Komplize

RU

文字の大きさ
上 下
7 / 19

第7話

しおりを挟む
 しばらくして、柊一は再び意識を取り戻した。
 先程のように曖昧で中途半端な物ではなく、ハッキリと覚醒する。
 窓から射し込む陽の光に眼を射られ、咄嗟に柊一は左手をかざした。

「えっ?」

 拘束されていた筈の手が自由になっている事に気付き、柊一は慌てて身体を起こそうとした。
 『ガチャンッ!』
という、激しい物音と右手に感じた上自由さに振り返ると、病院で歩行訓練のリハビリに使われているような車付きのパイプ枠が側にあった。
 そのパイプの一部に、玩具の手錠で繋がれている己の右手。
 だが、身体の拘束箇所はそれだけだった。
 掛け布をめくりあげると、相変わらず全裸のままで。
 気温は、震え上がる程ではないが、全裸で過ごすには少し寒い。
 柊一はそのまま掛け布を身に纏った。
 周りを見回すと、そのパイプ枠の他に室内に増えている物があった。
 先程多聞が何か作業をしていたあたりに、テレビが置かれている。
 ベッドのヘッド部分にある棚には、リモートコントロールバーがあり、側に一枚の手紙があった。
 几帳面な多聞の性格をそのまま表したような、細かい文字。

 『東京に行ってきます。
 食料は、数日置きに持ってきてもらえるように手配してあります。
 代金の支払いなどの心配はありませんので、応対には出ないで下さい。
 先方にも、声を掛けずに扉の脇のボックスに入れるよう頼んであります。
 申し訳ないけど、服の用意はありません。
 数日で戻りますので、心配しないで下さい。』

「…ギャグか…?」

 読み終わった瞬間、柊一は思わず呟いていた。
 一体、どこの世界に監禁した相手に置き手紙を残し、あげく「心配しないで下さい」と書き置く莫迦がいるのか?
『…いや、ココにいるんだっけ』
ハァッと大きな溜息をつき、柊一は脱力したように眉間を押さえた。
 とはいえ、多聞の真意は別にしても、自分はただ此処でこうしていても仕方がない。
 柊一はパイプ枠を引き寄せると、それに掴まって立ち上がった。
 足は、微かに痛む。
 それでも、柊一はパイプ枠に縋って歩き出した。
 少なくとも、縋る物があるなら動き回る事が出来る。
 だが、それも部屋を出るまでだった。

「…アイツって、どうしてこう時々極端にマヌケなんだろう…」

 目の前の階段を見下ろし、柊一は溜息を付いた。
 身体に掛布を巻き付け、しかもこの大荷物。
 ついでに、利き足は力を込めると痛みが走る。
 この状態で、無事に階下に降りる事が出来るのだろうか?
しばらく躊躇したものの、柊一は諦めたように足を踏み出した。
 ここにこうしていても、事態にはなんの変化もないのだから、それはもう選択の余地もなく仕方がない事だったからだ。
 しかし、細心の注意を払っていたにも関わらず、やはり傷を負っている身体は自分の思い通りには動いてくれなかった。
 しまったと思った時には、もう身体は宙に浮いていて…。
 『ガラガシャンッ!』
…しばしの、沈黙。

「…う、う…」

 階段の一番下で、柊一はうめき声を上げた。

「痛……ってえ~…」

 パイプ枠は柊一の上に乗っていて、それにつなぎ止められている右手は、肩が脱臼しなかったのが上思議なほど、異常な形で背中にねじ上げられている。
 それでも、柊一はしばしの間その格好のままジッとしていた。
 否。
 あまりの痛みに、動き出す事が出来なかったのだ。
 しばらくして、少し痛みがひき始めてから、柊一は己の上に乗っているパイプ枠を退かし、身体を捻って床に足を投げ出し座っている格好になった。

「…ったく、手間掛けさせるんじゃねェよ!」

 それはもう、誰に向かっての悪態か、本人にすら分かっていない。
 ただ、苛立つ気分のまま、なにかを言わなければ気が済まなかったのだ。
 自分の右手の先に繋がったまま、ゴロリと転がっているパイプ枠を睨み付け、乱暴につかみ引き寄せる。
 ようやくの思いでパイプ枠を床に立たせ、柊一は立ち上がろうとした。
 しかし…。

