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第61話
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「可能性はありますよ。白王華は多聞サンの仰るゲームデザインの会社を離職した後、いくつか同列の会社に再就職していますがあまり順調だったとは言いかねる履歴を持っています。結局、最初の会社を離職した理由が、いわゆる業界の中でブラックリストとか良くないウワサに転じてしまったんでしょう。件の組織との付き合いが出来たのは、離職中に入り浸っていた賭け麻雀の店なんです。いまだにゲームデザインの職を続けている多聞サンと、犯罪組織の使い走りをしている自分を比較して逆恨みをする事は有り得ますから」
「そう……だな。ゲームデザイナーとしては、レンは出世株だし。そういうコトなら、ウチに目を付けた理由も解る気がする」
「ショーゴさんまで、なに言ってンのさっ!」
とはいえ、相手の正体が知れていくつかの疑問は解けた。
電話を取り次いだ赤坂は「びゃくおうげ」を聞き取り損ねて「びゃっこげ」になってしまったのだろう。
そして赤坂と話をしていた時に、通りの向こうに見かけた人物のそれは紛れもない白王華だったのだ。
好ましくない人物であったからこそ、シルエットに見覚えがあっても思い出す事が出来なかった…。
「俺は仕事柄、色んな会社の連中と面識がある。白王華とも何度か顔を合わせたコトがあるから、向こうも俺を覚えていたんだろう。だから俺が電話を受けた時には、何も言わずに切れたんだ」
「でも、そんな理由なんて今はどうでもいいよ! このままじゃ、シノさんがアイツに食い物にされっちまう!」
「つっても、恐喝されてるのが俺とかオマエなら、この警視サンに頼んでさっさと検挙して貰えるけど。だいたい考えてもみろ! シノに向かって「オマエ恐喝されてるだろ」って言ったって、あの頑固者が「はい、そうです」って言うワケ無いだろ? もしそれが言えるタマだったら、今頃ちゃんと俺達に泣きついてきてるっつーの」
「もういいよ! それなら俺が白王華をブッ殺してでも助けるから! 俺に遺恨があるなら、俺に噛み付いてこいっつーんだ卑怯者め!」
「オマエなぁ。短慮にも程があるぞ? 本物の警察官を前にして、物騒な発言するなよ………」
いきり立つ多聞に、松原は困り果てたように溜息を吐く。
「なんだか困ったコトになってしまいましたねぇ?」
困窮している松原に向かって、片岡が同情混じりの声を掛けた。
「確かに、重要参考人の白王華を殺害されては困るが」
不意に、それまで黙っていた弥勒寺がボソリと呟く。
「弥勒寺サンに、なにか思いついたコトが?」
「……うん? だが、これは、あまり気の短い人間にはちょっと難しいかな?」
「なんだよ? 俺は、シノさんを窮地から救えるなら、協力するぞ」
真顔の多聞をチラッと見やってから、弥勒寺は口を開いた。
「もしも、白王華が暴力事件を起こしたら、どうする片岡君?」
「そりゃあ、願ってもない好都合でしょう。暴力事件なら証人も居ますし、全くの別件ですから向こうに気付かれる心配も無いでしょうしね。……でも、用心深いあの男がそう簡単にそんな事件を起こしてはくれませんでしょう?」
「いや、待った! もし白王華がアンタらの言うようにレンに遺恨を持って逆恨みからウチをツブそうとしてるなら、レンに挑発されりゃもしかしてもしかするんじゃん?」
松原の言葉に、多聞もハッとなった。
「でも多聞君は結構血気盛んな人みたいですから、先に手を出しちゃいそうですよね。それに、都合良くその場に警官が居合わせたりする可能性も低いし」
弥勒寺は細い目をますます細めて、ニイ~ッと笑う。
「そりゃ、先に殴った方が暴力沙汰で訴えられちゃうでしょう。特に遺恨のある相手なら、絶対に告訴は取り止めないでしょうしねェ」
