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第92話
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「それは、俺じゃなくて神巫にツケといてくれ」
「ちょ、チーフ! それって俺が雪隠詰めになってるののフォローになってないッスよ!」
「そんなモン、読んだ端から資料室に戻せば直ぐ広くなるだろう?」
サラッと切り替えされて、神巫は絶句するしかない。
「まーまー、そんな顔しないの。むしろコレは、ハルカのわだかまりを一掃する、良いチャンスかもしれないよ?」
「どーいう意味ッスか?」
「つまり~、ハルカは多聞サンにあんまり良い印象無いんでしょ~? だから今回の仕事でガツンと一発カマせれば、多聞サンだってハルカに一目置くんじゃないの?」
いきなり多聞に叱り飛ばされて、神巫が不満を漏らした…ところまでしか把握していない青山からすれば、事態はそれで収まると本気で思っているが。
しかし、きっぱりと柊一を巡っての恋敵として、神巫は多聞から明らかな宣戦布告をされている。
例え多聞を唸らせるようなプログラムを完成させても、評価をされないんじゃないかとすら疑いたくなった。
「言っておくがな、神巫」
青山の揶揄に、柊一が少し真面目な顔で振り返った。
「なんすか?」
「プログラムをレンに見せて、10回でOKが出たらラッキーだと思え」
「は?」
キョトンとした神巫に、青山が人差し指を振ってみせる。
「1発OK校了するなんて、思うなってコトだよ。ねぇ、シノさん?」
「いや、脅しでもなんでもなくて。10回でOKが出たらラッキーだ」
「ええ~? マジな数字で10回ですか?」
「最低で10回だ。出来ると見込まれたら何回でも突き返されるから、そのつもりで覚悟してかかれよ」
「…か…覚悟しておきます」
「うん。まぁ、あっちもわざわざ指名してきたぐらいだから、神巫の能力を買ってる証拠だろうし。…シゴかれるのはある程度覚悟して、そんなに意気込まずに取り組んでこい」
「はぁ…」
「それから明日からは企画室に出勤して、進行その他の指示は企画室のチーフ…すなわちレンに仰ぐ事」
「ええ~、それじゃあ俺、企画室に移動みたいじゃないッスかぁ!」
「まぁ、あながち否定も出来ないな。オマエのデスクは、明日から市ヶ谷君が使うからきちんと片付けておけよ」
「うっわ~、タクミちゃんとハルカでトレード!」
「そんでタクミちゃん、こっちでなにするンですか?」
「もちろん、企画の進行をする。先日のゲームショウで今度のRPGがマンネリ化してきてるんじゃないか…ってユーザーから指摘があったんでな。マンネリ打破の為に、俺とレンがそれぞれ別の相方を使ってみるって話になったんだ」
「それが成功したら、もう多聞・東雲コンビのリリースは止めるんですか?」
「いや、コレはつまり俺とレンに対するテコ入れの意味もあるけれど、俺とレン…というかウチのやり方を周到しつつも新しい方向に開拓していこう…っていう試みなんだ。だから例えばコレで上手くいったら、今度は市ヶ谷君と神巫で新しいタイトルを進行して貰う…ってのもありえるな。つまり、そろそろ俺とレンっていう看板だけじゃ、業績に行き詰まってきてるってコト」
「ってコトは、ハルカってば三等兵の分際でシノさんと2枚看板張るンです?」
「上手くいけばな」
「ヒロ~、俺達出し抜かれちゃったよ~」
柊一の返事に、青山はことさら大仰によろけてみせる。
「ホントだよなぁ。人生楽ありゃ苦もあるさ~だな」
青山のおどけた発言に合わせるように、広尾もまたふざけた調子で答えを返した。
「くじけりゃ誰かが先に行くって? 俺くじけてた記憶無いんですけど~?」
「今回の試みが上手くいったら、レンのプログラムをタケシやフミアキが担当したり、俺が企画の若いのの脚本をプログラムしてみる…なんて話も出てる。レンが神巫を指名してきたのも事実だが、俺は市ヶ谷君とのプロジェクトを進行しなきゃならん。ぶっちゃけ、タケシかフミアキが今そっちのお試しに引き抜かれたら、製作の仕事が全部行き詰まるぞ」
「ああ、余り物なんですね?」
ニッと笑う青山に、神巫は深々と溜息を吐いて見せた。
「あの~、そこまで継子扱いされたらさすがに拗ねたいんですけど」
「大抜擢が何を言うか」
「そーそー、俺らの分までアピール出来るように、しっかりやってくれよ。製作室シモジモ代表君」
「下々は余計だが、製作室代表ってのはあながち間違ってないからな。頑張ってこい」
柊一にそう言われては、神巫も観念するしかない。
「解りました。それでは、全てはこの神巫悠にお任せ下さい!」
「おお、よく言った!」
