97 / 107
第96話
しおりを挟む
取り残された神巫は、重い気持ちを引きずるようにして企画室の扉を開ける。
製作室と企画室は、部屋の広さも機械の配置もどことなく似ていたが、製作のそれに比べると企画室はパソコンの数がやや少なく、その代わりに製作室には無いライトテーブルが置かれていた。
製作はもっぱらゲームのプログラムをするのが仕事だが、企画はゲームのストーリー展開やキャラクターデザインなどをするのが主なので、アナログ作業の作画用に機材があるのだ。
窓に近い部屋の奥は、製作室の時は柊一が座っていた場所に企画室は多聞が座っている。
そして製作では青山が居た位置が、現在神巫が仕事をする為の席にあてがわれていた。
別の言い方をすれば、常に多聞の視界の中に入る場所で仕事をしている訳だ。
溜息を吐きながら、一つだけ空けておいて貰えたデスクの引き出しをあけて、カバンをそこに放り込む。
デスクの上には、昨日帰りがけに多聞に提出した書類が「再校」のハンコをつかれた状態で置かれていた。
それを見て、神巫はまたしても深々と溜息を吐いた。
実を言えば、この「再校」は「再」と「校」の間に「々」がいくつ入っているか、考えたくもない状態なのだ。
つまり、わざわざ指名までされてプログラムをやるように指示されたにも関わらず、神巫が提出したプログラムにOKが出た事は、まだ一度もなかった。
確かにこちらに出向く前に、柊一に「10回でOKが出たら良いと思え」とクギを刺されてはいるが、既に17回にも上る「返品」に、いい加減ウンザリしている。
しかも、それがただ「ココがダメだ」とか「××が気に入らない」と言った注釈付きで戻された物ならまだしも、戻される時にはただ「再校(正確には要再校正)」と書かれたメモが貼ってあるだけ…なのだ。
無論多聞に向かって「何処が悪いのか?」と訊ねた事もあるが、「ダメだから」と一言で済まされて、具体的な説明は何一つして貰えなかった。
食い下がっても無碍に返事は貰えないし、実際の所、単に嫌がらせかもしくはイジメがしたく自分を指名したんじゃ無かろうか? と疑いたくもなる。
だとしたら、どんなシステムを組んだ所で全部却下されるのが目に見えているのだから、ヤル気も削がれるという物だろう。
かといって、どんな物を出した所で認められないからと手を抜けば、この程度の実力しかないと思われる。
それもまたシャクに障った。
確かに今は、多聞にのみプログラムを見られているが。
社全体で推進しているプロジェクトである以上は、あまり進展が見られなければ時間の経過と共になにがしかの動きが出る。
多聞がいくら「神巫が無能だった」と主張したとしても、プログラムが手抜きをしないで作ってあれば、それを見るべき人間が見れば判るだろう。
どっちにして、多聞以外の誰かに判定をして貰えるチャンスが全く無いワケでもないのだから、ヤル気は削がれているがやらないワケにも行かない。
もう一度溜息を吐いて、神巫はデスクの上の書類を手に取った。
製作室と企画室は、部屋の広さも機械の配置もどことなく似ていたが、製作のそれに比べると企画室はパソコンの数がやや少なく、その代わりに製作室には無いライトテーブルが置かれていた。
製作はもっぱらゲームのプログラムをするのが仕事だが、企画はゲームのストーリー展開やキャラクターデザインなどをするのが主なので、アナログ作業の作画用に機材があるのだ。
窓に近い部屋の奥は、製作室の時は柊一が座っていた場所に企画室は多聞が座っている。
そして製作では青山が居た位置が、現在神巫が仕事をする為の席にあてがわれていた。
別の言い方をすれば、常に多聞の視界の中に入る場所で仕事をしている訳だ。
溜息を吐きながら、一つだけ空けておいて貰えたデスクの引き出しをあけて、カバンをそこに放り込む。
デスクの上には、昨日帰りがけに多聞に提出した書類が「再校」のハンコをつかれた状態で置かれていた。
それを見て、神巫はまたしても深々と溜息を吐いた。
実を言えば、この「再校」は「再」と「校」の間に「々」がいくつ入っているか、考えたくもない状態なのだ。
つまり、わざわざ指名までされてプログラムをやるように指示されたにも関わらず、神巫が提出したプログラムにOKが出た事は、まだ一度もなかった。
確かにこちらに出向く前に、柊一に「10回でOKが出たら良いと思え」とクギを刺されてはいるが、既に17回にも上る「返品」に、いい加減ウンザリしている。
しかも、それがただ「ココがダメだ」とか「××が気に入らない」と言った注釈付きで戻された物ならまだしも、戻される時にはただ「再校(正確には要再校正)」と書かれたメモが貼ってあるだけ…なのだ。
無論多聞に向かって「何処が悪いのか?」と訊ねた事もあるが、「ダメだから」と一言で済まされて、具体的な説明は何一つして貰えなかった。
食い下がっても無碍に返事は貰えないし、実際の所、単に嫌がらせかもしくはイジメがしたく自分を指名したんじゃ無かろうか? と疑いたくもなる。
だとしたら、どんなシステムを組んだ所で全部却下されるのが目に見えているのだから、ヤル気も削がれるという物だろう。
かといって、どんな物を出した所で認められないからと手を抜けば、この程度の実力しかないと思われる。
それもまたシャクに障った。
確かに今は、多聞にのみプログラムを見られているが。
社全体で推進しているプロジェクトである以上は、あまり進展が見られなければ時間の経過と共になにがしかの動きが出る。
多聞がいくら「神巫が無能だった」と主張したとしても、プログラムが手抜きをしないで作ってあれば、それを見るべき人間が見れば判るだろう。
どっちにして、多聞以外の誰かに判定をして貰えるチャンスが全く無いワケでもないのだから、ヤル気は削がれているがやらないワケにも行かない。
もう一度溜息を吐いて、神巫はデスクの上の書類を手に取った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる