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第45話
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「まぁ、焦らないで」
「焦るもなにもないだろう。一体どうやってそれを入手したのかは知らないが、わざわざ連絡を寄越したってコトは、それ自体の価値じゃなく取引したい物が別にあるんだろう?」
こちらがどれほど睨みつけた所で、相手は顔色一つ変える訳ではない。
むしろ余裕で薄ら笑いを浮かべている。
「そんなに端っから喧嘩腰になられちゃなぁ。これから僕と東雲さんは長い付き合いになるのに、最初の印象が悪くなってしまいますよ?」
「ふざけるな。俺はオマエと長く付き合うつもりなんて無いぞ」
「いいえ。これから東雲さんは、僕と仕事をするコトになりますから。長い付き合いになりますよ」
「なんだと?」
「解ってないなぁ。この書類と交換させて頂きたいのは東雲さんご自身……なんですよ?」
「冗談じゃない」
「冗談じゃありません。先刻も言ったように、僕はこの仕事を半ばボランティアでやっていて、本業はゲームのデザインをやってます。東雲さんには、僕のパートナーとしてプログラミングのお仕事をして頂こうと思ってますから」
ニイッと笑った白王華は、おもむろにカバンから一通の封筒を取りだした。
「こちら、東雲さんに「お買いあげ」頂きたい物件の、コピーです。中をご確認の上、取引をご検討下さい」
差し出された封筒を引ったくるように奪うと、柊一は乱暴に封を開けて中身を見る。
数枚のコピーは、紛れもなく件の「社外秘」になっていた書類だったが、それとは別に下の方から見覚えのある書類が現れた。
その最後の書類を目にした瞬間、柊一は驚愕に言葉も失う。
「それ、それ。本当にもう、入手するのに骨が折れましたよ。管理が厳しい上に、あの方ときたらちょっとやそっとの買収などには全く応じそうもないカタブツだし。医院に長くバイトで入っている看護師の方をようやく口説き落として辛うじてコピーが一枚手に入ったんですけどね」
顔を上げた柊一を、白王華はあからさまに物珍しげな表情で眺め回した。
「僕はこれでも今までに、結構オンナノコとも付き合ってきたし。場合によっては同性とも……なんてコトがあったりもしましたけどね。さすがに両性具有のヒトとは寝たコトないなぁ。両方あるヒトって、イク時はやっぱり両方同時…なんですか? まぁ、今日の所はとりあえず顔見せ…程度でお別れしようと思ってますけど。次の機会には是非朝までお付き合いして頂きたいですね」
ニヤリと笑い値踏みするように自分を見る白王華に、柊一は憤りを感じたが。
それを柊一が現す前に、白王華は伝票を持って立ち上がっていた。
「では、またご連絡しますね。ココの払いは、僕が済ませておきますから」
最後にやはり白王華は、虫酸が走るような目線で柊一を一瞥して去っていく。
白王華が店を出て行った後になって柊一はハッとなり、慌てて自分も席を立つとその場を離れた。
駅に向かう途中の道すがら、柊一は先程の会話を思い返す。
白王華の「次の機会には…」という台詞を思い出した瞬間、背筋に悪寒が走り嘔吐しそうなって、柊一は人の気配がほどんどない路地裏に駆け込んだ。
あの男に身体をいいように弄り回される事など、考えただけでもゾッとする。
だが………。
手渡された封書の中のコピーの事を考えると、ほとんど選択の余地はなかった。
自分がなにも言わずに白王華に従った場合、まず真っ先に怒るのは多聞だろうとふと考えて。
それから神巫は怒る前に狼狽えるだろうな、と考えた。
青山と広尾、新田と松原、そして自分自身の事を思い、暗い路地裏で1人、柊一は笑い出す。
いつでも自分は、この世界から消え失せても良いと思っていた。
日々を無為に過ごして、何1つ惜しむものを持たずにいると思っていたのに。
いざ、本当に己の存在が危うくなった今、あらゆるしがらみに自分は身動き出来ずにいる。
その愚かさに、乾いた笑いしか出てこなかったのだ。
「焦るもなにもないだろう。一体どうやってそれを入手したのかは知らないが、わざわざ連絡を寄越したってコトは、それ自体の価値じゃなく取引したい物が別にあるんだろう?」
こちらがどれほど睨みつけた所で、相手は顔色一つ変える訳ではない。
むしろ余裕で薄ら笑いを浮かべている。
「そんなに端っから喧嘩腰になられちゃなぁ。これから僕と東雲さんは長い付き合いになるのに、最初の印象が悪くなってしまいますよ?」
「ふざけるな。俺はオマエと長く付き合うつもりなんて無いぞ」
「いいえ。これから東雲さんは、僕と仕事をするコトになりますから。長い付き合いになりますよ」
「なんだと?」
「解ってないなぁ。この書類と交換させて頂きたいのは東雲さんご自身……なんですよ?」
「冗談じゃない」
「冗談じゃありません。先刻も言ったように、僕はこの仕事を半ばボランティアでやっていて、本業はゲームのデザインをやってます。東雲さんには、僕のパートナーとしてプログラミングのお仕事をして頂こうと思ってますから」
ニイッと笑った白王華は、おもむろにカバンから一通の封筒を取りだした。
「こちら、東雲さんに「お買いあげ」頂きたい物件の、コピーです。中をご確認の上、取引をご検討下さい」
差し出された封筒を引ったくるように奪うと、柊一は乱暴に封を開けて中身を見る。
数枚のコピーは、紛れもなく件の「社外秘」になっていた書類だったが、それとは別に下の方から見覚えのある書類が現れた。
その最後の書類を目にした瞬間、柊一は驚愕に言葉も失う。
「それ、それ。本当にもう、入手するのに骨が折れましたよ。管理が厳しい上に、あの方ときたらちょっとやそっとの買収などには全く応じそうもないカタブツだし。医院に長くバイトで入っている看護師の方をようやく口説き落として辛うじてコピーが一枚手に入ったんですけどね」
顔を上げた柊一を、白王華はあからさまに物珍しげな表情で眺め回した。
「僕はこれでも今までに、結構オンナノコとも付き合ってきたし。場合によっては同性とも……なんてコトがあったりもしましたけどね。さすがに両性具有のヒトとは寝たコトないなぁ。両方あるヒトって、イク時はやっぱり両方同時…なんですか? まぁ、今日の所はとりあえず顔見せ…程度でお別れしようと思ってますけど。次の機会には是非朝までお付き合いして頂きたいですね」
ニヤリと笑い値踏みするように自分を見る白王華に、柊一は憤りを感じたが。
それを柊一が現す前に、白王華は伝票を持って立ち上がっていた。
「では、またご連絡しますね。ココの払いは、僕が済ませておきますから」
最後にやはり白王華は、虫酸が走るような目線で柊一を一瞥して去っていく。
白王華が店を出て行った後になって柊一はハッとなり、慌てて自分も席を立つとその場を離れた。
駅に向かう途中の道すがら、柊一は先程の会話を思い返す。
白王華の「次の機会には…」という台詞を思い出した瞬間、背筋に悪寒が走り嘔吐しそうなって、柊一は人の気配がほどんどない路地裏に駆け込んだ。
あの男に身体をいいように弄り回される事など、考えただけでもゾッとする。
だが………。
手渡された封書の中のコピーの事を考えると、ほとんど選択の余地はなかった。
自分がなにも言わずに白王華に従った場合、まず真っ先に怒るのは多聞だろうとふと考えて。
それから神巫は怒る前に狼狽えるだろうな、と考えた。
青山と広尾、新田と松原、そして自分自身の事を思い、暗い路地裏で1人、柊一は笑い出す。
いつでも自分は、この世界から消え失せても良いと思っていた。
日々を無為に過ごして、何1つ惜しむものを持たずにいると思っていたのに。
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