ワーカホリックな彼の秘密

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第66話

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「あれ? シノさんじゃない?」

 呼びかけられた声に、柊一はギョッとなって振り返る。

「やぁっぱりシノさんだ。珍しいねェ、シノさんがこの時間に会社にいないなんてさ」
「レン………」

 思わず表情が強張ってしまうのを、柊一はどうする事も出来なかった。

「どうしたの? 俺が見た時は製作にまだ灯りが点いてたから、てっきりシノさんだと思ってたのに」
「ちょっと…野暮用があって………な」

 いたたまれず、柊一は顔を俯かせる。

「野暮用? おや? おやおやおや! これは、これは、誰かと思ったら! 白王華クンじゃないか!」

 白王華は多聞に向かって、あからさまに迷惑そうな顔を向ける。

「これは、これは。お久しぶりですね、多聞サン」
「へえぇ~? コイツは不思議な取り合わせだねェ? 白王華如きの3流デザイナーが、ウチの精鋭プログラマーに何用が?」

 あまりにもあけすけな多聞の言い様に、白王華はカッと顔に朱を走らせたが。
 それも一瞬の事で、多聞から逃げるように顔を俯けている柊一を見やってから、目線を多聞に戻した。

「残念ながら、今はゲームデザインなんて些末なコトは趣味の範囲に留めてますから。本業は、優秀な人材をより活躍出来る職場へご紹介するという、実にやりがいのある仕事をしてます」
「自分がやってた仕事を、些末なんて言葉で片付けるようなヤツだからな。まぁ、ヘッドハンティングなんていう薄汚いハイエナ紛いの仕事も喜んで出来るだろうよ」
「昔から失礼な人だとは思ってましたけど、歳を取っても全然変わってないんですね。その調子でまわりと角を立てまくって、今に泣きを見ますよ?」

 白王華にしてみれば、端から自分を蔑んでいる多聞の言葉に苛立ちや腹立たしさも感じたが、しかし柊一が己の手元に寝返ろうとしている現状を鑑みれば、それは大した問題にもならない。
 多聞を見返す顔にも態度にも、余裕があった。

「そうかい? んで? 今日はウチの精鋭をヘッドハンティング?」
「東雲サンのような優秀な人材が、あんなちっぽけな会社に埋もれているのはもったいないですからね。もっと幅広く、社会に貢献出来るようなやりがいのある職場をご紹介しようとしているだけですよ。幸い昔取った杵柄で、東雲サンがどれほど素晴らしい才能を持っているか解りますから」
「へ~え、そうなんだ? もっともゲームデザインって仕事を簡単に卑下出来ちゃう程度の眼力しかないんじゃ、あんまりアテになりそーもねェケドな。まぁ、己の技量が判んねェヤツに限って、口先ではいくらでもでかい話するから、当然かぁ?」

 どうせしばらくすればこの男は全てを失うのだ……と判っていても、哀れみの色すら浮かべた目で蔑まれる事に、白王華は酷いストレスを感じていた。
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