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第89話
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「………レン、昨日の夜のコトなんだが……」
「ん?」
「俺がオマエん家にいるってコトは、オマエが昨日、泥酔した俺を運んできたってコトだよな?」
「そうだよ? 覚えてないの?」
「……いや、……少しは覚えてるよ」
「そう。…じゃあ、シノさんが俺に抱きついてきたのは?」
「なんだってっ?」
「鼻に掛かった甘~い声で俺の名前を呼びながら、俺の肩にこう……手を回して」
「う……嘘をつくな、嘘を!」
「嘘じゃないよ」
「オマエ、俺がなんにも覚えてないと思って、デタラメ言ってンだろう!」
「覚えてないの? 先刻、覚えてるって言ったじゃんか?」
ニイッと意地の悪い笑みを浮かべられて、柊一はなにも言い返せなくなってしまう。
「大体、二日酔いで頭イタイのに、そんな大声出して平気なの?」
「ウルサイ!」
指摘されるまでもなく、眉間の辺りがガンガンする。
「でも、今日が休みで良かったよね~? 出勤だったら、部下にその酷い顔見せなきゃならないよ?」
「今日が出勤だったら、いっそ昨日は飲みを断れたんだ」
「それもそうか? じゃあ次からは、平日の真ん中にやって貰うコトにしようか? きっとその方が、ショーゴさんも喜ぶよね? 新田サンはガッカリかもだけど」
「日程組んでるの新田サンだから、言ったところで実現はしねェだろ……」
「でも3回に1回くらいは実現するかもじゃん。言うだけなら、別に問題ないでしょ~?」
なんとなく他愛のない会話を交わしている状態に、柊一はひどく不思議な気がして仕方がなかった。
自分には昨夜の記憶が無く、多聞はまるで2人の間にナニカがあったかのような物言いをしている。
本来ならその事を聞き質さなければならないはずなのに、うやむやのまま自分は日常と同じように多聞と接している。
もちろんわざわざ角を立てたい訳でもないが、しかし自分と多聞の会話は客観的に見たら「馴れ合い」そのものだ。
「どうしたの?」
「……ホントは、なんにもなかったんだろ?」
「誘ってきたのは、シノさんだって言ってるじゃん」
「嘘をつくな、嘘を!」
「嘘じゃないよ」
「オマエ、俺がなんにも覚えてないと思って、デタラメ言ってンだろう!」
「シノさん、それ先刻も言った」
柊一は深々と溜息を吐く。
「大丈夫だよ、コレは事故だからカウントには入れないでおくし」
「なんだよ、カウントって!」
「ああ、ワカゾーにも黙っててあげるから」
「は? 誰?」
「カンナギハルカ」
「………………………………………」
「………シノさん、さぁ……」
「なんだよ?」
「俺、てっきりシノさんが赤くなると思ってたんですけど?」
「俺の顔色は何色だ?」
「それ、フツー俺に訊く?」
「じゃー、他に誰に訊くんだよ? この状況で」
今度は多聞が溜息を吐いた。
「なんか、アマチシゲルみたいに眉間にシワ寄せて、まるで対処に困るクレーム電話受けちゃったみたいな顔してるけど?」
「そのとーりの心境だからな」
「俺、別にあのワカゾーに自慢しに行ったりなんてしないよ? つーか、本音言わせて貰うなら口も利きたくないし、顔も見たくない」
「オマエがいちいち、神巫にチクリに行くとは思ってねェよ」
「じゃあ、その表情のココロは?」
「別に………」
半ば舌打ちでもするように顔を背けた柊一に、多聞はちょっとつまらなそうに口を尖らせた。
「そーいえばさぁ、この間の事件でうやむやになっちゃった、シノさんに作ってもらったテストパターンあるじゃん?」
「うん? ああ、アレがどうかしたか?」
「ちょこっと手を加えて見たんだけど、次回にちょっと使ってみようかと思うんだ?」
「使うったって、どこに? 次回ってRPGの話だろ? アクションパズルならともかく……」
「サブゲーム。ちょっとクセのあるパターン組めば、往年のインベーダーゲームちっくな単純さでやりこみにハマるゲームになると思うんだ。それでゲーマー評が良かったら、単独でアクションパズルにしてリリースしよう」
「最初から2匹目のドジョウ狙ってどうするんだよ?」
「今時の商売、そんなモンでしょ? あ、サブゲームのプログラムはシノさんにやって貰うけど、もし単独でリリース出来そうならメインプログラマーにカンナギ使いたいな」
「オマエ、神巫キライなんだろう?」
「俺、公私の混同はしないから」
「よく言うよ!」
呆れ返った柊一に、多聞はニイッと笑ってみせる。
