ワーカホリックな彼の秘密

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第60話

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「もしかして協力が仰げないってコトは、シノさんのコトはこのまま放置なの?」
「放置もなにも、恐喝されている人がそれを訴えてこない限りは、警察はなにも動けませんから」

 諦めてくれと言わんばかりに首を横に振る弥勒寺に、多聞はますます狼狽える。

「それはそうだけど、でも………」

 この2人の話から察するに、柊一は確実に白王華の餌食にされようとしているに違いない。
 それをこのまま見過ごしておくワケにはいかない。

「多聞サンは白王華のコトをご存じのようですけど、過去に何かあったんですか?」
「別に、話すほどのコトでもないケドさ」

 吐き捨てるように告げ、多聞は苦々しい思い出を蘇らせて渋面になる。
 白王華…という人物は、多聞がまだ独立する前に勤めていた会社で出会った、同じデザイナー室に勤めている男だった。
 横柄な自信家で、己のプロットが常に採用されると確信していた。
 初めのうちはそれなりに付き合ってもいたが、尊大な態度にウンザリもしたし、実は裏で随分あくどい事もしていると知って疎遠になったのだが。
 社を上げての一大企画が持ち上がった時、所属のデザイナーから企画を集めて選考する話が出た。
 その時に白王華は、多聞が以前から温めていたプロットを盗み企画書を提出した。
 まだ付き合いがあった頃に、ほんの少しだけだが語った多聞の「秘蔵プロット」の話を白王華は覚えており、大きな企画であるからこそ多聞がそれを使って企画書を提出する事を見越しての行動だった。
 白王華は、多聞の才能を利用して多聞を出し抜き、社内に多聞が居られない状況を作りだして会社内から追い出して、あげくに多聞に恩を売る風を装って多聞の才を己の利潤に利用するつもりだったらしい。
 まさか白王華がそこまでの事をするとは思っていなかった多聞は、なにも知らずにそのプロットを提出し、先に提出されていた白王華のプロットと内容がそっくりだった事から「他人のアイディアを盗用した」嫌疑を掛けられたのだ。
 しかし、一度はそれでざわめきたった選考会だが、結局はそんな事でイベントそのものを潰してしまうようなワケにもいかないという話になり、同じ企画でも双方それぞれのカラーも違うし、企画書を提出したのが多聞と白王華だけという訳でもなかったので、選考はそのまま進められた。
 そして、結局選ばれたのは多聞のプロットだった。
 上っ面をなぞっただけの白王華のプロットは、初期の段階で選考から落とされており、だからこそ選考会は盗用の件を深く追求しなかったのだ…という話は、後になって聞かされたが。
 それがきっかけで、白王華は社内に居場所を無くしやがては社を去っていった。

「つまり、多聞サンとしては白王華に遺恨はあれど好意はカケラもないって言いたいワケですか」
「当たり前だろ。選考会は事情を解ってくれたけど、詳細を知らないヤツらは俺をパクリ野郎だと勘違いして、しばらくエライ目に遭わされたんだからな」
「なるほど。………でも、意外とその件を白王華もまた遺恨に思っていて、今回そちらの企業をターゲッティングしたのかもしれませんね」
「ええっ? まさかぁ!」

 思わず頓狂な声を上げてしまった多聞に、向かい側の片岡と弥勒寺は真顔で首を横に振った。
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