する気はねェって言うし、俺がココから強引に出ようとしたら殺すっつってんだから。無駄な抵抗出来るほど、今の俺には余力が残ってねェよ。殺るなら、出来るだけスッキリさっぱりやってくれよな。いつまでも苦しんだりするのはイヤだぜ?」
「う…」
言葉に詰まった多聞を、柊一は黙って睨み据えた。
しばらく逡巡した後、多聞は両手を柊一の首にかける。
柊一はやはり黙したままで、多聞の行動を遮る様な事はしなかった。
「…う…、うぅ…っ」
口唇を噛みしめ、多聞はギュッと目を瞑ったが、両手に力を込めない。
「…うわぁっ!」
ブルブルと全身を震わせた後、多聞は今度ガバッと身を伏せて泣き出した。
「出来ねェコトを、口に出すんじゃねェよ。カッコワリィな…」
その行動を予想していた柊一は、ボソリと一言つぶやく。
多聞は、ますます大きな声でワアワアと泣きわめいた。
「だってっ! だって俺、ホントにシノさんを手放すくらいなら死んだ方がマシだけど、でも死ぬのはイヤだよっ! シノさんと一緒に、生きてたいよっ!」
「勝手なコトばっか言いやがって…」
「シノさん! 助けてよーーっ!」
抱きついて、わあわあと泣き続ける多聞に、柊一は最後にとどめの長い溜息を付いた。
本来なら、ココで多聞を殴り飛ばしてでも納得させて、事務所に連絡を取るのが筋だろう。
しかし…。
柊一は、自分の右足に目をやった。
もし本当に折れているのだとしたら、此処を出た時に医者を呼ばれるのは必須だろう。
それは柊一にとって、究極の選択だった。
しばらく考えてから、柊一は多聞の肩に手を掛ける。
「じゃあ、俺が殺してやるよ」
「…えっ…?」
顔を上げた多聞は、次の瞬間に顔を青ざめさせてバッとそこから飛び退いた。
「イヤだよっ! シノさんなら絶対にちゃんと俺の息の根止められそうだもんっ! 俺はまだ、全然死にたくないよっ!」
「バカ。殺すったって、オマエを殺すワケじゃねェよ」
柊一はニィッとイタズラっぽく笑うと、多聞に向かって手招きをする。
こそこそと近づいてきた多聞の耳をつまむと、それをそっと自分の口許に引き寄せた。
「俺が俺を殺すんだ」
「ダ、ダメだよっ! 自殺なんてっ!」
「バカ、話を最後まで聞け」
促して、柊一は多聞をそこに座らせると、側にあった紙とボールペンを手に取る。
「オマエ、俺の車どうした?」
「シノさんの車? 人目に付かないように裏の車庫に移してあるよ?」
「よし、それは都合がいい。あの車をな、ココに来る途中にある渓谷に落とすんだ」
「シノさんの車を?」
大きく頷き、柊一は紙に渓谷の側を通る道路地図を描き出す。
「あの渓谷の側を通る時に、急なカーブが立て続けにあるだろ? 俺が来る時、あすこで事故があってガードレールがブッ壊れてたんだよ。とりあえず応急手当的に補修工事がされてたけど、あの程度なら車が突っ込んだらすぐまた壊れて下に落ちるから」
語りはじめた柊一の話の内容に、多聞の小さい目がまんまるに見開かれる。
「なんか、シノさんってば、保険金詐欺みたいな事を言ってない?」
「蒸発と言え」
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