ワーカホリックな彼の秘密

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第96話

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 取り残された神巫は、重い気持ちを引きずるようにして企画室の扉を開ける。
 製作室と企画室は、部屋の広さも機械の配置もどことなく似ていたが、製作のそれに比べると企画室はパソコンの数がやや少なく、その代わりに製作室には無いライトテーブルが置かれていた。
 製作はもっぱらゲームのプログラムをするのが仕事だが、企画はゲームのストーリー展開やキャラクターデザインなどをするのが主なので、アナログ作業の作画用に機材があるのだ。
 窓に近い部屋の奥は、製作室の時は柊一が座っていた場所に企画室は多聞が座っている。
 そして製作では青山が居た位置が、現在神巫が仕事をする為の席にあてがわれていた。
 別の言い方をすれば、常に多聞の視界の中に入る場所で仕事をしている訳だ。
 溜息を吐きながら、一つだけ空けておいて貰えたデスクの引き出しをあけて、カバンをそこに放り込む。
 デスクの上には、昨日帰りがけに多聞に提出した書類が「再校」のハンコをつかれた状態で置かれていた。
 それを見て、神巫はまたしても深々と溜息を吐いた。
 実を言えば、この「再校」は「再」と「校」の間に「々」がいくつ入っているか、考えたくもない状態なのだ。
 つまり、わざわざ指名までされてプログラムをやるように指示されたにも関わらず、神巫が提出したプログラムにOKが出た事は、まだ一度もなかった。
 確かにこちらに出向く前に、柊一に「10回でOKが出たら良いと思え」とクギを刺されてはいるが、既に17回にも上る「返品」に、いい加減ウンザリしている。
 しかも、それがただ「ココがダメだ」とか「××が気に入らない」と言った注釈付きで戻された物ならまだしも、戻される時にはただ「再校(正確には要再校正)」と書かれたメモが貼ってあるだけ…なのだ。
 無論多聞に向かって「何処が悪いのか?」と訊ねた事もあるが、「ダメだから」と一言で済まされて、具体的な説明は何一つして貰えなかった。
 食い下がっても無碍に返事は貰えないし、実際の所、単に嫌がらせかもしくはイジメがしたく自分を指名したんじゃ無かろうか? と疑いたくもなる。
 だとしたら、どんなシステムを組んだ所で全部却下されるのが目に見えているのだから、ヤル気も削がれるという物だろう。
 かといって、どんな物を出した所で認められないからと手を抜けば、この程度の実力しかないと思われる。
 それもまたシャクに障った。
 確かに今は、多聞にのみプログラムを見られているが。
 社全体で推進しているプロジェクトである以上は、あまり進展が見られなければ時間の経過と共になにがしかの動きが出る。
 多聞がいくら「神巫が無能だった」と主張したとしても、プログラムが手抜きをしないで作ってあれば、それを見るべき人間が見れば判るだろう。
 どっちにして、多聞以外の誰かに判定をして貰えるチャンスが全く無いワケでもないのだから、ヤル気は削がれているがやらないワケにも行かない。
 もう一度溜息を吐いて、神巫はデスクの上の書類を手に取った。
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