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第88話
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朝、柊一は窓から差し込んでくる日差しで目が覚めた。
「……………?」
見慣れない辺りの様子に戸惑って身体を起こすと、天地がひっくり返りそうな目眩に見舞われる。
それが単なる二日酔いに起因する頭痛と、それにともなう目眩だと判明するまでに数秒と掛からなかった。
ようやくの思いで辺りを見回すと、カーテンを開け放たれた窓は明るく、室内も綺麗に整頓されている。
「お目覚め?」
不意に声を掛けられて、ビックリして振り返ると多聞が立っていた。
「レン?」
「そう」
「ここ……オマエん家?」
「シノさんをウチに招待するのは、初めてだったっけ? まぁ、そんなコトはどうでもいいよ。朝ごはんの用意してあるから、服を着て、早く来なね」
「…服………?」
そう言われて、柊一は初めて自分が一糸纏わぬ姿である事に気付いた。
ベッドの傍には、きちんと畳まれた衣服が置かれている。
「ちょ………レ………っ!」
慌てて呼び止めると、多聞は立ち止まって振り返った。
「そのままで来ても良いケド……、昨日の今日で俺もツライから」
「え?」
多聞は意味深なウィンクを残して、部屋から出て行く。
残された柊一は、多聞の不可解な行動と台詞に、しばらく頭の上に疑問符を飛び交わせた。
だが、既に多聞は立ち去ってしまっているし、何かを問うにもこのままの恰好で後を追う訳にもいかない。
仕方が無く置かれている衣服を身につけ、それからなにげなくそこにあった姿見を覗き込んだ瞬間、己の襟元から覗く鬱血痕に愕然となる。
慌てて掛けたボタンを外して己の身体を鏡に映してみたが、鬱血はそこだけだった。
昨夜は新田に強引にアルコールを飲まされて、酩酊した。
しかし店を出た記憶もなければ、多聞に介護された記憶もない。
何事もなかったと、断言出来る証拠もない。
事実は、襟元に残っている鬱血と、下着すら身につけずに多聞のベッドで目覚めた……それだけだ。
それでもなんとか記憶を手繰り寄せようと考えてみたが、ただ頭痛が増しただけで何も思い出せない。
しばらく考えたが、どうにもならないと判断して、柊一は外したボタンをかけ直す。
こうなったら、たぶん覚えているであろう人間に訊ねるよりは他にない。
柊一は慌てた仕種で取る物も取りあえず部屋から飛び出した。
「レン! 昨日の晩、俺達は………っ!」
言いかけて、そこから先になんと言っていいか解らず、柊一は言葉に詰まる。
「どうしたの? そこに座りなよ、今コーヒー煎れるから」
サイフォンからポットを外し、多聞はマグにコーヒーを注ぐ。
「シノさんはカフェオレだったよね。砂糖は2コで良い?」
「あ………いや……」
出鼻をくじかれて、ペースはすっかり多聞に持って行かれてしまった。
「トーストは何枚?」
「食いたくない」
「意外と小食? あ、解った。二日酔いなんだ? 昨日は随分飲まされたみたいだからね」
「………………」
恨めしげに睨むと、多聞はちょこっと肩を竦めてみせる。
「だって、あーなっちゃった新田サン、誰にも止められないでしょ? そうだ、確か冷蔵庫にインスタントのみそ汁があったハズだから、コーヒーはやめてそっちにしようか? 二日酔いには良いからね」
答えずにいると、柊一の前に椀に注がれたみそ汁と、トーストされた食パンが並んだ。
「……………?」
見慣れない辺りの様子に戸惑って身体を起こすと、天地がひっくり返りそうな目眩に見舞われる。
それが単なる二日酔いに起因する頭痛と、それにともなう目眩だと判明するまでに数秒と掛からなかった。
ようやくの思いで辺りを見回すと、カーテンを開け放たれた窓は明るく、室内も綺麗に整頓されている。
「お目覚め?」
不意に声を掛けられて、ビックリして振り返ると多聞が立っていた。
「レン?」
「そう」
「ここ……オマエん家?」
「シノさんをウチに招待するのは、初めてだったっけ? まぁ、そんなコトはどうでもいいよ。朝ごはんの用意してあるから、服を着て、早く来なね」
「…服………?」
そう言われて、柊一は初めて自分が一糸纏わぬ姿である事に気付いた。
ベッドの傍には、きちんと畳まれた衣服が置かれている。
「ちょ………レ………っ!」
慌てて呼び止めると、多聞は立ち止まって振り返った。
「そのままで来ても良いケド……、昨日の今日で俺もツライから」
「え?」
多聞は意味深なウィンクを残して、部屋から出て行く。
残された柊一は、多聞の不可解な行動と台詞に、しばらく頭の上に疑問符を飛び交わせた。
だが、既に多聞は立ち去ってしまっているし、何かを問うにもこのままの恰好で後を追う訳にもいかない。
仕方が無く置かれている衣服を身につけ、それからなにげなくそこにあった姿見を覗き込んだ瞬間、己の襟元から覗く鬱血痕に愕然となる。
慌てて掛けたボタンを外して己の身体を鏡に映してみたが、鬱血はそこだけだった。
昨夜は新田に強引にアルコールを飲まされて、酩酊した。
しかし店を出た記憶もなければ、多聞に介護された記憶もない。
何事もなかったと、断言出来る証拠もない。
事実は、襟元に残っている鬱血と、下着すら身につけずに多聞のベッドで目覚めた……それだけだ。
それでもなんとか記憶を手繰り寄せようと考えてみたが、ただ頭痛が増しただけで何も思い出せない。
しばらく考えたが、どうにもならないと判断して、柊一は外したボタンをかけ直す。
こうなったら、たぶん覚えているであろう人間に訊ねるよりは他にない。
柊一は慌てた仕種で取る物も取りあえず部屋から飛び出した。
「レン! 昨日の晩、俺達は………っ!」
言いかけて、そこから先になんと言っていいか解らず、柊一は言葉に詰まる。
「どうしたの? そこに座りなよ、今コーヒー煎れるから」
サイフォンからポットを外し、多聞はマグにコーヒーを注ぐ。
「シノさんはカフェオレだったよね。砂糖は2コで良い?」
「あ………いや……」
出鼻をくじかれて、ペースはすっかり多聞に持って行かれてしまった。
「トーストは何枚?」
「食いたくない」
「意外と小食? あ、解った。二日酔いなんだ? 昨日は随分飲まされたみたいだからね」
「………………」
恨めしげに睨むと、多聞はちょこっと肩を竦めてみせる。
「だって、あーなっちゃった新田サン、誰にも止められないでしょ? そうだ、確か冷蔵庫にインスタントのみそ汁があったハズだから、コーヒーはやめてそっちにしようか? 二日酔いには良いからね」
答えずにいると、柊一の前に椀に注がれたみそ汁と、トーストされた食パンが並んだ。
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