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第3話
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死んでしまった母さんを恨む気はないけど、でも自分のこの名前に関してだけは「母さんが生きててくれさえしたら、バカ親父の暴走を止めてくれたかもしれないのに」と思う。
母さんの名前は「桃香」だった。
親父はカミサンにくびったけで、親父曰く「桃ちゃんは俺の運命のヒト!」なんだそうである。
だから親父は息子に、最愛のカミサンの名前を1字取って「桃太郎」と名付けたのだ。
こうした話は親父の側から見ると美談なのかもしれないが、そんな名前を付けられたこちらは、たまったモンじゃない。
お陰で、名前を理由に小さい頃からイジメのターゲットにされた。
母さんが生きていてくれれば、もう少し常識的な判断で名前を選んでもらえたんじゃないかと思いたくなるのも、当然ってもんだろう。
母さんについて僕の知っている正確な情報は(顔も含めて)極端に少ない。
なぜならば、僕に母さんの情報をくれる人間=バカ親父のみで、その話のほぼ9割方は鵜呑みにしたら危険すぎるデタラメ情報だからだ。
親父は、僕の事を「桃ちゃんにソックリ!」とか言う。
だけど親父を取り巻いている連中で母さんを少しでも知っている人間は、僕を「お父さんにソックリ」という。
僕としては、あんな壊れた親父に似ていると言われてもちっとも嬉しくないけれど、母さんを全く知らない神巫ハルカのような人間にまで「シノさんのチビクローン」などと呼ばれる始末だ。
親父と母さんがソックリの顔をしてたんじゃない限り、親父の「桃ちゃんにソックリ!」という発言は、まったくの事実無根…というか、要するに親ばかの一環なのだろう。
こんな親父に「仕種も、声音も、顔もソックリ」といわれるのは、僕には不愉快極まりないことだ。
でも実際、僕には親父に似てる部分がある。
不本意ではあるが、それに関しては自覚もあるので否定はしない。
例えば僕の「短気でケンカっ早く負けず嫌い」な気質は、親父にそっくりだと思う。
オマケに子供の頃から「護身の為に」とか言って太極拳の道場に通っていたりするから、無駄に腕っ節があったりする。
だからまだ分別がちゃんとしていない小さい頃は、僕の名前をからかった連中に尽く正義の鉄槌を食らわせてやったりもした。
この歳になればそんなくだらない事でわざわざ僕をからかいに来るアホンダラもほとんどいなくなったし、幼少の頃の武勇伝が響き渡って尚更そうした輩も減り、僕自身もやたらに他人を張り飛ばしてはイケナイと学んだのでそんなコトは(親父以外の人間には)しないけれど。
それでももめごとを起こすたび、そういう自分の性格をモンダイだと感じるので、親父に似てるのなんて僕にはちっともいいことじゃないのだ。
「そんでさぁ、桃ちゃんさぁ、こんなに早く起きてきたって事は、今日出掛ける予定なンだよねェ?」
子供に過干渉の親父は、僕が夏休みだって事くらい、当然知っている。
「うん、これ食べ終わったらゼミに行くよ」
「ゼミ行くのはナシにしようよ」
「はぁ?」
「だって最近、物騒ジャン。特に夏休み中なんてアブナイよ、カワイイ桃ちゃんが誘拐とかカツアゲとかされたらって思うと、パパ心配なんだもん」
「カツアゲなんてされないよ」
「そりゃー桃ちゃんはパパの次くらいに強いから、そんな連中鼻にも引っかけないかもしれないけど。でもカワイイ桃ちゃんの顔に向こう傷でも出来たら、パパはショックで寝込んじゃうぜ? それに、いざとなったら人質を生かしているフリをして殺しちゃうようなのが最近はいっぱいウロウロしてるみたいだし。ゼミなんて特に見知らぬ連中が簡単に混ざるから、特にキケンじゃん!」
僕は小学生の時に、大物ミュージシャンの子供という肩書き(?)の所為で、誘拐され掛けた事がある。
学習塾からの帰り道は遅くなるので、他の家の子達はほとんどが母親が車で送迎していたし、ウチも親父の付き人が僕の送迎をしてくれていた。
でも親父の付き人は「親父の面倒を見る」のが本来の仕事だから、僕の送迎は「オマケのついで」程度でしかなく、僕もついでの順番を待たされるくらいなら、さっさと一人で帰った方が気楽だったのだ。
そこを狙ってきた犯人は、乗用車で乗り付けてきて僕に声を掛け、僕が車に乗ろうとしないと、力ずくで車内に押し込めようとした。
でも前述の通り僕は親父似のトラブルメーカー気質をしていたし、その頃はまだ自分の性質に「問題アリ」の自覚もなかったから、習ったばかりの護身術を振るった。
拳法を習い始めて間もない子供だったから、習ったワザを試す機会に遭遇して喜びいさんで会心のキンケリをカマし、さっさと逃げてきて事なきを得たんだけど。
その一件から親父は僕の外出を過度に警戒するようになり、GPS携帯を持たされたり、遠出をする時はボディガードまで付けられるようになった。
子供の親としてはあたりまえの反応だったと思うけど、でも僕はもう小さな子供じゃないし、この歳に至って昼日中ゼミに通う事まで干渉されるのは、ただの迷惑でしかない。
「シノさんってホントに子煩悩ですね~」
