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第40話
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仕方がなく、神巫は書類を持って隣の企画室の扉をノックする。
「失礼しま~す」
作業中の製作室は、室内に垂れ流しているラジオの音の他は、コンピューターのモーター音と作業をする人間の動く気配に支配された、一種「静寂」の空間だが。
一方で、常に討論の飛び交う企画室は、人の声に溢れた喧噪の空間である。
デスクの隙間を抜けて1番奥にいる多聞の元に歩み寄ると、多聞は丁度松原と話をしている最中だった。
「あの~、お話中申し訳ありません。ご連絡頂いた書類を持ってきたんですけど………」
松原から目線を外してこちらを向いた多聞は、神巫の顔を一瞥しただけで書類を受け取りもしない。
「なんでも俺のところに持ってこられても困るよ」
「え………、でも、企画の方から内線頂いて、書類を戻すように言付かったんですけど?」
「俺が内線した訳じゃないんだから、持ってくるように言ったヤツのところに持ってけよ。ヒマじゃないんだから、いちいち煩わさないでくれる?」
突き放すような物言いに、神巫はムッとしたが。
それでも、それなら仕方がないと多聞の席を離れて室内を見回した。
とはいえ、内線越しの声を聞いただけで企画室の誰だったかが判る程、別の部署の人間の顔を見知っている訳でもない。
「スミマセン、先程製作室に内線掛けて書類持ってくるように言ったの、どなたですか?」
神巫が声を張り上げても、室内の人間はまるで無関心のままだった。
「昨日製作に預けた書類、戻すように言ったのどなたですかっ!」
「うるせェなぁ! 煩わすなっつってんの、解んねェの? こっちは営業と大事な話してるんだから、真横でデッケェ声出されちゃ迷惑極まりねェんだよ。だいたいそんなモンそこでギャーギャー喚かなくたって指示書に担当の名前ぐらい書いてあんだろ! そんな箸にも棒にもかからないような使い物にならない若いのしかいないんじゃ、製作の先行き不安だな」
振り返ると、多聞は鼻でせせら笑うような顔で神巫を眺めている。
「製作に回した書類に不備があるなら、そっちが取りに来るのが当たり前なのに。こっちは親切で持ってきただけなんですから、それこそ現場の監督が受け取って自分トコの不手際を詫びるくらいが当たり前なんじゃないですかっ?」
「なんだとっ!」
「バカッ! やめろ」
椅子から立ち上がり掛けた多聞を制し、松原は神巫の手から書類を取り上げる。
「コレは俺が預かる。ちゃんと責任持ってその「誰かさん」に渡すから、オマエはもう製作に帰って良いよ」
営業部の長にそう言われてしまっては、神巫もそれ以上は食い下がる気にもなれない。
「スミマセン、よろしくお願いします」
「今度から、内線受けた時には相手の名前くらい聞いとけよ」
「レン!」
まだ多少の引っかかりを感じた物の、神巫はそれ以上その場に留まらず、早々に企画室を後にした。
「失礼しま~す」
作業中の製作室は、室内に垂れ流しているラジオの音の他は、コンピューターのモーター音と作業をする人間の動く気配に支配された、一種「静寂」の空間だが。
一方で、常に討論の飛び交う企画室は、人の声に溢れた喧噪の空間である。
デスクの隙間を抜けて1番奥にいる多聞の元に歩み寄ると、多聞は丁度松原と話をしている最中だった。
「あの~、お話中申し訳ありません。ご連絡頂いた書類を持ってきたんですけど………」
松原から目線を外してこちらを向いた多聞は、神巫の顔を一瞥しただけで書類を受け取りもしない。
「なんでも俺のところに持ってこられても困るよ」
「え………、でも、企画の方から内線頂いて、書類を戻すように言付かったんですけど?」
「俺が内線した訳じゃないんだから、持ってくるように言ったヤツのところに持ってけよ。ヒマじゃないんだから、いちいち煩わさないでくれる?」
突き放すような物言いに、神巫はムッとしたが。
それでも、それなら仕方がないと多聞の席を離れて室内を見回した。
とはいえ、内線越しの声を聞いただけで企画室の誰だったかが判る程、別の部署の人間の顔を見知っている訳でもない。
「スミマセン、先程製作室に内線掛けて書類持ってくるように言ったの、どなたですか?」
神巫が声を張り上げても、室内の人間はまるで無関心のままだった。
「昨日製作に預けた書類、戻すように言ったのどなたですかっ!」
「うるせェなぁ! 煩わすなっつってんの、解んねェの? こっちは営業と大事な話してるんだから、真横でデッケェ声出されちゃ迷惑極まりねェんだよ。だいたいそんなモンそこでギャーギャー喚かなくたって指示書に担当の名前ぐらい書いてあんだろ! そんな箸にも棒にもかからないような使い物にならない若いのしかいないんじゃ、製作の先行き不安だな」
振り返ると、多聞は鼻でせせら笑うような顔で神巫を眺めている。
「製作に回した書類に不備があるなら、そっちが取りに来るのが当たり前なのに。こっちは親切で持ってきただけなんですから、それこそ現場の監督が受け取って自分トコの不手際を詫びるくらいが当たり前なんじゃないですかっ?」
「なんだとっ!」
「バカッ! やめろ」
椅子から立ち上がり掛けた多聞を制し、松原は神巫の手から書類を取り上げる。
「コレは俺が預かる。ちゃんと責任持ってその「誰かさん」に渡すから、オマエはもう製作に帰って良いよ」
営業部の長にそう言われてしまっては、神巫もそれ以上は食い下がる気にもなれない。
「スミマセン、よろしくお願いします」
「今度から、内線受けた時には相手の名前くらい聞いとけよ」
「レン!」
まだ多少の引っかかりを感じた物の、神巫はそれ以上その場に留まらず、早々に企画室を後にした。
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