青山と広尾が拍手をすると、柊一はちょっと呆れたような顔をしたが、それでも最後に神巫に向かってエールを送るように微笑んで見せた。
「ちょ、チーフ! それって俺が雪隠詰めになってるののフォローになってないッスよ!」
「そんなモン、読んだ端から資料室に戻せば直ぐ広くなるだろう?」
サラッと切り替えされて、神巫は絶句するしかない。
「まーまー、そんな顔しないの。むしろコレは、ハルカのわだかまりを一掃する、良いチャンスかもしれないよ?」
「どーいう意味ッスか?」
「つまり~、ハルカは多聞サンにあんまり良い印象無いんでしょ~? だから今回の仕事でガツンと一発カマせれば、多聞サンだってハルカに一目置くんじゃないの?」
いきなり多聞に叱り飛ばされて、神巫が不満を漏らした…ところまでしか把握していない青山からすれば、事態はそれで収まると本気で思っているが。
しかし、きっぱりと柊一を巡っての恋敵として、神巫は多聞から明らかな宣戦布告をされている。
例え多聞を唸らせるようなプログラムを完成させても、評価をされないんじゃないかとすら疑いたくなった。
「言っておくがな、神巫」
青山の揶揄に、柊一が少し真面目な顔で振り返った。
「なんすか?」
「プログラムをレンに見せて、10回でOKが出たらラッキーだと思え」
「は?」
キョトンとした神巫に、青山が人差し指を振ってみせる。
「1発OK校了するなんて、思うなってコトだよ。ねぇ、シノさん?」
「いや、脅しでもなんでもなくて。10回でOKが出たらラッキーだ」
「ええ~? マジな数字で10回ですか?」
「最低で10回だ。出来ると見込まれたら何回でも突き返されるから、そのつもりで覚悟してかかれよ」
「…か…覚悟しておきます」
「うん。まぁ、あっちもわざわざ指名してきたぐらいだから、神巫の能力を買ってる証拠だろうし。…シゴかれるのはある程度覚悟して、そんなに意気込まずに取り組んでこい」
「はぁ…」
「それから明日からは企画室に出勤して、進行その他の指示は企画室のチーフ…すなわちレンに仰ぐ事」
「ええ~、それじゃあ俺、企画室に移動みたいじゃないッスかぁ!」
「まぁ、あながち否定も出来ないな。オマエのデスクは、明日から市ヶ谷君が使うからきちんと片付けておけよ」
「うっわ~、タクミちゃんとハルカでトレード!」
「そんでタクミちゃん、こっちでなにするンですか?」
「もちろん、企画の進行をする。先日のゲームショウで今度のRPGがマンネリ化してきてるんじゃないか…ってユーザーから指摘があったんでな。マンネリ打破の為に、俺とレンがそれぞれ別の相方を使ってみるって話になったんだ」
「それが成功したら、もう多聞・東雲コンビのリリースは止めるんですか?」
「いや、コレはつまり俺とレンに対するテコ入れの意味もあるけれど、俺とレン…というかウチのやり方を周到しつつも新しい方向に開拓していこう…っていう試みなんだ。だから例えばコレで上手くいったら、今度は市ヶ谷君と神巫で新しいタイトルを進行して貰う…ってのもありえるな。つまり、そろそろ俺とレンっていう看板だけじゃ、業績に行き詰まってきてるってコト」
「ってコトは、ハルカってば三等兵の分際でシノさんと2枚看板張るンです?」
「上手くいけばな」
「ヒロ~、俺達出し抜かれちゃったよ~」
柊一の返事に、青山はことさら大仰によろけてみせる。
「ホントだよなぁ。人生楽ありゃ苦もあるさ~だな」
青山のおどけた発言に合わせるように、広尾もまたふざけた調子で答えを返した。
「くじけりゃ誰かが先に行くって? 俺くじけてた記憶無いんですけど~?」
「今回の試みが上手くいったら、レンのプログラムをタケシやフミアキが担当したり、俺が企画の若いのの脚本をプログラムしてみる…なんて話も出てる。レンが神巫を指名してきたのも事実だが、俺は市ヶ谷君とのプロジェクトを進行しなきゃならん。ぶっちゃけ、タケシかフミアキが今そっちのお試しに引き抜かれたら、製作の仕事が全部行き詰まるぞ」
「ああ、余り物なんですね?」
ニッと笑う青山に、神巫は深々と溜息を吐いて見せた。
「あの~、そこまで継子扱いされたらさすがに拗ねたいんですけど」
「大抜擢が何を言うか」
「そーそー、俺らの分までアピール出来るように、しっかりやってくれよ。製作室シモジモ代表君」
「下々は余計だが、製作室代表ってのはあながち間違ってないからな。頑張ってこい」
柊一にそう言われては、神巫も観念するしかない。
「解りました。それでは、全てはこの神巫悠にお任せ下さい!」
「おお、よく言った!」
青山と広尾が拍手をすると、柊一はちょっと呆れたような顔をしたが、それでも最後に神巫に向かってエールを送るように微笑んで見せた。
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