のほほんとした顔で、神巫ハルカはそんなコメントをしている。
でもそこは「シノさんっていいかげん親バカですね」と突っ込むべきところだろう。
母さんの名前は「桃香」だった。
親父はカミサンにくびったけで、親父曰く「桃ちゃんは俺の運命のヒト!」なんだそうである。
だから親父は息子に、最愛のカミサンの名前を1字取って「桃太郎」と名付けたのだ。
こうした話は親父の側から見ると美談なのかもしれないが、そんな名前を付けられたこちらは、たまったモンじゃない。
お陰で、名前を理由に小さい頃からイジメのターゲットにされた。
母さんが生きていてくれれば、もう少し常識的な判断で名前を選んでもらえたんじゃないかと思いたくなるのも、当然ってもんだろう。
母さんについて僕の知っている正確な情報は(顔も含めて)極端に少ない。
なぜならば、僕に母さんの情報をくれる人間=バカ親父のみで、その話のほぼ9割方は鵜呑みにしたら危険すぎるデタラメ情報だからだ。
親父は、僕の事を「桃ちゃんにソックリ!」とか言う。
だけど親父を取り巻いている連中で母さんを少しでも知っている人間は、僕を「お父さんにソックリ」という。
僕としては、あんな壊れた親父に似ていると言われてもちっとも嬉しくないけれど、母さんを全く知らない神巫ハルカのような人間にまで「シノさんのチビクローン」などと呼ばれる始末だ。
親父と母さんがソックリの顔をしてたんじゃない限り、親父の「桃ちゃんにソックリ!」という発言は、まったくの事実無根…というか、要するに親ばかの一環なのだろう。
こんな親父に「仕種も、声音も、顔もソックリ」といわれるのは、僕には不愉快極まりないことだ。
でも実際、僕には親父に似てる部分がある。
不本意ではあるが、それに関しては自覚もあるので否定はしない。
例えば僕の「短気でケンカっ早く負けず嫌い」な気質は、親父にそっくりだと思う。
オマケに子供の頃から「護身の為に」とか言って太極拳の道場に通っていたりするから、無駄に腕っ節があったりする。
だからまだ分別がちゃんとしていない小さい頃は、僕の名前をからかった連中に尽く正義の鉄槌を食らわせてやったりもした。
この歳になればそんなくだらない事でわざわざ僕をからかいに来るアホンダラもほとんどいなくなったし、幼少の頃の武勇伝が響き渡って尚更そうした輩も減り、僕自身もやたらに他人を張り飛ばしてはイケナイと学んだのでそんなコトは(親父以外の人間には)しないけれど。
それでももめごとを起こすたび、そういう自分の性格をモンダイだと感じるので、親父に似てるのなんて僕にはちっともいいことじゃないのだ。
「そんでさぁ、桃ちゃんさぁ、こんなに早く起きてきたって事は、今日出掛ける予定なンだよねェ?」
子供に過干渉の親父は、僕が夏休みだって事くらい、当然知っている。
「うん、これ食べ終わったらゼミに行くよ」
「ゼミ行くのはナシにしようよ」
「はぁ?」
「だって最近、物騒ジャン。特に夏休み中なんてアブナイよ、カワイイ桃ちゃんが誘拐とかカツアゲとかされたらって思うと、パパ心配なんだもん」
「カツアゲなんてされないよ」
「そりゃー桃ちゃんはパパの次くらいに強いから、そんな連中鼻にも引っかけないかもしれないけど。でもカワイイ桃ちゃんの顔に向こう傷でも出来たら、パパはショックで寝込んじゃうぜ? それに、いざとなったら人質を生かしているフリをして殺しちゃうようなのが最近はいっぱいウロウロしてるみたいだし。ゼミなんて特に見知らぬ連中が簡単に混ざるから、特にキケンじゃん!」
僕は小学生の時に、大物ミュージシャンの子供という肩書き(?)の所為で、誘拐され掛けた事がある。
学習塾からの帰り道は遅くなるので、他の家の子達はほとんどが母親が車で送迎していたし、ウチも親父の付き人が僕の送迎をしてくれていた。
でも親父の付き人は「親父の面倒を見る」のが本来の仕事だから、僕の送迎は「オマケのついで」程度でしかなく、僕もついでの順番を待たされるくらいなら、さっさと一人で帰った方が気楽だったのだ。
そこを狙ってきた犯人は、乗用車で乗り付けてきて僕に声を掛け、僕が車に乗ろうとしないと、力ずくで車内に押し込めようとした。
でも前述の通り僕は親父似のトラブルメーカー気質をしていたし、その頃はまだ自分の性質に「問題アリ」の自覚もなかったから、習ったばかりの護身術を振るった。
拳法を習い始めて間もない子供だったから、習ったワザを試す機会に遭遇して喜びいさんで会心のキンケリをカマし、さっさと逃げてきて事なきを得たんだけど。
その一件から親父は僕の外出を過度に警戒するようになり、GPS携帯を持たされたり、遠出をする時はボディガードまで付けられるようになった。
子供の親としてはあたりまえの反応だったと思うけど、でも僕はもう小さな子供じゃないし、この歳に至って昼日中ゼミに通う事まで干渉されるのは、ただの迷惑でしかない。
「シノさんってホントに子煩悩ですね~」
のほほんとした顔で、神巫ハルカはそんなコメントをしている。
でもそこは「シノさんっていいかげん親バカですね」と突っ込むべきところだろう。
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