ワーカホリックな彼の秘密

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第48話

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 柊一の元に掛かってきた外線…というもの、気に障る。
 柊一が指名されたのは製作室のチーフだから…と言えばそれまでだが、そもそも制作部宛に外線が入る事が滅多にないし、あっても精々社内の人間が外出中に掛けてくる…というのが、お決まりのパターンだった。
 社内の人間でもない人物が、制作部の個人を指名して電話を掛けてくる…としたら、最大譲ってその人間のプライベートな知人…以外には考えられない。

「多聞サン、どうかしたんすか?」
「ん? いや。シノさん宛に外線なんて珍しいなって思ってさ」
「ああ、そうっすね。でも、ここ何回か立て続けですよ?」
「立て続け? オマエが取ってるの?」
「俺は、今日も込みで3回目かな? でも松尾も取ったって言ってましたし」
「全部同じヤツからなの?」
「はい。いつもこれくらいの時間にかかってきてて。先刻のしっぽくとかポタリンとか言うヒトですね」
「オマエ、先刻と名前変わってるじゃんか! そんなに何度も取り次いでる相手の名前ぐらい、ちゃんと覚えとけよ……」
「俺だってお得意先の名前なら覚えますけど、東雲サン宛に掛かってくる電話のコトまで知りませんよ」

 確かにそれは、一理あるとは思うが。

「あ、でも……」
「なに?」
「俺と松尾は最初、東雲サンの身内かなんかかと思ったんですけど。松原主任は東雲サンと幼馴染みなのに、そんな名前の人間に心当たりはないって言うし。その上主任は、そんな電話知らないって言うんですよ」
「知らない…とは?」
「主任はそんな電話、受けたコト無いって。ただ、いっつもこのくらいの時間にかかってくるし、主任は結構戻りが遅いコトが多いから、タイミング合わないだけかもしれないンすケド、松尾はやっぱ東雲サンクラスになるとヘッドハンティングとかってあるのかな? なんて言ってましたけど、まさかねぇ?」

 そこで赤坂から話を聞いていると、話題に上っていた松原が帰社してきた。

「なんだよ、レンがここに居るなんて珍しいな?」
「あ、おかえりなさい主任。多聞サンは、先日からかかってくる東雲サン宛の電話の件をお訊ねになってたんですよ!」

 己のポカミスで多聞が営業にやってきた事を隠す為に、赤坂は殊更後半部分を強調してみせる。

「シノ宛の電話? ああ、オマエと松尾が受けてるって、アレか」
「ショーゴさんは、受けたコト無いんだって?」
「無いっちゅーか。赤坂と松尾は単に俺がかかってくる時間に会社にいないだけだって言うんだけどな。たぶん、俺もその電話受けてると思うんだよ」
「だって、繋いでないんでしょ?」
「同じ時間帯に、無言電話を何回か取ってる」

 松原は不機嫌な顔で答えて、自席にカバンと上着を置いた。

「それって、同じヤツからなの?」
「ナンバーディスプレイに表示も出ないし、赤坂も松尾も相手の名前を覚えてねェから、確証はないんだけどな」
「でも、まだケツの青い赤坂はともかく、松尾はもう一通りの仕事任せても心配ないって、ショーゴさん言ってたじゃん。その松尾まで名前覚えられないって、どういうコトよ?」
「つまり、意図的に覚えづらいような名乗り方しかしてない…ってコトだろ?」
「……シノさんは、何にも言ってないワケ?」
「シノに比べたら、ハマグリの方が饒舌だよ」

 溜息混じりに答えた松原は、諦めきった顔をしてみせる。

「それって……」
「松原主任、スミマセン。お留守の間に、数件問い合わせが来ているんですけどよろしいですか?」

 多聞が言いかけた所に、総務の木村が松原に書類を手渡しに来た。

「あ、ゴメン。ショーゴさん、忙しいよね」

 戻ってきたばかりの松原は、そこで落ち着いて話をしているだけの余裕はない。
 その事に気付いた多聞は、そのままそこを離れようとしたのだが。

「レン、ちょっと待て。木村クン、用件は解ってるから書類だけ回しておいてくれる?」

 松原は書類をデスクの解りやすい場所に置き、木村を半ば追い払うようにして自席に戻らせると、次の用件が入らないうちに多聞の背中を押して「会議室」に入った。
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