「痛っ…っ!」

 右足に走った、激痛。
 力を入れ損ねた手から離れて、パイプ枠が壁に当たり音を立てる。
 柊一は、しばらく呆然と自分の足を見つめていた。

「…折れた…?」

 多聞と口論をした時には、少々捻挫した程度で骨折などという事態には至っていない確信があって、医者を呼ぶ必要がないと強気で言い切れたが。
 だが、この尋常ならざる痛みは…。

「…ちっ」

 舌打ちをして、柊一はもう一度パイプ枠を引き寄せると、それに縋りつくようにして強引に立ち上がる。

「立てるじゃねェかよっ」

 右足に襲いかかる痛みをごまかすようにワザと口に出して言い、柊一は顔を上げるとそこから移動し始めた。

「動ける。平気だ。折れてねェッ!」

 自己暗示するかのように柊一は言い切り、出入り口のある居間へと向かう。
 子供の頃、かかりつけだった医者に散々からかわれた事に端を発し、柊一の医者嫌いはかなりの筋金が入っていた。
 柊一にとって、医者を呼ぶくらいなら足が折れている方がマシだったし、医者の世話になるぐらいなら歩けなくなる方がマシだったのである。

「…こっから出たら、あのヤロウ、ボコにしてやる…」

 ブツブツと文句を言いながら、柊一はあちこちを見て回ってみた。
 多聞の事だから、手錠の鍵か、または鎖を切り離す為のなにかが、てっきり出したままで放置されているような事がないかと、微かな期待を持っていたのだが。
 いくら少々タガの外れたような男でも、それらの物を放置して置くような真似はしなかったらしく、これといった物は見つからなかった。
 もっとも、動き回れば痛む足の為に、あまり丁寧に室内を物色出来たわけではなかったが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム
BL
 醜い容姿故に、憎まれ、馬鹿にされ、蔑まれ、誰からも相手にされない、世界そのものに拒絶されてもがき生きてきた男達。 生まれも育ちもばらばらの彼らは、不慮の事故で生まれ育った世界から消え、天帝により新たなる世界に美しい神王として『転生』した。  愛され、憧れ、誰からも敬愛される美神王となった彼らの役目は、それぞれの国の男たちと交合し、神と民の融合の証・国の永遠の繁栄の象徴である和合の木に神卵と呼ばれる実をつけること。  五色の色の国、五国に出現した、直樹・明・アルバート・トト・ニュトの王としての魂の和合は果たされるのだろうか。  最後に『転生』した直樹を中心に、物語は展開します。こちらは直樹バージョンに組み替えました。 『なろう』ではマナバージョンです。 えちえちには※マークをつけます。ご注意の上ご高覧を。完結まで、毎日更新予定です。この作品は三人称(通称神様視点)の心情描写となります。様々な人物視点で描かれていきますので、ご注意下さい。 ※誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます。励みになりますです!

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

SEX SCHOOL ROCK'N'ROLL

夏目とろ
BL
「おまえって、ほんと見掛け倒しな」 「……おまえに言われたかないし」 平凡×美形(見た目) 男前×ヘタレ(性格) G.Vo.×Dr. 高校生バンドシリーズ ※このお話も『幼なじみプレイ』シリーズ同様、2011年に運営していたBLサイトで連載していたものです。流行りのバンドや音楽も当時のものだったりするので、平成の高校生バンドBLだと思って頂ければ。ただ、メールをLINEに書き換える等の修正作業は行っています。 また、fujossy、エブリスタ等へも投稿しています。表紙画像はフリー素材『ぱくたそ』様からお借りしました

監禁から始まる元ヤン転生

甘井蜜柑
BL
ヤンキーの俺はバイクで2ケツしていたとき事故にあって死んだ。 目が覚めると自分は赤ん坊になっていて、しかもどうやら監禁されているらしい。 ヤンキーの俺は自由のない生活なんて耐えられない。 こうなったらどうにかして逃げ出してやる。