確信犯の顔で微笑む警官と新聞記者に、多聞は一瞬言葉に詰まったが。
しかし白王華のような人間が、柊一に近づく事さえ多聞は我慢ならなかった。
柊一が一体どんな理由で恐喝されているのか、それは解らないけれど。
だが、ほんの一筋でも柊一を窮地から救える可能性があるのならば。
多聞はジッと正面の2人の顔を見据え、ゆっくり頷いたのだった。
「そう……だな。ゲームデザイナーとしては、レンは出世株だし。そういうコトなら、ウチに目を付けた理由も解る気がする」
「ショーゴさんまで、なに言ってンのさっ!」
とはいえ、相手の正体が知れていくつかの疑問は解けた。
電話を取り次いだ赤坂は「びゃくおうげ」を聞き取り損ねて「びゃっこげ」になってしまったのだろう。
そして赤坂と話をしていた時に、通りの向こうに見かけた人物のそれは紛れもない白王華だったのだ。
好ましくない人物であったからこそ、シルエットに見覚えがあっても思い出す事が出来なかった…。
「俺は仕事柄、色んな会社の連中と面識がある。白王華とも何度か顔を合わせたコトがあるから、向こうも俺を覚えていたんだろう。だから俺が電話を受けた時には、何も言わずに切れたんだ」
「でも、そんな理由なんて今はどうでもいいよ! このままじゃ、シノさんがアイツに食い物にされっちまう!」
「つっても、恐喝されてるのが俺とかオマエなら、この警視サンに頼んでさっさと検挙して貰えるけど。だいたい考えてもみろ! シノに向かって「オマエ恐喝されてるだろ」って言ったって、あの頑固者が「はい、そうです」って言うワケ無いだろ? もしそれが言えるタマだったら、今頃ちゃんと俺達に泣きついてきてるっつーの」
「もういいよ! それなら俺が白王華をブッ殺してでも助けるから! 俺に遺恨があるなら、俺に噛み付いてこいっつーんだ卑怯者め!」
「オマエなぁ。短慮にも程があるぞ? 本物の警察官を前にして、物騒な発言するなよ………」
いきり立つ多聞に、松原は困り果てたように溜息を吐く。
「なんだか困ったコトになってしまいましたねぇ?」
困窮している松原に向かって、片岡が同情混じりの声を掛けた。
「確かに、重要参考人の白王華を殺害されては困るが」
不意に、それまで黙っていた弥勒寺がボソリと呟く。
「弥勒寺サンに、なにか思いついたコトが?」
「……うん? だが、これは、あまり気の短い人間にはちょっと難しいかな?」
「なんだよ? 俺は、シノさんを窮地から救えるなら、協力するぞ」
真顔の多聞をチラッと見やってから、弥勒寺は口を開いた。
「もしも、白王華が暴力事件を起こしたら、どうする片岡君?」
「そりゃあ、願ってもない好都合でしょう。暴力事件なら証人も居ますし、全くの別件ですから向こうに気付かれる心配も無いでしょうしね。……でも、用心深いあの男がそう簡単にそんな事件を起こしてはくれませんでしょう?」
「いや、待った! もし白王華がアンタらの言うようにレンに遺恨を持って逆恨みからウチをツブそうとしてるなら、レンに挑発されりゃもしかしてもしかするんじゃん?」
松原の言葉に、多聞もハッとなった。
「でも多聞君は結構血気盛んな人みたいですから、先に手を出しちゃいそうですよね。それに、都合良くその場に警官が居合わせたりする可能性も低いし」
弥勒寺は細い目をますます細めて、ニイ~ッと笑う。
「そりゃ、先に殴った方が暴力沙汰で訴えられちゃうでしょう。特に遺恨のある相手なら、絶対に告訴は取り止めないでしょうしねェ」
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しかし白王華のような人間が、柊一に近づく事さえ多聞は我慢ならなかった。
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