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第75話
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一つ仕事に目処が付いて、ふと時計を見やるとそろそろ15時になろうかという時刻だった。
一段落した事もあり、ちょっと一息入れようと神巫は席を立つ。
「ハルカ君、どこ行くの?」
「えっ? ああ、ちょこっと一息入れつつ資料を少し見ようかな…と」
「一息ってコトは、給湯室に行ってコーヒー煎れて来る…とか?」
「………ええ、まぁ」
就業時間中ではあるが、こうした「休憩」は認められている。
正確には「コンピューターを使ったプログラミングに従事ている者は、1時間毎に5分から10分の休憩を取る事」を会社側が義務づけているのだ。
但し、集中して仕事に打ち込んでいる時に定刻になったからとコンピューターから離れる事は出来ないし、仕事の切れ間に気分転換をしたいのも人情と言うもので、こうした現場にありがちな「休憩は個人の判断を含めた常識的範疇で」という事になっている。
「なんか、問題アリっすか?」
「うん、それさぁ」
青山は神巫が手にしている書類を指し示した。
「はい」
「室外に持ち出し禁止だよ」
「は?」
言われた言葉の意味が理解出来ず、神巫は呆けた顔をする。
「その、手に持ってる資料。この部屋から持ち出し禁止なの」
「だって、給湯室ですよ?」
「この部屋から……って言ったじゃん」
「青山サン、なにふざけてんですか?」
「ふざけてないの。真面目にその資料は、そこの扉の内側から一歩たりとも持ち出し禁止」
「そんなぁ!」
神巫が半ば悲鳴じみた声を上げた時、会議に行っていて席を外していた柊一が扉を開けて部屋に入ってきた。
「なんの騒ぎだ? 扉の外まで神巫の声が聞こえたぞ?」
「あ、チーフ! だって青山サンが滅茶苦茶なんですよぅ!」
「青山が、どうしたんだ?」
「俺、今ちょっと一服しようとしてたんですけど。青山サンがこの書類持って、部屋から出るなって言うんです」
「うん?」
示された書類を一瞥して、柊一はなにげなく頷いてみせる。
「ああ、そうだよ」
「そ………そうだよって! チーフまでなに言ってンですか?」
「残念でしたね、ハルカ三等兵。そのルール、決めたのチーフだから」
「ええ~? マジっすかっ?!」
「持ち出さなきゃ、無くさないだろ」
「だって、社内ッスよ?!」
「明確な境界線がないと、オマエみたいなタイプはどんどん拡大解釈するから。定義はハッキリさせておかないとな、最初から」
「でも~」
「デモもストもない。前科のあるヤツは信用されないのが、社会常識ってモンだろ」
取り付く島もない様子で柊一はキッパリと神巫を突き放し、自分の席に着く。
「でも、チーフ~」
「ダメだ。だいたいオマエ、資料を見るとか言って給湯室に行ったまんま、いつまでも戻ってこないから。俺も喫煙者だからタバコをやめろとは言わないが、社会人として自覚が足りないぞ」
「………はぁい、解りました」
資料の持ち出しを許可して貰うどころか、余分なお説教まで食らってしまい、神巫は渋々資料を手から放して逃げるように部屋から出て行った。
「ふ~ん。チーフにしては、随分強気に出たねェ?」
やや笑いを含みつつも、意外そうな感じで青山が呟く。
「部下に甘すぎる……って、オマエが俺に言ったんじゃないか」
「ええ~? そんなコト言いましたっけ?」
ペロッと舌を出す青山に、柊一は肩を竦めて見せただけで何も言わなかった。
一段落した事もあり、ちょっと一息入れようと神巫は席を立つ。
「ハルカ君、どこ行くの?」
「えっ? ああ、ちょこっと一息入れつつ資料を少し見ようかな…と」
「一息ってコトは、給湯室に行ってコーヒー煎れて来る…とか?」
「………ええ、まぁ」
就業時間中ではあるが、こうした「休憩」は認められている。
正確には「コンピューターを使ったプログラミングに従事ている者は、1時間毎に5分から10分の休憩を取る事」を会社側が義務づけているのだ。
但し、集中して仕事に打ち込んでいる時に定刻になったからとコンピューターから離れる事は出来ないし、仕事の切れ間に気分転換をしたいのも人情と言うもので、こうした現場にありがちな「休憩は個人の判断を含めた常識的範疇で」という事になっている。
「なんか、問題アリっすか?」
「うん、それさぁ」
青山は神巫が手にしている書類を指し示した。
「はい」
「室外に持ち出し禁止だよ」
「は?」
言われた言葉の意味が理解出来ず、神巫は呆けた顔をする。
「その、手に持ってる資料。この部屋から持ち出し禁止なの」
「だって、給湯室ですよ?」
「この部屋から……って言ったじゃん」
「青山サン、なにふざけてんですか?」
「ふざけてないの。真面目にその資料は、そこの扉の内側から一歩たりとも持ち出し禁止」
「そんなぁ!」
神巫が半ば悲鳴じみた声を上げた時、会議に行っていて席を外していた柊一が扉を開けて部屋に入ってきた。
「なんの騒ぎだ? 扉の外まで神巫の声が聞こえたぞ?」
「あ、チーフ! だって青山サンが滅茶苦茶なんですよぅ!」
「青山が、どうしたんだ?」
「俺、今ちょっと一服しようとしてたんですけど。青山サンがこの書類持って、部屋から出るなって言うんです」
「うん?」
示された書類を一瞥して、柊一はなにげなく頷いてみせる。
「ああ、そうだよ」
「そ………そうだよって! チーフまでなに言ってンですか?」
「残念でしたね、ハルカ三等兵。そのルール、決めたのチーフだから」
「ええ~? マジっすかっ?!」
「持ち出さなきゃ、無くさないだろ」
「だって、社内ッスよ?!」
「明確な境界線がないと、オマエみたいなタイプはどんどん拡大解釈するから。定義はハッキリさせておかないとな、最初から」
「でも~」
「デモもストもない。前科のあるヤツは信用されないのが、社会常識ってモンだろ」
取り付く島もない様子で柊一はキッパリと神巫を突き放し、自分の席に着く。
「でも、チーフ~」
「ダメだ。だいたいオマエ、資料を見るとか言って給湯室に行ったまんま、いつまでも戻ってこないから。俺も喫煙者だからタバコをやめろとは言わないが、社会人として自覚が足りないぞ」
「………はぁい、解りました」
資料の持ち出しを許可して貰うどころか、余分なお説教まで食らってしまい、神巫は渋々資料を手から放して逃げるように部屋から出て行った。
「ふ~ん。チーフにしては、随分強気に出たねェ?」
やや笑いを含みつつも、意外そうな感じで青山が呟く。
「部下に甘すぎる……って、オマエが俺に言ったんじゃないか」
「ええ~? そんなコト言いましたっけ?」
ペロッと舌を出す青山に、柊一は肩を竦めて見せただけで何も言わなかった。
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