雄っぱい野郎に迫られてます

キトー
BL
大学生のカオルは成り行きでムキムキ雄っぱいな同級生のダイチと同居中。 ある日突然カオルが告白されたり押し倒されたりするお話。 雄っぱいが書きたかっただけのアホエロです。 『ヘタレムキムキ雄っぱい✕ちょっとツンデレ同級生』 ※やや無理やりな表現があります。 ※ネタバレを避けるため性的な表現が含まれる場合も予告はしません。苦手な方はご注意ください。  誤字脱字やおかしな言い回しがあれば教えてもらえると助かります。  感想とても喜びます!  匿名ご希望の方はXのマロかWaveboxへどうぞ!

半グレの私はなぜピュアなハウスキーパーをこんなに深く愛してしまったんだろう

大波小波
BL
 北條 真(ほうじょう まこと)は、半グレのアルファ男性だ。  極道から、雇われ店長として、ボーイズ・バー『キャンドル』を任されている。  ある日、求人面接に来たオメガの少年・津川 杏(つがわ きょう)と出会う。  愛くるしい杏を、真は自分のハウスキーパーとして囲うことにしたが、この少年は想像以上にピュアでウブだった。  彼をマンションへ連れ込み、すぐにベッドへいざなうつもりの真。  しかし杏は、腕が鳴ります、と掃除機を要求してくる始末だ。  苦笑いの真は彼との関係をキス程度で済ませ、しばらく合わせることにした。  一方『キャンドル』には、真に恋するスタッフ・詩央(しお)が勤めていた。  彼には、杏の存在が気になって仕方がない。  熱っぽい、と休憩室で真を待ち、大胆に誘う。  自店のスタッフには手を付けない、が信条の真だったが、そんな詩央には勝てず、肌を合わせる。  まだまだお子様の杏には無い、大人の魅力を持つ詩央と、熱いひとときを過ごした。  マンションに帰って、詩央と寝たことを真は気軽に杏に話した。  すると彼は、ぽろぽろと涙をこぼして泣き出してしまう。  一緒に暮らし、キスをしたりしているのだ。  杏は、真を勝手に恋人だと思い込んでしまっていた。  困惑する真だったが、彼とふれあうことで幸せな気持ちになれることは確かだ。  生まれて初めて、真は真剣に恋の相手と向き合い始めた。  いきなりベッドイン、ではなく、手順を踏んでまずはデートから。  デートして、手をつないで。ドキドキしながらキスをして、そして初夜を迎える。  そんなプランを、真は杏に対して考えるようになった。  しかし、杏との初デートの日、真は不吉な男・遠田(えんだ)と出会う。  遠田は、登流会(とうりゅうかい)傘下の組の極道だ。  真が店長を務めるボーイズ・バーのオーナーでもある。  彼は時折、客として店に現れることもあるのだが、粗暴で身勝手な振る舞いは悩みの種だった。  それどころか、過去に真の情夫を幾度となく奪い去り踏みにじって来た男だ。  嫌な予感を感じながらも、真は杏とのデートを楽しんだ。  ショッピングやディナーに、夜景の美しいホテル。  そこで初めて結ばれた二人は、ようやく正真正銘の恋人になった。  それでも彼らの間には、略奪愛を狙う詩央や、疫病神・遠田が付きまとう……。

なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ
BL
 大学二年生の洋(ひろ)には苦手な人はいない。話せばすぐに仲良くなれるし、友達になるのは簡単だ、と思っていた。  そんな洋はある日、偶然告白の現場に居合わせる。その場にいたのはいい噂を聞かない白川。しかし彼が真摯に告白を断るのを聞いてしまう。  悪いやつじゃないのかな、と洋は思い、思い切って声をかけてみると、白川は噂とは真反対の、押しに弱く、大人しい人だった。そんな白川に洋は興味を持ち、仲良くなりたいと思う。ところが、白川は洋の前でだけ挙動不審で全然仲良くしてくれず……。 ネトコン参加作品ですので、結果次第でRシーン加筆します(笑)

処理中です...