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第62話
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「神巫君、どうしたの?」
背後から声を掛けられ、振り返ると市ヶ谷がニッコリ微笑んでいた。
「あ、市ヶ谷サン、どうも」
青山と同期に当たる市ヶ谷は、神巫から見れば先輩格になるが。
会社の規模もさほどのものではない零細企業では、その辺りの上下感覚はかなり稀薄になる。
「どうしたの? 最近は随分覇気がないみたいじゃない? イブキムコンビがこぼしてたよ?」
「別に、そんなに調子悪いとか言うワケじゃないんですけど。ちょっとこうテンションあがらないっちゅーか……」
神巫はそこで、言葉を濁した。
実際、自分が少々低迷しているのは確かなのだが、それは単に気分が盛り上がらない…などという問題ではなく、一つには己の手元から紛失してしまった重要書類の事が気になっていたのだ。
「なによう。伝説のプログラマーの片腕候補なんでしょ?」
「そりゃそうなんすケド……。なんか最近、チーフが変なんですよね。なぁんかこう、集中してないっつーか……」
「赤坂クンが東雲チーフはヘッドハンティングに狙われてるとか言ってたけど、何か関係あるのかしら?」
「その話も青山サンがそれっぽくチーフに探り入れたらしいんですけど、何かハッキリしないンすよ。もっとも……あのチーフがココ辞めて別のトコに移る……なんて考えられないンすけどね」
「そーよねぇ。東雲チーフとウチのチーフと取締役と松原さんは、この会社に骨埋めそうよね~」
「でもその割りに、なんか最近ホンットに変なんすよ! まるで1ヶ月後に退社するヒトみたいに、ミョ~に身の回りを片付けてるし」
「そうなの? ん、でもきっと今日からはそんなコト言ってられなくなるわよ~?」
「なんか、あるんデス?」
「新作プロットが上がったから、今日中にはそっちに企画書がいくから。神巫君もそろそろアシスタントからメインプログラマーに昇格する頃だし、また残業の嵐がやってくるわよ。きっと東雲チーフは忙しくなる前に片付けコトをしただけなんじゃない?」
「それなら、良いんですけどね」
「じゃあね、もうちょっと気合い入れなさいよ」
「ええ、気合いを入れ直す為に一服してきます~」
市ヶ谷と別れた後も、神巫は陰鬱な気分のままだった。
確かに市ヶ谷の言う通り……なのかもしれない。
だが、やっぱり最近の柊一の様子は酷く気になる物だった。
さすがに市ヶ谷にそんな話をする訳にはいかないが、プライベートにおいても柊一は神巫を避けているようにすら見えた。
確かに週末に神巫のアパートで時間を過ごしたりする事はあるが、それも目に見えて回数が減っている。
第一、一緒にいても柊一はどことなく上の空の事が多かった。
別にあからさまに神巫を嫌悪している……というワケではない。
どちらかと言えば、以前にも増して気遣いをされる事も多い。
しかし、逆にその気遣いが、まるでもうすぐ逢えなくなるような危機感を神巫に抱かせる。
問いつめた所で、何もないと言われてしまえばそれきりだったし。
やはり自分は年下に過ぎず、柊一の目から見れば特別な相手として見なされていないように思えた。
元々楽観主義の神巫は、これが平素なら柊一に向かってそれなりのアピールも出来るのだが。
重要書類を紛失している身の上としては、あまりあっけらかんとしているワケにも行かず、結果として今のところコレと言った打開案を見いだせないでいるのだ。
「あーあ、カッコワリィ」
神巫はボヤキながら大きな溜息を吐いた。
背後から声を掛けられ、振り返ると市ヶ谷がニッコリ微笑んでいた。
「あ、市ヶ谷サン、どうも」
青山と同期に当たる市ヶ谷は、神巫から見れば先輩格になるが。
会社の規模もさほどのものではない零細企業では、その辺りの上下感覚はかなり稀薄になる。
「どうしたの? 最近は随分覇気がないみたいじゃない? イブキムコンビがこぼしてたよ?」
「別に、そんなに調子悪いとか言うワケじゃないんですけど。ちょっとこうテンションあがらないっちゅーか……」
神巫はそこで、言葉を濁した。
実際、自分が少々低迷しているのは確かなのだが、それは単に気分が盛り上がらない…などという問題ではなく、一つには己の手元から紛失してしまった重要書類の事が気になっていたのだ。
「なによう。伝説のプログラマーの片腕候補なんでしょ?」
「そりゃそうなんすケド……。なんか最近、チーフが変なんですよね。なぁんかこう、集中してないっつーか……」
「赤坂クンが東雲チーフはヘッドハンティングに狙われてるとか言ってたけど、何か関係あるのかしら?」
「その話も青山サンがそれっぽくチーフに探り入れたらしいんですけど、何かハッキリしないンすよ。もっとも……あのチーフがココ辞めて別のトコに移る……なんて考えられないンすけどね」
「そーよねぇ。東雲チーフとウチのチーフと取締役と松原さんは、この会社に骨埋めそうよね~」
「でもその割りに、なんか最近ホンットに変なんすよ! まるで1ヶ月後に退社するヒトみたいに、ミョ~に身の回りを片付けてるし」
「そうなの? ん、でもきっと今日からはそんなコト言ってられなくなるわよ~?」
「なんか、あるんデス?」
「新作プロットが上がったから、今日中にはそっちに企画書がいくから。神巫君もそろそろアシスタントからメインプログラマーに昇格する頃だし、また残業の嵐がやってくるわよ。きっと東雲チーフは忙しくなる前に片付けコトをしただけなんじゃない?」
「それなら、良いんですけどね」
「じゃあね、もうちょっと気合い入れなさいよ」
「ええ、気合いを入れ直す為に一服してきます~」
市ヶ谷と別れた後も、神巫は陰鬱な気分のままだった。
確かに市ヶ谷の言う通り……なのかもしれない。
だが、やっぱり最近の柊一の様子は酷く気になる物だった。
さすがに市ヶ谷にそんな話をする訳にはいかないが、プライベートにおいても柊一は神巫を避けているようにすら見えた。
確かに週末に神巫のアパートで時間を過ごしたりする事はあるが、それも目に見えて回数が減っている。
第一、一緒にいても柊一はどことなく上の空の事が多かった。
別にあからさまに神巫を嫌悪している……というワケではない。
どちらかと言えば、以前にも増して気遣いをされる事も多い。
しかし、逆にその気遣いが、まるでもうすぐ逢えなくなるような危機感を神巫に抱かせる。
問いつめた所で、何もないと言われてしまえばそれきりだったし。
やはり自分は年下に過ぎず、柊一の目から見れば特別な相手として見なされていないように思えた。
元々楽観主義の神巫は、これが平素なら柊一に向かってそれなりのアピールも出来るのだが。
重要書類を紛失している身の上としては、あまりあっけらかんとしているワケにも行かず、結果として今のところコレと言った打開案を見いだせないでいるのだ。
「あーあ、カッコワリィ」
神巫はボヤキながら大きな溜息を吐いた。
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