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第93話
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柊一がいつもと同じように、朝の準備を整えて自分のマシンに向かっていると、予想よりも早い時刻にドアが開いて誰かが部屋に入ってきた。
「おはようございます、東雲チーフ。製作の人って朝早いんですね」
「ああ、おはよう、市ヶ谷君。…早いって、キミが1番最初だけど?」
「だって、室内のマシンが全部起動されてるじゃないですか。企画は自分のマシンは起動からシャットダウンまで個人責任ですけど?」
「う~ん、俺は待たされるの嫌いなせっかちだからね。来たら直ぐに仕事に取りかかって貰いたいから」
「それじゃあ、私はどこで仕事しましょう?」
柊一は席を立つと、神巫の席に市ヶ谷を案内した。
「ココ、なんだけど。でも、まだゆっくりしてていいよ。タケシとフミアキ……いや、青山と広尾が来たらミーティングしなきゃならないし、市ヶ谷君との仕事はその後に落ち着いてから進めたいんで」
「判りました。それじゃあ私、ちょっと給湯室行ってきます。東雲チーフは、コーヒーブラックですか?」
「ええ? そんな悪いよ」
「構いませんよ、企画室じゃ年中お茶汲みやってますから」
柊一が一瞬答えに詰まっていると、ドアが開いて広尾が出勤してきた。
「おはようございます。あ、タクミちゃんおはよう」
「おはよう、広尾クン。コーヒーの好みは?」
「ええっ? あ、俺はブラックだけど……。いきなり、朝っぱらから何事?」
「広尾クン達が出勤してきてミーティングが終わるまで、私やることなさそうなんだもの。ついでにコーヒー煎れてきてあげようと思って。ちなみ東雲チーフの好み知ってる?」
「え……? でも……」
さしずめ青山ならケロッと答えるだろうが、真面目な広尾は一瞬チラッと柊一に振り返った。
「市ヶ谷君、企画でもホントにお茶汲みなんてしてたの?」
「ん~、時々…ですけど。でも、チーフの好みとか嗜好をちょっとでも良いから調べてきて~って、イブキムに頼まれちゃってるんですよ」
見透かされる事を予想していたかのように、市ヶ谷はペロッと舌を出す。
「タクミちゃん、総務の女の子とそんなに懇意にしてたの?」
「あっら~、失礼しちゃうわね、広尾クン。それじゃあまるで、私に同性の友達がいないみたいじゃないの?」
「そ…そんな事は言ってないけど…。でも総務の女の子達ってミーハーって言うか、タクミちゃんとはあんまり接点なさそーだから…」
しどろもどろの広尾に追い打ちを掛けようと口を開き掛けた市ヶ谷を、柊一が制する。
「市ヶ谷君、そーいうのやめてくれる?」
「ええ、チーフがヤがるのは予想してましたけど、でもコレって原因はチーフにあるんですよ?」
「俺に?」
「だって、東雲チーフってば、あまりにもガードが厳しいでしょう? それでいて、決まったガールフレンドの影でもあれば別ですけど。そんなんだから、ミステリアス・プリンスとか呼ばれちゃうんですよ?」
予想外の反撃…というよりは、想像もしなかった奇天烈な単語が飛び出してきて、柊一は戸惑った。
「……………なんだって?」
「ちょっと、タクミちゃん。ウチのチーフは免疫が無いからそー言うコトを前触れもなく教えちゃダメだよ…」
「あら? そうなの?」
「つーか、なんなんだよ、その………」
「ミステリアス・プリンスですか? 秘密が多い上に、高嶺の花だと思われているんですよ。それにチーフは人見知りするって言うか、総務や営業に出向いても取締役や松原チーフとしか口利かないでしょう? 余計に彼女らに勘ぐられるって言うか、ミーハーな話題の的にされちゃってるんです。気をつけた方が良いですよ。じゃあ私、ちょっと給湯室にいってきます~」
ニッコリ笑って市ヶ谷が部屋を出た所で、柊一は溜息とも安堵とも付かない息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「え? ああ…別に………」
伺うようにこちらを見やる広尾に、柊一は慌てて繕ったような笑みを向けた。
「おはようございま~す。早速タクミちゃん来たみたいですね。やっぱり職場に女の子がいると華やかだなぁ」
扉が開き、青山が部屋に入ってくる。
何も知らない青山は、明るく笑いながらカバンを自分の席に置いた。
「知らぬはタケシばかりなり……か」
柊一の一部始終を見ていた広尾が、ボソッと呟く。
「はぁ?」
