パパはアイドル

RU

文字の大きさ
上 下
3 / 18

第3話

しおりを挟む
 死んでしまった母さんを恨む気はないけど、でも自分のこの名前に関してだけは「母さんが生きててくれさえしたら、バカ親父の暴走を止めてくれたかもしれないのに」と思う。
 母さんの名前は「桃香」だった。
 親父はカミサンにくびったけで、親父曰く「桃ちゃんは俺の運命のヒト!」なんだそうである。
 だから親父は息子に、最愛のカミサンの名前を1字取って「桃太郎」と名付けたのだ。
 こうした話は親父の側から見ると美談なのかもしれないが、そんな名前を付けられたこちらは、たまったモンじゃない。
 お陰で、名前を理由に小さい頃からイジメのターゲットにされた。
 母さんが生きていてくれれば、もう少し常識的な判断で名前を選んでもらえたんじゃないかと思いたくなるのも、当然ってもんだろう。
 母さんについて僕の知っている正確な情報は(顔も含めて)極端に少ない。
 なぜならば、僕に母さんの情報をくれる人間=バカ親父のみで、その話のほぼ9割方は鵜呑みにしたら危険すぎるデタラメ情報だからだ。
 親父は、僕の事を「桃ちゃんにソックリ!」とか言う。
 だけど親父を取り巻いている連中で母さんを少しでも知っている人間は、僕を「お父さんにソックリ」という。
 僕としては、あんな壊れた親父に似ていると言われてもちっとも嬉しくないけれど、母さんを全く知らない神巫ハルカのような人間にまで「シノさんのチビクローン」などと呼ばれる始末だ。
 親父と母さんがソックリの顔をしてたんじゃない限り、親父の「桃ちゃんにソックリ!」という発言は、まったくの事実無根…というか、要するに親ばかの一環なのだろう。
 こんな親父に「仕種も、声音も、顔もソックリ」といわれるのは、僕には不愉快極まりないことだ。
 でも実際、僕には親父に似てる部分がある。
 不本意ではあるが、それに関しては自覚もあるので否定はしない。
 例えば僕の「短気でケンカっ早く負けず嫌い」な気質は、親父にそっくりだと思う。
 オマケに子供の頃から「護身の為に」とか言って太極拳の道場に通っていたりするから、無駄に腕っ節があったりする。
 だからまだ分別がちゃんとしていない小さい頃は、僕の名前をからかった連中に尽く正義の鉄槌を食らわせてやったりもした。
 この歳になればそんなくだらない事でわざわざ僕をからかいに来るアホンダラもほとんどいなくなったし、幼少の頃の武勇伝が響き渡って尚更そうした輩も減り、僕自身もやたらに他人を張り飛ばしてはイケナイと学んだのでそんなコトは(親父以外の人間には)しないけれど。
 それでももめごとを起こすたび、そういう自分の性格をモンダイだと感じるので、親父に似てるのなんて僕にはちっともいいことじゃないのだ。

「そんでさぁ、桃ちゃんさぁ、こんなに早く起きてきたって事は、今日出掛ける予定なンだよねェ?」

 子供に過干渉の親父は、僕が夏休みだって事くらい、当然知っている。

「うん、これ食べ終わったらゼミに行くよ」
「ゼミ行くのはナシにしようよ」
「はぁ?」
「だって最近、物騒ジャン。特に夏休み中なんてアブナイよ、カワイイ桃ちゃんが誘拐とかカツアゲとかされたらって思うと、パパ心配なんだもん」
「カツアゲなんてされないよ」
「そりゃー桃ちゃんはパパの次くらいに強いから、そんな連中鼻にも引っかけないかもしれないけど。でもカワイイ桃ちゃんの顔に向こう傷でも出来たら、パパはショックで寝込んじゃうぜ? それに、いざとなったら人質を生かしているフリをして殺しちゃうようなのが最近はいっぱいウロウロしてるみたいだし。ゼミなんて特に見知らぬ連中が簡単に混ざるから、特にキケンじゃん!」

 僕は小学生の時に、大物ミュージシャンの子供という肩書き(?)の所為で、誘拐され掛けた事がある。
 学習塾からの帰り道は遅くなるので、他の家の子達はほとんどが母親が車で送迎していたし、ウチも親父の付き人が僕の送迎をしてくれていた。
 でも親父の付き人は「親父の面倒を見る」のが本来の仕事だから、僕の送迎は「オマケのついで」程度でしかなく、僕もついでの順番を待たされるくらいなら、さっさと一人で帰った方が気楽だったのだ。
 そこを狙ってきた犯人は、乗用車で乗り付けてきて僕に声を掛け、僕が車に乗ろうとしないと、力ずくで車内に押し込めようとした。
 でも前述の通り僕は親父似のトラブルメーカー気質をしていたし、その頃はまだ自分の性質に「問題アリ」の自覚もなかったから、習ったばかりの護身術を振るった。
 拳法を習い始めて間もない子供だったから、習ったワザを試す機会に遭遇して喜びいさんで会心のキンケリをカマし、さっさと逃げてきて事なきを得たんだけど。
 その一件から親父は僕の外出を過度に警戒するようになり、GPS携帯を持たされたり、遠出をする時はボディガードまで付けられるようになった。
 子供の親としてはあたりまえの反応だったと思うけど、でも僕はもう小さな子供じゃないし、この歳に至って昼日中ゼミに通う事まで干渉されるのは、ただの迷惑でしかない。

「シノさんってホントに子煩悩ですね~」

 のほほんとした顔で、神巫ハルカはそんなコメントをしている。
 でもそこは「シノさんっていいかげん親バカですね」と突っ込むべきところだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...