57 / 107
第57話
しおりを挟む
多聞と松原は、ドトールの狭い座席にひしめき合うようにして座っていた。
2人に声を掛けてきた背の高い「恐怖の威圧感」氏に、半ば強引に連れてこられたからである。
「まず、お名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
物腰の柔らかい声音の威圧感氏は、サングラスを外してニッコリと微笑んでみせたが。
切れ長の目をますます細めて微笑んで見せていても、やっぱり瞳が笑っていない。
ヘビに睨まれたカエルの如く竦み上がっている2人は、肘で相手を突きあった。
実のところ、ただ無駄に威圧感を掛けられただけで2人はこの男に追いてきた訳ではない。
ルノアールの前で声を掛けてきた時に、この男はポケットから黒革に金箔押しの手帳を取りだし、その内側に顔写真と共に国家公務員である身分と氏名を記載した証明書を提示されてしまったからだ。
『どうする、ショーゴさん?』
『どうするもこうするも、仕方ないじゃんか』
目で問い掛ける多聞に、松原もまた目で答えた。
「松原章吾です」
「多聞蓮太郎です」
名乗ってから、2人はとりあえず携帯していた運転免許証を差し出した。
「ありがとうございます。……それでは、どういう理由であの喫茶店を覗き込んでいたのか、お話し願えますか?」
出来れば早々に説明して、この威圧感氏------名は弥勒寺と名乗った------から解放されたかったが。
どこからどうやって説明していいものか、2人は言葉に詰まってしまった。
「弥勒寺サン、黙っていなくなっちゃうから探しましたよ~~」
半ば凍り付いた状態で顔を引きつらせていた2人に対し、弥勒寺が何かを言おうと口を開き掛けた時。
不意に現れた小柄な男が、子供のような顔に笑みを浮かべて弥勒寺の隣に無遠慮に座る。
「変なコトを言わないで下さいよ、片岡君。探さなくても、携帯で連絡出来るでしょう?」
「なに言ってるんですか~! 張り込み中の相手に電話なんて掛ける訳に行かないから、散々メールしたんですよ! チェックしてないでしょう?」
「メール?」
スーツの内ポケットに手を入れた弥勒寺は、おもむろに携帯電話を取り出す。
「おや? 電源が切れてますね」
「全く、コレだから弥勒寺サンは!」
困ったヒトだとでも言いたげに肩を竦めた片岡と呼ばれた男は、その時になってようやく向かい側に座る2人の存在に気が付いた。
「あれ~?」
ジイ~ッと多聞の顔を見つめ首を傾げた片岡は、そのまま黙ってなおも多聞を見つめてくる。
一瞬、顔をしかめた物の、多聞もまた不審な顔で片岡を見つめ返した。
「ああっ! オマエ!」
「やっぱり! 多聞サンじゃないですかっ!」
ほぼ同時に、多聞と片岡は相手を指差した。
2人に声を掛けてきた背の高い「恐怖の威圧感」氏に、半ば強引に連れてこられたからである。
「まず、お名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
物腰の柔らかい声音の威圧感氏は、サングラスを外してニッコリと微笑んでみせたが。
切れ長の目をますます細めて微笑んで見せていても、やっぱり瞳が笑っていない。
ヘビに睨まれたカエルの如く竦み上がっている2人は、肘で相手を突きあった。
実のところ、ただ無駄に威圧感を掛けられただけで2人はこの男に追いてきた訳ではない。
ルノアールの前で声を掛けてきた時に、この男はポケットから黒革に金箔押しの手帳を取りだし、その内側に顔写真と共に国家公務員である身分と氏名を記載した証明書を提示されてしまったからだ。
『どうする、ショーゴさん?』
『どうするもこうするも、仕方ないじゃんか』
目で問い掛ける多聞に、松原もまた目で答えた。
「松原章吾です」
「多聞蓮太郎です」
名乗ってから、2人はとりあえず携帯していた運転免許証を差し出した。
「ありがとうございます。……それでは、どういう理由であの喫茶店を覗き込んでいたのか、お話し願えますか?」
出来れば早々に説明して、この威圧感氏------名は弥勒寺と名乗った------から解放されたかったが。
どこからどうやって説明していいものか、2人は言葉に詰まってしまった。
「弥勒寺サン、黙っていなくなっちゃうから探しましたよ~~」
半ば凍り付いた状態で顔を引きつらせていた2人に対し、弥勒寺が何かを言おうと口を開き掛けた時。
不意に現れた小柄な男が、子供のような顔に笑みを浮かべて弥勒寺の隣に無遠慮に座る。
「変なコトを言わないで下さいよ、片岡君。探さなくても、携帯で連絡出来るでしょう?」
「なに言ってるんですか~! 張り込み中の相手に電話なんて掛ける訳に行かないから、散々メールしたんですよ! チェックしてないでしょう?」
「メール?」
スーツの内ポケットに手を入れた弥勒寺は、おもむろに携帯電話を取り出す。
「おや? 電源が切れてますね」
「全く、コレだから弥勒寺サンは!」
困ったヒトだとでも言いたげに肩を竦めた片岡と呼ばれた男は、その時になってようやく向かい側に座る2人の存在に気が付いた。
「あれ~?」
ジイ~ッと多聞の顔を見つめ首を傾げた片岡は、そのまま黙ってなおも多聞を見つめてくる。
一瞬、顔をしかめた物の、多聞もまた不審な顔で片岡を見つめ返した。
「ああっ! オマエ!」
「やっぱり! 多聞サンじゃないですかっ!」
ほぼ同時に、多聞と片岡は相手を指差した。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる