ワーカホリックな彼の秘密

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第44話

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 早々に部下達を帰らせた後、柊一は自分も残らずに社屋を出る。
 先に部下を帰らせたのは、この一件を柊一は自分だけで収めてしまうつもりだったからだ。
 なんとか秘密裏に書類を取り戻し、それこそ神巫のデスクの引き出しの裏にでも落としておけば、結果として青山の言葉通りに事態は収まるだろう。
 もしこの所行が多聞に知れたら、先日の一件ではないが「神巫を庇っている」と咎められるかもしれないが。
 柊一自身は、これに関して神巫を庇うつもりなどカケラもない。
 もちろん、事が丸く収まった後で神巫に事情を説明してやる気もなかった。
 この行動は、神巫を庇う為ではなく、純粋に己自身の都合なのだ。
 プログラムの仕事は、柊一にとって一種の逃避であったけれど。
 しかし、それは同時に生き甲斐でもあった。
 柊一が全身全霊をかけて打ち込める、唯一の事。
 だが、同じ作業であっても他の場所ではそれは意味を成さない。
 今の会社の、今の状況は、柊一が望んで作ってきた場所なのだから。
 この何物にも代え難い場所を奪われては、それはもう死んだも同然だった。
 社外秘になっている書類が流失した事が公になれば、会社にとっては大打撃を受ける事になるだろう。
 そうなれば、柊一の理想とするこの場所が失われてしまう可能性も出てくる。
 それを避ける為には、まず事を秘密裏に運ばなければならない。
 故に、柊一は誰にも告げずにまず相手との接触をする事にしたのである。
 指定された場所は、繁華街に近い駅の側にあるカフェだった。
 中に入ると、奥の席から洒落たスーツを着た肩幅の広い男が柊一に向かって手を振ってみせる。

「こんばんわ、東雲さん。どうぞ座ってください」

 側に近づくとその男は愛想良く、向かい側の席を勧めてきた。

「すみませんね、お呼び出しして。まずはこれ、僕の名刺です。よろしく」

 差し出された名刺には「ヒューマン・リサーチ・インターナショナル社・マネージャー白王華晃」と記されていた。

「何が目的なんだ?」
「目的もなにも、名刺に書いてある通り僕はヒューマン・リサーチ・インターナショナルの社員として、優秀な人材をより活躍出来る職場へご紹介するのが仕事ですから」
「ヘッドハンティングするのに、恐喝までやらかすのか?」
「とんでもない! 恐喝……なんて言われちゃ心外だなぁ。僕の仕事は、社会貢献…いわばボランティアですよ。東雲さんのような優秀な人材が、あんなちっぽけな会社に埋もれているのはもったいないです。東雲さんの才能を浪費していると言っていいですよ」
「俺に才能があるかないかは別にして、居たくてあそこにいるんでね。それが結果として社会悪になろうが、俺は社会に貢献しなきゃならない義理もない。勝手なコトを言ってないで、さっさと用件を話せ」
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