ワーカホリックな彼の秘密

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第74話

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「だって、多聞サンは別に俺個人をフォローしようと思ったワケじゃないでしょうに………」
「結果的には、そうなってるだろうが」
「単に、会社がヤバくなったら己に火の粉が掛かるからでしょ?」
「ガキじゃあるまいし、駄々こねてンじゃねェっちゅーの。だいたい本気で、レンがオマエを個人攻撃しようとしたと思ってるのか?」
「違うって言うんですか?」
「自意識過剰だな」
「なんスかそりゃ~?」
「冷静になって考えて見ろ。レンとオマエじゃ、社内での格が全然違うンだぞ。それこそレンが神巫を個人攻撃しようと思ったら、もっと効果的な方法がいくらでもあるっつーんだよ。無意味に懐疑的になって、無駄に斜に構えてるだけだ、オマエは」

 決めつけられて、神巫は少し不満そうな顔をしたが。
 しかし逆にキッパリと否定された事で、そんな物かと納得もさせられた。

「じゃあ、チーフはこの間のコトは、単に多聞サンの虫の居所が悪かっただけ……って言うんですか?」
「そうかもしれないし、本当にオマエの態度が目に余ったのかも知れない。俺は青山越しに報告を聞いただけだから、ハッキリした結論は出せないな。だけど、少なくともオマエが我を張って頑固な牛みたいに踏ん張っても、良いコトが一つもないってコトだけは明瞭な事実だろ?」
「………俺が多聞サンに御礼が言えたら、柊一サンがご褒美くれます?」
「は?」

 神妙な顔になった神巫に安堵しかけた柊一は、いきなり飛び出してきた不穏なおねだりに眉を顰めた。

「なんで俺が、オマエに褒美をやらなきゃならないんだよ?」
「だって、俺がお礼を言えなかったら、柊一サンの株が下がるんでしょ」

 手にしていた書類をデスクの上に置き、神巫はスウッと柊一の側に移動してくる。

「困るのはオマエだって、言ってるんだ」
「でも、俺が困るのを柊一サンとしては見過ごせないから、そうやって親切に助言してくれているんでしょ?」
「それは、オマエが俺の部下だから………」
「それだけ?」

 鼻もくっつかんばかりに顔を寄せられ、柊一は焦って椅子ごと後ろに下がろうとしたが。
 背もたれがデスクに突き当たり、そのデスクに神巫が両手を置いた事で全く身動きが出来なくなる。

「このところ、ずっと上の空だったのって、やっぱりその一件の所為ですか?」
「別に、上の空なんかじゃない」
「そうかなぁ?」
「それはオマエの思い込みだろ」

 すっかり立場が逆転してしまったような状況で、神巫はジイッと柊一の瞳を覗き込んでくる。
 狼狽えるように目を伏せた柊一に、神巫は微かに笑ったようだった。

「今日はもう切り上げて、俺のところに来て貰えません?」
「ダメだ」
「なんで?」
「報酬を先に払ったら、踏み倒されるかもしれないだろう?」

 ギリギリで押し切られそうになりながらも、柊一は神巫を睨みつける。

「それって、ご褒美の約束を取り付けられたって思ってもイイってコトですよね?」
「………………………仕方ないだろう」

 念押しされて、柊一は不承ながらもそう答える以外になかった。

「本当に、柊一サンって部下思いで頼りになる上司ですよね」
「くだらないコトを……………っ!」

 言いかけた柊一の口唇を、神巫は強引に塞いでくる。
 薄い舌を絡め取られ、口腔内を存分に蹂躙されると、柊一はもう抵抗をする気すら起きない。
 ただ、甘やかなくちづけに恍惚となる直前に、なんとか理性を振り絞るのが精一杯だった。

「社内でこういうコトをするなって、言ってるだろう!」

 耳朶を摘んでねじり上げられ、神巫は悲鳴を上げる。

「痛い、痛い、痛い、痛い! 痛すぎですっ、チーフ!」
「痛くしなきゃ、判らないンだろ、オマエはっ!」

 耳をさすりながら神巫が半歩離れた隙に立ち上がると、柊一は手早くコンピューターをシャットダウンした。

「じゃあ、後はちゃんと片付けて戸締まりするんだぞ。今度その書類無くしたら、裸にひんむいて社屋の屋上から逆さに吊すからな!」
「はぁい。お疲れ様デス~」

 多少は灸が利いたのかおとなしく答えた神巫を置いて、柊一は逃げるように部屋を飛び出す。
 扉の外で一息付いて、襟元を正すとエレベーターに向かった。
 ほんの24時間前には、この廊下をとんでもない覚悟で歩いていた事が嘘のようで。
 エレベーターが上がってくるほんの少しの間、柊一は後ろの廊下を振り返る。
 本当の事を言えば、多聞が神巫に取った態度を全面的に「不可抗力」だった…とは思っていない。
 青山から伝え聞いただけではあるが、一方的に神巫に否があったとは考えにくい。
 しかし、それをわざわざ神巫に伝える気もなかった。
 そこで無駄に双方の角を立てる必要はないし、神巫にとっては「良い社会勉強」になると見なしたからだ。
 扉が開いた事に気付き、柊一はエレベーターに乗り込むと早々に帰路についたのだった。
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