ワーカホリックな彼の秘密

RU

文字の大きさ
上 下
76 / 107

第75話

しおりを挟む
 一つ仕事に目処が付いて、ふと時計を見やるとそろそろ15時になろうかという時刻だった。
 一段落した事もあり、ちょっと一息入れようと神巫は席を立つ。

「ハルカ君、どこ行くの?」
「えっ? ああ、ちょこっと一息入れつつ資料を少し見ようかな…と」
「一息ってコトは、給湯室に行ってコーヒー煎れて来る…とか?」
「………ええ、まぁ」

 就業時間中ではあるが、こうした「休憩」は認められている。
 正確には「コンピューターを使ったプログラミングに従事ている者は、1時間毎に5分から10分の休憩を取る事」を会社側が義務づけているのだ。
 但し、集中して仕事に打ち込んでいる時に定刻になったからとコンピューターから離れる事は出来ないし、仕事の切れ間に気分転換をしたいのも人情と言うもので、こうした現場にありがちな「休憩は個人の判断を含めた常識的範疇で」という事になっている。

「なんか、問題アリっすか?」
「うん、それさぁ」

 青山は神巫が手にしている書類を指し示した。

「はい」
「室外に持ち出し禁止だよ」
「は?」

 言われた言葉の意味が理解出来ず、神巫は呆けた顔をする。

「その、手に持ってる資料。この部屋から持ち出し禁止なの」
「だって、給湯室ですよ?」
「この部屋から……って言ったじゃん」
「青山サン、なにふざけてんですか?」
「ふざけてないの。真面目にその資料は、そこの扉の内側から一歩たりとも持ち出し禁止」
「そんなぁ!」

 神巫が半ば悲鳴じみた声を上げた時、会議に行っていて席を外していた柊一が扉を開けて部屋に入ってきた。

「なんの騒ぎだ? 扉の外まで神巫の声が聞こえたぞ?」
「あ、チーフ! だって青山サンが滅茶苦茶なんですよぅ!」
「青山が、どうしたんだ?」
「俺、今ちょっと一服しようとしてたんですけど。青山サンがこの書類持って、部屋から出るなって言うんです」
「うん?」

 示された書類を一瞥して、柊一はなにげなく頷いてみせる。

「ああ、そうだよ」
「そ………そうだよって! チーフまでなに言ってンですか?」
「残念でしたね、ハルカ三等兵。そのルール、決めたのチーフだから」
「ええ~? マジっすかっ?!」
「持ち出さなきゃ、無くさないだろ」
「だって、社内ッスよ?!」
「明確な境界線がないと、オマエみたいなタイプはどんどん拡大解釈するから。定義はハッキリさせておかないとな、最初から」
「でも~」
「デモもストもない。前科のあるヤツは信用されないのが、社会常識ってモンだろ」

 取り付く島もない様子で柊一はキッパリと神巫を突き放し、自分の席に着く。

「でも、チーフ~」
「ダメだ。だいたいオマエ、資料を見るとか言って給湯室に行ったまんま、いつまでも戻ってこないから。俺も喫煙者だからタバコをやめろとは言わないが、社会人として自覚が足りないぞ」
「………はぁい、解りました」

 資料の持ち出しを許可して貰うどころか、余分なお説教まで食らってしまい、神巫は渋々資料を手から放して逃げるように部屋から出て行った。

「ふ~ん。チーフにしては、随分強気に出たねェ?」

 やや笑いを含みつつも、意外そうな感じで青山が呟く。

「部下に甘すぎる……って、オマエが俺に言ったんじゃないか」
「ええ~? そんなコト言いましたっけ?」

 ペロッと舌を出す青山に、柊一は肩を竦めて見せただけで何も言わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...