ワーカホリックな彼の秘密

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第57話

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 多聞と松原は、ドトールの狭い座席にひしめき合うようにして座っていた。
 2人に声を掛けてきた背の高い「恐怖の威圧感」氏に、半ば強引に連れてこられたからである。

「まず、お名前をお尋ねしてもよろしいですか?」

 物腰の柔らかい声音の威圧感氏は、サングラスを外してニッコリと微笑んでみせたが。
 切れ長の目をますます細めて微笑んで見せていても、やっぱり瞳が笑っていない。
 ヘビに睨まれたカエルの如く竦み上がっている2人は、肘で相手を突きあった。
 実のところ、ただ無駄に威圧感を掛けられただけで2人はこの男に追いてきた訳ではない。
 ルノアールの前で声を掛けてきた時に、この男はポケットから黒革に金箔押しの手帳を取りだし、その内側に顔写真と共に国家公務員である身分と氏名を記載した証明書を提示されてしまったからだ。
 『どうする、ショーゴさん?』
 『どうするもこうするも、仕方ないじゃんか』
 目で問い掛ける多聞に、松原もまた目で答えた。

「松原章吾です」
「多聞蓮太郎です」

 名乗ってから、2人はとりあえず携帯していた運転免許証を差し出した。

「ありがとうございます。……それでは、どういう理由であの喫茶店を覗き込んでいたのか、お話し願えますか?」

 出来れば早々に説明して、この威圧感氏------名は弥勒寺と名乗った------から解放されたかったが。
 どこからどうやって説明していいものか、2人は言葉に詰まってしまった。

「弥勒寺サン、黙っていなくなっちゃうから探しましたよ~~」

 半ば凍り付いた状態で顔を引きつらせていた2人に対し、弥勒寺が何かを言おうと口を開き掛けた時。
 不意に現れた小柄な男が、子供のような顔に笑みを浮かべて弥勒寺の隣に無遠慮に座る。

「変なコトを言わないで下さいよ、片岡君。探さなくても、携帯で連絡出来るでしょう?」
「なに言ってるんですか~! 張り込み中の相手に電話なんて掛ける訳に行かないから、散々メールしたんですよ! チェックしてないでしょう?」
「メール?」

 スーツの内ポケットに手を入れた弥勒寺は、おもむろに携帯電話を取り出す。

「おや? 電源が切れてますね」
「全く、コレだから弥勒寺サンは!」

 困ったヒトだとでも言いたげに肩を竦めた片岡と呼ばれた男は、その時になってようやく向かい側に座る2人の存在に気が付いた。

「あれ~?」

 ジイ~ッと多聞の顔を見つめ首を傾げた片岡は、そのまま黙ってなおも多聞を見つめてくる。
 一瞬、顔をしかめた物の、多聞もまた不審な顔で片岡を見つめ返した。

「ああっ! オマエ!」
「やっぱり! 多聞サンじゃないですかっ!」

 ほぼ同時に、多聞と片岡は相手を指差した。
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