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第56話
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ルノアールを出た柊一は、ひどく思い詰めた顔で駅に向かっていた。
白王華からの呼び出しはあまりにもあからさまで、しかも頻繁だった。
このままでは、周りの人間に不審に思われるのは時間の問題だろう。
否、既に社内には「柊一がヘッドハンティングの対象になっている」とのウワサが、まことしやかに流れている。
それに関しては、さすがに青山を初めとする制作部の面々は動じている様子もないが。
しかし、このままの状態が続けば、彼らとても不審を抱くだろう。
白王華自身は「そのつもり」で掛けてきているから、制止した所で聞くような耳を持ってはいない。
まさしく、自分は今ぎりぎりのところまで追い込まれてきている……と言えた。
だが。
柊一は、白王華の思惑通りに事が運ぶ…なんて、絶対に許せなかった。
己の身体的な事情を暴露される事などは、構いはしない。
それによって、世間から奇異な目で眺められたり、くだらぬ流言に煩わされる事はあるだろうが、それは所詮「ヒトのウワサ」に過ぎず、時が経てばやがて別の興味を求めて多くの好奇心は去っていくだろう。
それに関して言えば、些末な事に過ぎない。
もう一つの書類に比べれば、柊一に対する「脅威」には成り得ない。
その…もう一つの書類が、ひどく問題なのだ。
あの書類を取り戻す事が出来なければ、神巫は職を失いかねないだろうし、社の存続さえも危うくなる可能性がある。
自分が白王華の言いなりになりさえすれば、最初の「危機」は避けられるとしても。
白王華の真意が、単に柊一を引き抜くだけで終わるようには思えなかった。
ああいった手合いは、1度味を占めたら骨の髄までしゃぶり尽くす。
柊一が狙いであったとすれば、柊一に1円でも価値が残っている間は決して離れはしない。
再起不能になるまで利潤を吸い尽くし、自分に余波がくるとなれば即座に切り捨てて逃げていく。
それが解っていて、白王華如きに屈する事は柊一には耐え難かったのだ。
しかし、全てを傷つけないままに白王華を排除する事は不可能だと言う事も解っていて。
追い詰められて、やはり自分が守ろうと思うものに傷を負わせない為には、自分が盾にならねばならない。
だが、例え全てを切り捨て、全てをなげうってまでも「守りたい」と思うものはあれど。
白王華にいいように弄ばれる事を想像しただけで、耐え難い悪寒に襲われる。
あんな奴に抱かれるぐらいならば、いっそ心中でもした方がマシだ………と。
そう思った瞬間、柊一は1筋の光明を見いだしたのだ。
結局、どうあっても「なにか」を選ばなければならず、現状を維持する事が不可能であるのならば。
そして、一時しのぎではなく確実に完全に「守るべきもの」の安全を確保するには。
白王華を排除するしか、他に方法はないのだ。
1度きっぱりと方向を決めてしまうと、柊一は滅多な事では動じない。
もちろん、多聞の新しい企画も、自分のプログラマーとしてのテクニックも、一片たりとも白王華如きに提供してやるつもりもない。
最後の最後に、白王華は今度の一件で柊一に(もしくはあの会社に)ターゲットを決めた事を後悔する事になるだろう。
後は、柊一の立ち回り次第だ。
そして柊一の撒いた餌に、白王華はなんの疑問もなく食いついてきている。
既に、賽は投げられた。
今更になって、後に戻る事は出来はしない。
この選択を、悔やんでもいない。
ただ、結果が出た時の多聞の怒った顔と、神巫の狼狽えた顔が目の前にちらついて。
それだけが、酷く心残りだった。
白王華からの呼び出しはあまりにもあからさまで、しかも頻繁だった。
このままでは、周りの人間に不審に思われるのは時間の問題だろう。
否、既に社内には「柊一がヘッドハンティングの対象になっている」とのウワサが、まことしやかに流れている。
それに関しては、さすがに青山を初めとする制作部の面々は動じている様子もないが。
しかし、このままの状態が続けば、彼らとても不審を抱くだろう。
白王華自身は「そのつもり」で掛けてきているから、制止した所で聞くような耳を持ってはいない。
まさしく、自分は今ぎりぎりのところまで追い込まれてきている……と言えた。
だが。
柊一は、白王華の思惑通りに事が運ぶ…なんて、絶対に許せなかった。
己の身体的な事情を暴露される事などは、構いはしない。
それによって、世間から奇異な目で眺められたり、くだらぬ流言に煩わされる事はあるだろうが、それは所詮「ヒトのウワサ」に過ぎず、時が経てばやがて別の興味を求めて多くの好奇心は去っていくだろう。
それに関して言えば、些末な事に過ぎない。
もう一つの書類に比べれば、柊一に対する「脅威」には成り得ない。
その…もう一つの書類が、ひどく問題なのだ。
あの書類を取り戻す事が出来なければ、神巫は職を失いかねないだろうし、社の存続さえも危うくなる可能性がある。
自分が白王華の言いなりになりさえすれば、最初の「危機」は避けられるとしても。
白王華の真意が、単に柊一を引き抜くだけで終わるようには思えなかった。
ああいった手合いは、1度味を占めたら骨の髄までしゃぶり尽くす。
柊一が狙いであったとすれば、柊一に1円でも価値が残っている間は決して離れはしない。
再起不能になるまで利潤を吸い尽くし、自分に余波がくるとなれば即座に切り捨てて逃げていく。
それが解っていて、白王華如きに屈する事は柊一には耐え難かったのだ。
しかし、全てを傷つけないままに白王華を排除する事は不可能だと言う事も解っていて。
追い詰められて、やはり自分が守ろうと思うものに傷を負わせない為には、自分が盾にならねばならない。
だが、例え全てを切り捨て、全てをなげうってまでも「守りたい」と思うものはあれど。
白王華にいいように弄ばれる事を想像しただけで、耐え難い悪寒に襲われる。
あんな奴に抱かれるぐらいならば、いっそ心中でもした方がマシだ………と。
そう思った瞬間、柊一は1筋の光明を見いだしたのだ。
結局、どうあっても「なにか」を選ばなければならず、現状を維持する事が不可能であるのならば。
そして、一時しのぎではなく確実に完全に「守るべきもの」の安全を確保するには。
白王華を排除するしか、他に方法はないのだ。
1度きっぱりと方向を決めてしまうと、柊一は滅多な事では動じない。
もちろん、多聞の新しい企画も、自分のプログラマーとしてのテクニックも、一片たりとも白王華如きに提供してやるつもりもない。
最後の最後に、白王華は今度の一件で柊一に(もしくはあの会社に)ターゲットを決めた事を後悔する事になるだろう。
後は、柊一の立ち回り次第だ。
そして柊一の撒いた餌に、白王華はなんの疑問もなく食いついてきている。
既に、賽は投げられた。
今更になって、後に戻る事は出来はしない。
この選択を、悔やんでもいない。
ただ、結果が出た時の多聞の怒った顔と、神巫の狼狽えた顔が目の前にちらついて。
それだけが、酷く心残りだった。
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