ワーカホリックな彼の秘密

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第32話

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「はい、どうぞ」

 キッチンから戻ってきた神巫は、自分の考えに沈み込んでいる柊一に気付いていないのか、少し大きめのマグカップをテーブルの上に置きながらなにげなく柊一の隣に腰を降ろす。

「…なに?」
「コーンポタージュっす。柊一サン対策に買い置きしておいたんですよ」
「…対策……って、俺はゴジラか?」
「あははは、圧倒的な力量の差でねじ伏せられちゃうって意味では、ダメ防衛軍vsゴジラじゃないですか?」
「言ってろ」
「超簡単! インスタントのカップポタージュですけど、これならこの時間でもちょこっと飲めちゃうし。胃を空っぽにしておくよりずっと良いと思うんですよね~」
「ああ、そうだな……」

 神巫の気遣いに対して、今はひどく素直な気持ちになっていて。
 柊一はカップを手に取ると、湯気を上げている表面に息を吹き掛けてから、そっと縁に口をつけた。

「…美味いよ」
「ホントかなぁ? 柊一サン、食べる事にあんま興味なさそうな顔して、実は結構オイシイ物好きだからな~」
「そうか?」
「だってほら、美味い店の話とか青山サン達がしてると、なにげなく場所とか訊いてチェックしてるじゃないですか?」
「バッカ。そーいう嗜好チェックしておいてやらなきゃ、打ち上げの時にあの店は不味かったとか言ってウルサイんだぞ、アイツら!」
「えぇ~、そんだけの理由なンすか~? 意外だなぁ」
「今までウチに配属されてきた中で、1番料理にウルサイのはオマエだぞ?」
「え、ウソ?」
「こんな話で、ウソ言っても始まらないだろ?」

 他愛ない会話を交わしながら、柊一はカップの中身を少しずつ飲み下す。

「じゃあ口のウルサイ若造が、今度トウモロコシから作った本格派ポタージュをご馳走しますよ。そんなお湯で溶くだけ…なんてのより格段美味いヤツ」
「安請け合いして、作れンのか?」
「失敬な! 俺、こー見えて自炊派ですよ!」
「そりゃ失礼」

 お湯で溶くだけ…と言いながら、神巫はキッチンに立ってから牛乳を温めてそれでインスタントのポタージュを溶いてきたらしい。
 柔らかいミルクの味と仄かに甘いコーンの匂いに、気持ちが和むのを感じる。
 この部屋に辿り着くまでの激昂も、苛立ちも、今はすっかり消え去っていて。
 自分が落ち着いて己を取り戻す事が出来たのは、偏に隣に座っている男の助力のお陰なのだと、柊一は改めて気付いた。
 カップの底に残っているポタージュを飲み下し、柊一は神巫に振り返る。

「さぁ、少し落ち着いたでしょ? 俺、カップ片付けてきますから、柊一サンはもう休んでくれて良いですよ? あんな雨に散々当たってきたんだから、温かくして寝なきゃダメですからね」
「…神巫……」

 両手を床に付け、柊一はゆっくりと神巫に顔を寄せた。
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