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第65話
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社屋を出た柊一は、カバンの中に企画室から回ってきた多聞の企画書を持っていた。
まだ、日を延ばす術は残っている。
企画書がまだ来ないと言い張る事も出来るし、また企画をある程度まで温めてから動いた方が得策だと吹き込む事も出来る。
だが、日延べをした所で手段は変わらない。
結局、白王華を退ける術がない以上は、日を延ばす事にすら意味はないのだ。
連絡を入れると、白王華はいつものルノアールではなくプリンスホテルの中にあるレストランを指定してきた。
電話の向こうで脅迫者は「部屋もキープしておきますよ」と、下卑た笑いを含んだ声で笑っていた。
仕事に関しては、全てをきちんと整理してある。
柊一が使っているマシンのデスクトップに、個人宛の書類も残してきた。
後は、最後の始末をきっちりやり遂げるだけだ。
電車を乗り継ぎ、指定されたプリンスホテルのレストランに入る。
名前を告げると、黙って奥のテーブルに案内された。
「待ってましたよ、東雲サン。……今日からは柊一サンと呼びましょうか?」
「やめろ。鬱陶しい」
突き放すように答えて、柊一は席に座る。
しかしそんな柊一の様子になどお構いなしで、白王華はディナーのコースを持ってくるように合図を出した。
「今日は、随分顔色が良くないですねぇ? いやですよ、部屋に入ってからドタキャン……なんて」
「残業続きだったからな。……オマエ、持ってきてるのか?」
「何をです? ああ! アレですね? いやだな、そんな荷物になる物を持ち歩いたりはしませんよ。部屋に置いてきました。もっとも、柊一サンにだってあんな物はもう不必要でしょ?」
「目障りだ。処分する所を見届けたい」
「いいでしょう。食事を終えて、俺が柊一サンの評価に値するって解ってもらえたら……一緒に処分しましょう」
白王華が「目的の物」を持ってきている事を確認して、柊一は胸の内で安堵の息を吐いた。
全ての準備を整えてこの場にやってきたのに、最後の最後で肝心の物を取り戻せなければ意味がない。
そうこうするうちに食事が運ばれ、テーブルの上に高価なワインが置かれた。
「おや? おかしいですね。俺はこんな物を頼んでないのに……」
「それは俺が、ここに来た時に頼んだんだ」
「柊一サンが?」
「祝杯ぐらい、あってもいいだろう?」
ワインクーラーからボトルを取り上げ、柊一は白王華にグラスを取るように促す。
「意外だなぁ」
「なにがだ?」
「俺、てっきり柊一サンは日延べしてるだけだと思ってたんだけど。本気で寝返るつもりだったんだ?」
「さぁな」
はぐらかす柊一に、白王華は満足げに笑ってグラスに口を付けた。
まだ、日を延ばす術は残っている。
企画書がまだ来ないと言い張る事も出来るし、また企画をある程度まで温めてから動いた方が得策だと吹き込む事も出来る。
だが、日延べをした所で手段は変わらない。
結局、白王華を退ける術がない以上は、日を延ばす事にすら意味はないのだ。
連絡を入れると、白王華はいつものルノアールではなくプリンスホテルの中にあるレストランを指定してきた。
電話の向こうで脅迫者は「部屋もキープしておきますよ」と、下卑た笑いを含んだ声で笑っていた。
仕事に関しては、全てをきちんと整理してある。
柊一が使っているマシンのデスクトップに、個人宛の書類も残してきた。
後は、最後の始末をきっちりやり遂げるだけだ。
電車を乗り継ぎ、指定されたプリンスホテルのレストランに入る。
名前を告げると、黙って奥のテーブルに案内された。
「待ってましたよ、東雲サン。……今日からは柊一サンと呼びましょうか?」
「やめろ。鬱陶しい」
突き放すように答えて、柊一は席に座る。
しかしそんな柊一の様子になどお構いなしで、白王華はディナーのコースを持ってくるように合図を出した。
「今日は、随分顔色が良くないですねぇ? いやですよ、部屋に入ってからドタキャン……なんて」
「残業続きだったからな。……オマエ、持ってきてるのか?」
「何をです? ああ! アレですね? いやだな、そんな荷物になる物を持ち歩いたりはしませんよ。部屋に置いてきました。もっとも、柊一サンにだってあんな物はもう不必要でしょ?」
「目障りだ。処分する所を見届けたい」
「いいでしょう。食事を終えて、俺が柊一サンの評価に値するって解ってもらえたら……一緒に処分しましょう」
白王華が「目的の物」を持ってきている事を確認して、柊一は胸の内で安堵の息を吐いた。
全ての準備を整えてこの場にやってきたのに、最後の最後で肝心の物を取り戻せなければ意味がない。
そうこうするうちに食事が運ばれ、テーブルの上に高価なワインが置かれた。
「おや? おかしいですね。俺はこんな物を頼んでないのに……」
「それは俺が、ここに来た時に頼んだんだ」
「柊一サンが?」
「祝杯ぐらい、あってもいいだろう?」
ワインクーラーからボトルを取り上げ、柊一は白王華にグラスを取るように促す。
「意外だなぁ」
「なにがだ?」
「俺、てっきり柊一サンは日延べしてるだけだと思ってたんだけど。本気で寝返るつもりだったんだ?」
「さぁな」
はぐらかす柊一に、白王華は満足げに笑ってグラスに口を付けた。
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