ワーカホリックな彼の秘密

RU

文字の大きさ
上 下
89 / 107

第88話

しおりを挟む
 朝、柊一は窓から差し込んでくる日差しで目が覚めた。

「……………?」

 見慣れない辺りの様子に戸惑って身体を起こすと、天地がひっくり返りそうな目眩に見舞われる。
 それが単なる二日酔いに起因する頭痛と、それにともなう目眩だと判明するまでに数秒と掛からなかった。
 ようやくの思いで辺りを見回すと、カーテンを開け放たれた窓は明るく、室内も綺麗に整頓されている。

「お目覚め?」

 不意に声を掛けられて、ビックリして振り返ると多聞が立っていた。

「レン?」
「そう」
「ここ……オマエん家?」
「シノさんをウチに招待するのは、初めてだったっけ? まぁ、そんなコトはどうでもいいよ。朝ごはんの用意してあるから、服を着て、早く来なね」
「…服………?」

 そう言われて、柊一は初めて自分が一糸纏わぬ姿である事に気付いた。
 ベッドの傍には、きちんと畳まれた衣服が置かれている。

「ちょ………レ………っ!」

 慌てて呼び止めると、多聞は立ち止まって振り返った。

「そのままで来ても良いケド……、昨日の今日で俺もツライから」
「え?」

 多聞は意味深なウィンクを残して、部屋から出て行く。
 残された柊一は、多聞の不可解な行動と台詞に、しばらく頭の上に疑問符を飛び交わせた。
 だが、既に多聞は立ち去ってしまっているし、何かを問うにもこのままの恰好で後を追う訳にもいかない。
 仕方が無く置かれている衣服を身につけ、それからなにげなくそこにあった姿見を覗き込んだ瞬間、己の襟元から覗く鬱血痕に愕然となる。
 慌てて掛けたボタンを外して己の身体を鏡に映してみたが、鬱血はそこだけだった。
 昨夜は新田に強引にアルコールを飲まされて、酩酊した。
 しかし店を出た記憶もなければ、多聞に介護された記憶もない。
 何事もなかったと、断言出来る証拠もない。
 事実は、襟元に残っている鬱血と、下着すら身につけずに多聞のベッドで目覚めた……それだけだ。
 それでもなんとか記憶を手繰り寄せようと考えてみたが、ただ頭痛が増しただけで何も思い出せない。
 しばらく考えたが、どうにもならないと判断して、柊一は外したボタンをかけ直す。
 こうなったら、たぶん覚えているであろう人間に訊ねるよりは他にない。
 柊一は慌てた仕種で取る物も取りあえず部屋から飛び出した。

「レン! 昨日の晩、俺達は………っ!」

 言いかけて、そこから先になんと言っていいか解らず、柊一は言葉に詰まる。

「どうしたの? そこに座りなよ、今コーヒー煎れるから」

 サイフォンからポットを外し、多聞はマグにコーヒーを注ぐ。

「シノさんはカフェオレだったよね。砂糖は2コで良い?」
「あ………いや……」

 出鼻をくじかれて、ペースはすっかり多聞に持って行かれてしまった。

「トーストは何枚?」
「食いたくない」
「意外と小食? あ、解った。二日酔いなんだ? 昨日は随分飲まされたみたいだからね」
「………………」

 恨めしげに睨むと、多聞はちょこっと肩を竦めてみせる。

「だって、あーなっちゃった新田サン、誰にも止められないでしょ? そうだ、確か冷蔵庫にインスタントのみそ汁があったハズだから、コーヒーはやめてそっちにしようか? 二日酔いには良いからね」

 答えずにいると、柊一の前に椀に注がれたみそ汁と、トーストされた食パンが並んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...