ワーカホリックな彼の秘密

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第67話

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 この男は、業界内で一目置かれる存在になっている。
 それは、自分が手に入れるはずだった地位だ。
 しかし、この男とて一人でそこまでのし上がった訳ではない。
 それは柊一とのコンビを組んだからこその地位であり、柊一と決別してしまえば一人の「ちょっと気の利いたゲームデザイナー」に過ぎないだけだ。
 多聞の名前は、柊一とセットになって初めてブランドになるのであって、多聞1人では確固たる地位を維持する事など出来ないだろう。
 あまつさえ、あの基盤の弱い会社に現在自分の後ろ盾になってくれている組織が揺さぶりを掛ければ、この男はたちまち職を失ってしまう。
 ついでに新たな就職先に組織から手を回して貰えば、最終的にはこの男を業界から完全に閉め出す事も可能なはずだ。
 そして、業界には新たなブランドが確立される。
 柊一を傘下に置いた自分が、多聞のそれに取って代わるのだ。

「言っとくけど、俺はあの一件を根に持ってないぜ? 誰にも相手にして貰えないココロ寂しいオマエが、ストレスの発散として他人の企画をパクッてちょっとお騒がせさせただけ……の、些細な話だからな」
「わざわざ持ち出すほど、根に持ってるんじゃないんですか?」
「はっは~ん? そう思うか? バッカだなぁ! オマエ! 俺はあの一件のお陰で、他人にパクられる程の企画を練れると上の連中に判断されて、デッカイ仕事を回して貰えるようになったんだぜ? 感謝はしても、恨んだりするスジはねェなぁ?」

 多聞の言葉に、白王華は不快な顔を隠せなかった。

「アンタって人は、昔から強がりだけは1人前だったから。じゃあなぜ、尻尾を巻くみたいにあの会社から逃げ出したんです? 俺があの一件で退社してから1年も経たないうちでしたよね? アンタが退社したのは?」
「オマエと違って、俺の場合は円満自主退社だったけどな。退社の理由も、今の会社を立ち上げる為の材料が揃ったからであって、別に居辛くなったワケじゃないぜ?」

 その言葉に、白王華は不敵にニヤリと笑った。

「アンタがどう考えているのかは、解らないけど。東雲サンは熱心に俺の話を聞いてくれているんですよ? アンタ1人で、今のブランドを維持出来るんです?」

 白王華の勝ち誇ったような言葉に、柊一は思わず顔を上げたが。
 こちらをチラッと見た多聞が、柊一にしか解らないような微妙な表情で合図を送ってきた事に気付き、咄嗟に押し黙る。

「じゃあ参考までに聞かせてもらおうか? シノさんに紹介する、幅広く社会に貢献出来るようなやりがいのある職場ってのをさ?」
「言えませんよ。当たり前でしょう?」
「だろうなぁ! ホントはそんな職場なんてのは、存在しないんだから」
「勝手にそう思っていればいいでしょう? 東雲サンは今後、アンタなんかよりもっと凄い企画の出せる相手とチームを組んで、社会貢献するんですから」
「ああ、そう。……まぁ、その凄いヤツってのが、シノさんの才能に見合うだけの能力があればイイケドな。誰かさんみたいな3流デザイナーの薄っぺら企画じゃあ、シノさんが可哀想だ」
「……………」
「それに、アレだよなぁ! 東雲柊一ブランドの後継として、俺の企画した昔のゲームを周到するとかほざきながら、ただのコピーだったり二番煎じ三番煎じだったりしたりしたら、いくら名うての東雲ブランドだってプレイヤーは離れてっちゃうだろうし。いくら出荷本数が多くても、直ぐに新古品屋の店頭で二束三文で取引されたり、ネットの匿名掲示板でクソゲーの筆頭株としてコキ降ろされたりしたら、後に繋がらないよな」
「……………」
「まぁ、才能があるとか豪語しながら、尾羽打ち枯らしてチンピラも裸足で逃げ出すようなハイエナ商売やってて、あげくにシロウトもウンザリするような三流シナリオ書いてシノさんにプログラムさせるような事態にだけはならないように祈ってるぜ」

 テーブルを回り込み、多聞はしたり顔で白王華の顔を覗き込む。
 ガタンッと大きな音を立てて椅子が倒れ、立ち上がった白王華は多聞を殴り倒していた。

「バカッ! よせっ!」

 慌てて席を立った柊一は、倒れた多聞になおも掴みかかろうとする白王華の腕を掴む。
 だが白王華は柊一の手を振りほどき、蹌踉めきながら立ち上がった多聞に再び殴りかかった。
 さすがに騒ぎに気付いてレストランのスタッフや、離れた席に居た他の客もざわめき立つ。
 外部の人間が関わってしまっては、なにも収拾がつかなくなる……と狼狽える柊一に対して、店員が仲裁に入ってなお多聞は白王華を挑発し続けた。

「はっは~! 腕力に物を言わせるしか出来ないトロル野郎に、クリエイティビティな仕事なんて出来るモンかよ!」
「なんだと、このオタク野郎がっ!」

 一度キレてしまった白王華は、周囲の目もあってますますいきり立つ。
 仲裁と野次馬に囲まれて、事態を内密に収拾する事は完全に不可能になった。
 そうこうしているうちに、どうやら店長あたりが連絡をしたのだろう、制服姿の警察官が現れ、白王華は取り押さえられて連行される。
 残った多聞は、初の一撃で口の中が切れていたらしく、頬が腫れ上がりしたたかに殴られた場所が内出血しているようだったが、警官の事情聴取を受けていて傍に寄る事は出来ない。
 やがて救急車が到着し、多聞は警官に付き添われて近くの病院に搬送されてしまった。
 結局、騒ぎはやたらと大きくなったが、不思議なくらいに誰も柊一の存在を取り合わず、気付けば一人取り残されている。
 だが、当事者である白王華と多聞がそれぞれ身柄を拘束されてしまい、今更なにをどうする術もない。
 呆気にとられたまま、柊一はそこから立ち去るより他に方法はなかった。
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