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第52話
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「ショーゴさん、ゴメン。待たせたね」
「いや、まだ大丈夫だから」
スターバックスの奥の席に居た松原は、多聞に応えながらもこちらに振り返りもしない。
「大丈夫って、一体なんなの?」
「ん? いや、そろそろシノが来ると思うんだ」
「え………? シノさんもココに来るの?」
出来れば、面と向かっての対話などは避けたい。
一瞬怯んだ多聞に、松原はチラッと目線を寄越した。
「ココには来ねェよ。でも、もうしばらくすればシノが退社してくると思うから、後を追けるんだ」
「はぁ?」
ワケが解らず、多聞は松原を呆れ顔で眺める。
「いいから、座れよ。オマエみたいにデッカイのがぼんやり突っ立ってたら、無駄に目立つだろ?」
「あ、うん。…だけどショーゴさん、シノさんを追けるって?」
「全然無関係ならただの空振りだけど、オマエの見た携帯男ってのがホントにシノに電話してきた相手なら、そいつはつまりシノの様子っつーか、会社の様子っつーか、そーいうのを観察しに来てた…ってコトだろ? それだけシノに、プレッシャーなりストレスなりを掛けてこようとしてるワケだ」
「なるほど。それで?」
「自販機の所で一服してた広尾にそれとなく訊いたら、シノは今日、急に用事が出来たとかなんとか言ってセキュリティのマスターキーを青山に渡してたって言うから、そろそろ来る筈なんだ」
「シノさんがこの時間に?」
青山が「ワーカホリック」と呼ぶ柊一は、滅多な事では常に社に居残っていて、社屋のセキュリティセットをして帰る。
その柊一が、夕方電話が来た後に「急な用事」と称して早々に切り上げるという。
確かにそれは「異常事態」と呼べるだろう。
もっとも、日常の全体から見たら些末な事に過ぎず、柊一の「早退」にここまでの不信感を募らせている人間など自分達以外には居ない。
「広尾が言うには、ここ何回か外線が掛かってくると定時で切り上げて帰ってるらしい。青山がそれとなく聞いたら、私事の用件だからと称してハッキリ言わないンだと。青山が聞き出せないようじゃ、あのハマグリは口開く気なんて絶対無いんだろうさ」
「いつ頃から、何回くらいなのかな? でも、赤坂の話だと電話はほぼ毎日掛かってきてたみたいだろ? って事は、電話の度に相手と会ってる……ってワケでもないっぽいじゃん?」
「電話の相手か、もしくはシノが言う所の「私事」の内容を掴むには、シノを追けるしかないだろ?」
「ああ、そう言うコトか」
「来たぞ」
そう言って松原は立ち上がり、多聞と2人で店を出た。
改札を抜ける柊一は、自分の後ろを付いてくる人間が居るなどとは夢にも思っていない感じで、振り返りもせずに歩いていく。
「こっちのホームはシノさんの帰る方向とは逆だよ?」
「やっぱり、呼び出し電話だったらしいな」
他人より頭一つ大きい多聞は、雑踏の中にあっても目立つ。
それには自覚があったので、松原の後ろを付いて歩きながら多聞はやや猫背に身を縮こませていた。
「でも、そんなストレス掛けたり呼び出したりって、相手は何がしたいんだろう?」
「……最悪、産業スパイかもな」
「は?」
あまりにも非日常的な単語が出てきた事で、多聞は思わずマヌケな声を出してしまった。
「いや、まだ大丈夫だから」
スターバックスの奥の席に居た松原は、多聞に応えながらもこちらに振り返りもしない。
「大丈夫って、一体なんなの?」
「ん? いや、そろそろシノが来ると思うんだ」
「え………? シノさんもココに来るの?」
出来れば、面と向かっての対話などは避けたい。
一瞬怯んだ多聞に、松原はチラッと目線を寄越した。
「ココには来ねェよ。でも、もうしばらくすればシノが退社してくると思うから、後を追けるんだ」
「はぁ?」
ワケが解らず、多聞は松原を呆れ顔で眺める。
「いいから、座れよ。オマエみたいにデッカイのがぼんやり突っ立ってたら、無駄に目立つだろ?」
「あ、うん。…だけどショーゴさん、シノさんを追けるって?」
「全然無関係ならただの空振りだけど、オマエの見た携帯男ってのがホントにシノに電話してきた相手なら、そいつはつまりシノの様子っつーか、会社の様子っつーか、そーいうのを観察しに来てた…ってコトだろ? それだけシノに、プレッシャーなりストレスなりを掛けてこようとしてるワケだ」
「なるほど。それで?」
「自販機の所で一服してた広尾にそれとなく訊いたら、シノは今日、急に用事が出来たとかなんとか言ってセキュリティのマスターキーを青山に渡してたって言うから、そろそろ来る筈なんだ」
「シノさんがこの時間に?」
青山が「ワーカホリック」と呼ぶ柊一は、滅多な事では常に社に居残っていて、社屋のセキュリティセットをして帰る。
その柊一が、夕方電話が来た後に「急な用事」と称して早々に切り上げるという。
確かにそれは「異常事態」と呼べるだろう。
もっとも、日常の全体から見たら些末な事に過ぎず、柊一の「早退」にここまでの不信感を募らせている人間など自分達以外には居ない。
「広尾が言うには、ここ何回か外線が掛かってくると定時で切り上げて帰ってるらしい。青山がそれとなく聞いたら、私事の用件だからと称してハッキリ言わないンだと。青山が聞き出せないようじゃ、あのハマグリは口開く気なんて絶対無いんだろうさ」
「いつ頃から、何回くらいなのかな? でも、赤坂の話だと電話はほぼ毎日掛かってきてたみたいだろ? って事は、電話の度に相手と会ってる……ってワケでもないっぽいじゃん?」
「電話の相手か、もしくはシノが言う所の「私事」の内容を掴むには、シノを追けるしかないだろ?」
「ああ、そう言うコトか」
「来たぞ」
そう言って松原は立ち上がり、多聞と2人で店を出た。
改札を抜ける柊一は、自分の後ろを付いてくる人間が居るなどとは夢にも思っていない感じで、振り返りもせずに歩いていく。
「こっちのホームはシノさんの帰る方向とは逆だよ?」
「やっぱり、呼び出し電話だったらしいな」
他人より頭一つ大きい多聞は、雑踏の中にあっても目立つ。
それには自覚があったので、松原の後ろを付いて歩きながら多聞はやや猫背に身を縮こませていた。
「でも、そんなストレス掛けたり呼び出したりって、相手は何がしたいんだろう?」
「……最悪、産業スパイかもな」
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