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第6話

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「てめ…っ、やめろっ!」
「やめない。…だってシノさん、昨日の晩あんなに楽しんでくれたじゃない? 俺、シノさんの気持ちを手に入れられない事ぐらい、良く解ってる。…でも、人間って感情と感覚が伴わない場合ってあるんだよね。シノさんの身体を、俺がいなくちゃいられないようにする事は出来るんだよ?」

 あの薬品が詰められている瓶を多聞が再び手に取るのを見て、柊一は表情を強張らせた。

「よせっ! やめろよっ!」

 指先に馴染ませ、掛け布をはぎ取られて両足を広げられる。

「いやだっ! やめろっ! やめてくれっ!」

 もう、形振りなど構っていられない。
 柊一は悲鳴混じりの嘆願を口にしていた。

「ホントに? シノさん」

 問いかけに、柊一はハッと我に返って多聞を見る。

「ホントに止めて欲しいの?」
「あ…当たり前だろうっ!」

 即答した柊一に、多聞は奇妙な表情を浮かべて顔を近づけてきた。

「本当に? …だってシノさん、こうしてクスリで煽られちゃえば自分に言い訳できるんだよ? オトコに抱かれてイッちゃうのは、クスリの所為だって。シラフで俺に抱かれて、感じちゃったらどうするの…?」

 目を見開いた柊一に、多聞は悪魔的な印象の笑みを向ける。

「昨夜のシノさん、とっても可愛かったよ。女のコみたいに喘いで、腰振って、俺を欲しがって。シラフの東雲柊一にそうしてもらえるなら、俺はそっちの方がずっと嬉しいけどさ」
「俺が止めろと言ってるのは、この行為そのものだっ!」

 多聞は、さもおかしいと言った顔でくすくす笑った。

「それは出来ない相談だって、知ってるクセに。だって俺、こんなにシノさんが欲しい…」

 ピタリと身体を重ね合わせ、多聞はスラックスの下の己の熱をアピールしてみせる。

「て…めェ…」

 怒りを滲ませて睨み付ける柊一に、多聞は目を眇めた。

「だから、クスリ使わせてよ。…俺、シノさんと楽しみたいだけで、困らせたいワケでも苛めたいワケでもないんだよ」
「俺に触るなっ!」

 拒絶する柊一に、多聞は微かに困ったような表情を浮かべて、肩を竦める。
 そして、身体を起こすと黙って柊一の膝に手を掛けた。

「イヤだっ! イヤだ、イヤだ、イヤだぁっ!」

 痛む足を強引にバタつかせ、柊一は駄々をこねる子供のように喚き散らす。
 しかし、そんな抵抗も虚しく、多聞の指先は柊一の体内に穿たれてしまった。

「あっ…ああぁっ!」

 自分の上げる声が、悲鳴から次第に嬌声へと変わる事に、嫌でも気付かされる。

「…レン…っ! …っ!」

 押し入られる圧迫感に、知らず涙をこぼしていた。

「シノさん…、シノさん…。…どうしてアンタ、そんなに綺麗なんだよ? 泣いても、怒っても、感じていても…、同じくらいにキラキラしてて…。スゴク…、スゴク綺麗だ…」

 耳元を掠める多聞の口唇から、熱に浮かされたような囁きが紡がれる。
 柊一は、怒涛のような快楽の波にさらわれながらその言葉を聞いていた。

 ゴトゴトと何か重い物を動かす音で、ふと意識を取り戻す。
 全身が気怠くて、瞼を押し上げる事すら億劫に感じられたが、柊一は目を開いた。
 まず目に入ったのは、長身の男の背中。

「…なに…やってんだ…」

 声を掛けると、多聞は吃驚したように振り返った。

「目…覚めてたの?」

 その問いかけに、柊一は黙って首を横に振る。

「しっかり…起きてんじゃん」

 苦笑して、多聞は柊一の側にやってきた。

「だるい?」
「…ああ…」

 目を閉じて、柊一はようやくそう答える。
 すぐにも意識は、ドロリとした眠りの世界に落ちてしまいそうだった。

「ゴメンね…。こんなに頻繁に使ってイイクスリじゃないって、判ってるんだけど…」

 多聞の指先が、額に触れる。
 その少し冷たい感触が、奇妙に心地良いと感じた。

「ゴメンね…、俺、そろそろ東京戻らないとマズイから。シノさんを残して行くの、スゴク心配なんだけど…」

 その後、多聞が何を言っているのか柊一は聞く事が出来なかった。
 真っ暗な空間に意識が飲み込まれていくような錯覚に陥りながら、眠りに落ちる。
 微かに、暖かな何かが頬に触れたような気がして、無意識のうちにそれが多聞の接吻だと理解していた。
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