ワーカホリックな彼の秘密

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第43話

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 退社時刻を少し回った頃、柊一のデスクで内線のコールが鳴る。

「はい、製作室です」

 受けた柊一に、電話の向こうの人間は外線の番号を告げるとそのまま通話を切ってしまった。
 製作室には、滅多に外線の取り次ぎなどない。
 あったところで、外出している営業からの問い合わせなどが精々だ。
 少し不審に思いつつも、今朝のメモの事を思い出して柊一は点滅している外線を繋ぐ。

「もしもし?」
「シノノメサン?」

 受話器の向こうの声は、まるで電波状況の悪い携帯からかけてきているか、もしくは一昔前に流行ったパーティーグッズの「声が変わるオモチャガス」でも吸い込んだ後のような、奇妙な声音だった。

「どのようなご用件でしょうか?」
「ダイジナモノハ、ミツカリマシタカ?」
「もしもし?」

 意味が判らずに問い掛けた柊一に向かって、相手はクスクスと意味深に笑ってみせる。

「オサガシノモノハ、ボクガダイジニホカンシテマス」
「なにを言って………」

 腹立たしく感じて一喝しかけて、柊一はハッとなった。

「ショウコノファクシミリヲ、コッソリイマカラオクルカラ。イッショニアイビキノバショモシラセルカラ、キットキテネ」

 そのまま、通話は切れた。
 柊一は立ち上がると、ファックスの置かれている総務と営業がある階下に降りる。
 退社時刻が過ぎてはいたが、総務も営業もそれなりに人間が残っていた。
 それでも昼間ほどこまめに着信したファックスをチェックしてはいないらしく、モーターが動き始めたファックスに誰かが近づく様子もない。

「シノ、どうしたんだ?」

 珍しく階下に降りてきた柊一に、松原が声をかける。

「ちょっと、備品のコトでファックス受け取りに来たんだよ」
「こんな時間に働いてる会社なんて、ウチぐらいかと思ったのに!」
「どこも不景気なのさ」

 何気ない風を装って答えを返し、柊一は送られてきたファックスを手早く回収した。
 そしてそそくさとエレベーターに乗り込み、手に持っている書類を確認する。
 それは紛れもなく、今朝がた青山に「紛失した」と告げられた書類のコピーだった。
 コピーの最後には、電話口の人物が言っていた「アイビキ」の場所と時間の指定がある。
 柊一はそのコピーを乱暴に丸めて、上着のポケットにねじ込んだ。
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