「タケシ、フミアキ。チャッチャとミーティング済ませるぞ」
青山が広尾に問い掛ける前に、柊一は指示書を手に取ると招集を掛けた。
席が離れていると不都合が出てくる事が判り、結局市ヶ谷は柊一の隣に席を置く事になった。
「おはようございます、東雲チーフ。製作の人って朝早いんですね」
「ああ、おはよう、市ヶ谷君。…早いって、キミが1番最初だけど?」
「だって、室内のマシンが全部起動されてるじゃないですか。企画は自分のマシンは起動からシャットダウンまで個人責任ですけど?」
「う~ん、俺は待たされるの嫌いなせっかちだからね。来たら直ぐに仕事に取りかかって貰いたいから」
「それじゃあ、私はどこで仕事しましょう?」
柊一は席を立つと、神巫の席に市ヶ谷を案内した。
「ココ、なんだけど。でも、まだゆっくりしてていいよ。タケシとフミアキ……いや、青山と広尾が来たらミーティングしなきゃならないし、市ヶ谷君との仕事はその後に落ち着いてから進めたいんで」
「判りました。それじゃあ私、ちょっと給湯室行ってきます。東雲チーフは、コーヒーブラックですか?」
「ええ? そんな悪いよ」
「構いませんよ、企画室じゃ年中お茶汲みやってますから」
柊一が一瞬答えに詰まっていると、ドアが開いて広尾が出勤してきた。
「おはようございます。あ、タクミちゃんおはよう」
「おはよう、広尾クン。コーヒーの好みは?」
「ええっ? あ、俺はブラックだけど……。いきなり、朝っぱらから何事?」
「広尾クン達が出勤してきてミーティングが終わるまで、私やることなさそうなんだもの。ついでにコーヒー煎れてきてあげようと思って。ちなみ東雲チーフの好み知ってる?」
「え……? でも……」
さしずめ青山ならケロッと答えるだろうが、真面目な広尾は一瞬チラッと柊一に振り返った。
「市ヶ谷君、企画でもホントにお茶汲みなんてしてたの?」
「ん~、時々…ですけど。でも、チーフの好みとか嗜好をちょっとでも良いから調べてきて~って、イブキムに頼まれちゃってるんですよ」
見透かされる事を予想していたかのように、市ヶ谷はペロッと舌を出す。
「タクミちゃん、総務の女の子とそんなに懇意にしてたの?」
「あっら~、失礼しちゃうわね、広尾クン。それじゃあまるで、私に同性の友達がいないみたいじゃないの?」
「そ…そんな事は言ってないけど…。でも総務の女の子達ってミーハーって言うか、タクミちゃんとはあんまり接点なさそーだから…」
しどろもどろの広尾に追い打ちを掛けようと口を開き掛けた市ヶ谷を、柊一が制する。
「市ヶ谷君、そーいうのやめてくれる?」
「ええ、チーフがヤがるのは予想してましたけど、でもコレって原因はチーフにあるんですよ?」
「俺に?」
「だって、東雲チーフってば、あまりにもガードが厳しいでしょう? それでいて、決まったガールフレンドの影でもあれば別ですけど。そんなんだから、ミステリアス・プリンスとか呼ばれちゃうんですよ?」
予想外の反撃…というよりは、想像もしなかった奇天烈な単語が飛び出してきて、柊一は戸惑った。
「……………なんだって?」
「ちょっと、タクミちゃん。ウチのチーフは免疫が無いからそー言うコトを前触れもなく教えちゃダメだよ…」
「あら? そうなの?」
「つーか、なんなんだよ、その………」
「ミステリアス・プリンスですか? 秘密が多い上に、高嶺の花だと思われているんですよ。それにチーフは人見知りするって言うか、総務や営業に出向いても取締役や松原チーフとしか口利かないでしょう? 余計に彼女らに勘ぐられるって言うか、ミーハーな話題の的にされちゃってるんです。気をつけた方が良いですよ。じゃあ私、ちょっと給湯室にいってきます~」
ニッコリ笑って市ヶ谷が部屋を出た所で、柊一は溜息とも安堵とも付かない息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「え? ああ…別に………」
伺うようにこちらを見やる広尾に、柊一は慌てて繕ったような笑みを向けた。
「おはようございま~す。早速タクミちゃん来たみたいですね。やっぱり職場に女の子がいると華やかだなぁ」
扉が開き、青山が部屋に入ってくる。
何も知らない青山は、明るく笑いながらカバンを自分の席に置いた。
「知らぬはタケシばかりなり……か」
柊一の一部始終を見ていた広尾が、ボソッと呟く。
「はぁ?」
「タケシ、フミアキ。チャッチャとミーティング済ませるぞ」
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