ここまで状況が日常になってしまうと、逆に昨夜の事を聞き質しづらくなる。
柊一は大きく溜息を吐いた。
「ん?」
「俺がオマエん家にいるってコトは、オマエが昨日、泥酔した俺を運んできたってコトだよな?」
「そうだよ? 覚えてないの?」
「……いや、……少しは覚えてるよ」
「そう。…じゃあ、シノさんが俺に抱きついてきたのは?」
「なんだってっ?」
「鼻に掛かった甘~い声で俺の名前を呼びながら、俺の肩にこう……手を回して」
「う……嘘をつくな、嘘を!」
「嘘じゃないよ」
「オマエ、俺がなんにも覚えてないと思って、デタラメ言ってンだろう!」
「覚えてないの? 先刻、覚えてるって言ったじゃんか?」
ニイッと意地の悪い笑みを浮かべられて、柊一はなにも言い返せなくなってしまう。
「大体、二日酔いで頭イタイのに、そんな大声出して平気なの?」
「ウルサイ!」
指摘されるまでもなく、眉間の辺りがガンガンする。
「でも、今日が休みで良かったよね~? 出勤だったら、部下にその酷い顔見せなきゃならないよ?」
「今日が出勤だったら、いっそ昨日は飲みを断れたんだ」
「それもそうか? じゃあ次からは、平日の真ん中にやって貰うコトにしようか? きっとその方が、ショーゴさんも喜ぶよね? 新田サンはガッカリかもだけど」
「日程組んでるの新田サンだから、言ったところで実現はしねェだろ……」
「でも3回に1回くらいは実現するかもじゃん。言うだけなら、別に問題ないでしょ~?」
なんとなく他愛のない会話を交わしている状態に、柊一はひどく不思議な気がして仕方がなかった。
自分には昨夜の記憶が無く、多聞はまるで2人の間にナニカがあったかのような物言いをしている。
本来ならその事を聞き質さなければならないはずなのに、うやむやのまま自分は日常と同じように多聞と接している。
もちろんわざわざ角を立てたい訳でもないが、しかし自分と多聞の会話は客観的に見たら「馴れ合い」そのものだ。
「どうしたの?」
「……ホントは、なんにもなかったんだろ?」
「誘ってきたのは、シノさんだって言ってるじゃん」
「嘘をつくな、嘘を!」
「嘘じゃないよ」
「オマエ、俺がなんにも覚えてないと思って、デタラメ言ってンだろう!」
「シノさん、それ先刻も言った」
柊一は深々と溜息を吐く。
「大丈夫だよ、コレは事故だからカウントには入れないでおくし」
「なんだよ、カウントって!」
「ああ、ワカゾーにも黙っててあげるから」
「は? 誰?」
「カンナギハルカ」
「………………………………………」
「………シノさん、さぁ……」
「なんだよ?」
「俺、てっきりシノさんが赤くなると思ってたんですけど?」
「俺の顔色は何色だ?」
「それ、フツー俺に訊く?」
「じゃー、他に誰に訊くんだよ? この状況で」
今度は多聞が溜息を吐いた。
「なんか、アマチシゲルみたいに眉間にシワ寄せて、まるで対処に困るクレーム電話受けちゃったみたいな顔してるけど?」
「そのとーりの心境だからな」
「俺、別にあのワカゾーに自慢しに行ったりなんてしないよ? つーか、本音言わせて貰うなら口も利きたくないし、顔も見たくない」
「オマエがいちいち、神巫にチクリに行くとは思ってねェよ」
「じゃあ、その表情のココロは?」
「別に………」
半ば舌打ちでもするように顔を背けた柊一に、多聞はちょっとつまらなそうに口を尖らせた。
「そーいえばさぁ、この間の事件でうやむやになっちゃった、シノさんに作ってもらったテストパターンあるじゃん?」
「うん? ああ、アレがどうかしたか?」
「ちょこっと手を加えて見たんだけど、次回にちょっと使ってみようかと思うんだ?」
「使うったって、どこに? 次回ってRPGの話だろ? アクションパズルならともかく……」
「サブゲーム。ちょっとクセのあるパターン組めば、往年のインベーダーゲームちっくな単純さでやりこみにハマるゲームになると思うんだ。それでゲーマー評が良かったら、単独でアクションパズルにしてリリースしよう」
「最初から2匹目のドジョウ狙ってどうするんだよ?」
「今時の商売、そんなモンでしょ? あ、サブゲームのプログラムはシノさんにやって貰うけど、もし単独でリリース出来そうならメインプログラマーにカンナギ使いたいな」
「オマエ、神巫キライなんだろう?」
「俺、公私の混同はしないから」
「よく言うよ!」
呆れ返った柊一に、多聞はニイッと笑ってみせる。
ここまで状況が日常になってしまうと、逆に昨夜の事を聞き質しづらくなる。
柊一は大きく溜息を吐いた。
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