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第99話
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相変わらず、神巫は「再校」の印を付けられた書類と睨み合っていた。
いい加減うんざりしてはいたが、根を上げるつもりもない。
本当の事を言えば、先日の夜に柊一にこの現状を訴えたく無かった訳ではない。
だが、柊一に手を貸して貰ってしまうと、それは自分の敗北になるような気がした。
仕事と私事を一緒に考えるつもりはないが、多聞はハッキリと柊一への好意を表明しているし、それに関しては神巫に宣戦布告もしてきている。
仕事にかこつけて多聞が嫌がらせをしてきているとしても、そこで柊一に助けを求めたら、多聞に蔑まれるのは明らかだった。
柊一は、多聞に知られたくないと神巫が頼めば、多分決してそれを口にしたりはしないだろう。
しかし、隠して柊一に手を貸して貰ったとなると、今度は神巫自身が負い目を感じるに違いない。
どうあっても、これは多聞と神巫との問題であり、対決なのだ。
深夜の企画室は神巫だけが残っていて、珍しく多聞も先に引き上げていた。
「あら、てっきり残ってるのはチーフだと思ったのに!」
不意に扉が開いたと思ったら、入ってきたのは市ヶ谷だった。
「あ、遅くまでご苦労様です」
「それはコッチの台詞よ~。どう? 順調?」
「あんまり、順風満帆とは言いがたいッスね。それより市ヶ谷サンこそ、こんな遅くまでどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ~。やっぱり企画の奇才が一目置くだけの事はあるわよね、東雲サンって。私的にはかなりの難題をふっかけたつもりだったんだけど、鼻であしらわれたわよ」
「難題って…、なにやったんす?」
「うん。通常エンディングの他に、裏エンディングのビアン物とか提案してみたりとか。途中のイベントも選択するパターンによって、成立するキャラの限定とか。結構やりたい放題っていうか、イブキムコンビのジョーダンみたいなリクエスト、全部頼んでみたの」
「乱暴なコト、しますねぇ」
なんだかんだ言った所で、常識と石頭が服を着て歩いているような柊一には、かなりのカルチャーショックだったのではないかと神巫は思わず想像してしまった。
「そしたらチーフ、それをたったの3日でプログラムしちゃったのよ? 一通り見せて貰ったけど、ほとんどリク通りに仕上がってて、びっくりしちゃった」
「じゃあ、そっちはもう目処が付いた……と?」
「まっさかぁ! この市ヶ谷巧実サンがそうおめおめと白旗あげると思う?」
「市ヶ谷さ~ん、あんまりチーフのコトいじめないでよ~?」
「あら、いじめてるんじゃないわよ。私がチャレンジしているの。いわば、チャンピオンに挑戦するアマチュアよね。…でも、東雲チーフってああ見えてホンットお堅いっていうか、恋愛のなんたるかは判ってない感じがして、それがちょっと意外だったけど」
「と、言うと?」
「うん。プログラムはリク通りに仕上げてくれてるんだけど、キャラがね、なんかちょっとぎこちないのよ。今までは私の書いた脚本を多聞チーフに渡すと、検品と修正されてから製作に回ってたでしょ? だから脚本の甘い所とか、そのままスルーだったんだけど。今まではきっと、こういう所を多聞チーフが修正してたのね。そういう意味では、スゴク勉強になるわ」
「市ヶ谷サンは、着々とレベルアップしてるんですねぇ」
「その様子じゃ、そっちは多聞チーフからなかなか盗めてない感じ?」
「盗むも何も、OKが一度も出てませんから」
「あら、酷い事態ねぇ?」
茶目っ気たっぷりの笑みを引っ込めて、市ヶ谷はそこに置かれていた指示書を手に取った。
いい加減うんざりしてはいたが、根を上げるつもりもない。
本当の事を言えば、先日の夜に柊一にこの現状を訴えたく無かった訳ではない。
だが、柊一に手を貸して貰ってしまうと、それは自分の敗北になるような気がした。
仕事と私事を一緒に考えるつもりはないが、多聞はハッキリと柊一への好意を表明しているし、それに関しては神巫に宣戦布告もしてきている。
仕事にかこつけて多聞が嫌がらせをしてきているとしても、そこで柊一に助けを求めたら、多聞に蔑まれるのは明らかだった。
柊一は、多聞に知られたくないと神巫が頼めば、多分決してそれを口にしたりはしないだろう。
しかし、隠して柊一に手を貸して貰ったとなると、今度は神巫自身が負い目を感じるに違いない。
どうあっても、これは多聞と神巫との問題であり、対決なのだ。
深夜の企画室は神巫だけが残っていて、珍しく多聞も先に引き上げていた。
「あら、てっきり残ってるのはチーフだと思ったのに!」
不意に扉が開いたと思ったら、入ってきたのは市ヶ谷だった。
「あ、遅くまでご苦労様です」
「それはコッチの台詞よ~。どう? 順調?」
「あんまり、順風満帆とは言いがたいッスね。それより市ヶ谷サンこそ、こんな遅くまでどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ~。やっぱり企画の奇才が一目置くだけの事はあるわよね、東雲サンって。私的にはかなりの難題をふっかけたつもりだったんだけど、鼻であしらわれたわよ」
「難題って…、なにやったんす?」
「うん。通常エンディングの他に、裏エンディングのビアン物とか提案してみたりとか。途中のイベントも選択するパターンによって、成立するキャラの限定とか。結構やりたい放題っていうか、イブキムコンビのジョーダンみたいなリクエスト、全部頼んでみたの」
「乱暴なコト、しますねぇ」
なんだかんだ言った所で、常識と石頭が服を着て歩いているような柊一には、かなりのカルチャーショックだったのではないかと神巫は思わず想像してしまった。
「そしたらチーフ、それをたったの3日でプログラムしちゃったのよ? 一通り見せて貰ったけど、ほとんどリク通りに仕上がってて、びっくりしちゃった」
「じゃあ、そっちはもう目処が付いた……と?」
「まっさかぁ! この市ヶ谷巧実サンがそうおめおめと白旗あげると思う?」
「市ヶ谷さ~ん、あんまりチーフのコトいじめないでよ~?」
「あら、いじめてるんじゃないわよ。私がチャレンジしているの。いわば、チャンピオンに挑戦するアマチュアよね。…でも、東雲チーフってああ見えてホンットお堅いっていうか、恋愛のなんたるかは判ってない感じがして、それがちょっと意外だったけど」
「と、言うと?」
「うん。プログラムはリク通りに仕上げてくれてるんだけど、キャラがね、なんかちょっとぎこちないのよ。今までは私の書いた脚本を多聞チーフに渡すと、検品と修正されてから製作に回ってたでしょ? だから脚本の甘い所とか、そのままスルーだったんだけど。今まではきっと、こういう所を多聞チーフが修正してたのね。そういう意味では、スゴク勉強になるわ」
「市ヶ谷サンは、着々とレベルアップしてるんですねぇ」
「その様子じゃ、そっちは多聞チーフからなかなか盗めてない感じ?」
「盗むも何も、OKが一度も出てませんから」
「あら、酷い事態ねぇ?」
茶目っ気たっぷりの笑みを引っ込めて、市ヶ谷はそこに置かれていた指示書を手に取った。
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