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第26話
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「ええ~、ウッソだ~! シノさんに出来ないコトなんてないよ~。ちゃんとこうやって出来てくるし」
「あのなぁ、それだって俺なりにイロイロ手を尽くしてるんだぞ」
「そりゃ、解ってるよ~。シノさんが勉強家だって、知ってるモン。…あ、このアニメーション面白いねェ。なんかいつものシノさんっぽくないけど」
「ん? ああ。そりゃ俺のプログラミングじゃねェよ」
「そうなん? 誰だろう? 広尾クンにしちゃラフだけど、青山クンのって感じでも無いよねェ?」
「神巫だよ」
その名前を告げられた瞬間、多聞の顔は明らかに強張ったが。
ディスプレイに目を向けていた柊一は、それに全く気が付かなかった。
「最初の掴みを見た感じだと青山に似たタイプのプログラマーだと思ったけど、意外に細かいコトにも神経がいくヤツでさ…」
「シノさん、ずいぶん神巫のコトを評価してるんだね」
「特別にどうってワケじゃねェよ? ただ先々面白い人材だと思うし、ウチはご存じの通り人間が居着かない部署だから、残りそうな若手として歓迎してるだけだぜ?」
「そうかな? 案外ひいきにしてるんじゃないの?」
後輩に対する率直な感想を述べたつもりだった柊一には、多聞のその言葉は心外だった。
「イヤにつっかかる言い方するじゃないか?」
「別に…」
「なんだよ? まるで俺が神巫のコトを特別扱いしてるみたいな言い方に聞こえるぞ?」
「俺はそんなコト言ってるつもりないケド。シノさんがそう感じるのは、心当たりがあるからじゃないの?」
「なんだと?」
そんなつもりはなかったが、しかし多聞の言葉に柊一は微かに狼狽えた。
神巫に対して、過大評価をしているつもりはないし、格別ひいきにしてやっているつもりもない。
会社という組織の中で、柊一は1つのチームを預かるトップであり、神巫はチームの部員に過ぎない。
その立場に置いては、神巫も青山も広尾も全部同じく公平に扱うべきスタッフ達だ。
そして柊一は、自分が新田や松原はもちろん多聞にも「部下を公平に扱える人間」だと認められていると思っていた。
しかし。
神巫とプライベートで特殊な付き合いをしている自分が、第三者から見て絶対に神巫だけを特別扱いしていないとは断言出来ない。
その、ほんの一欠片の迷いから生じた柊一の動揺を、多聞は見逃さなかった。
「心当たり、あるんだ?」
振り返った表情と、告げられた台詞。
まるで冷笑を含んでいるような、突き放すような声音。
今までに見た事もない多聞の態度に、柊一は怒りを感じる前に戸惑った。
「心当たり……なんて、あるワケないだろ……」
「ホントに?」
スウッと立ち上がった多聞は、やや高い位置から柊一を見透かすように見つめてくる。
「な…んだよ……? 根拠もないのに、変な言い掛かり付けてくるなよなっ」
必死になって睨み返しても、微かに膝が震えてしまう。
「言い掛かり……なんかじゃないよ。だって俺、見ちゃったから」
「なにを?」
「深夜のオフィスで、神巫とメイクラブしてたの。アレ、シノさんだよね?」
多聞の言葉に、柊一は驚愕する。
言葉を返す事も出来ず目を見開いている柊一に向かって、多聞は穏やかに微笑んで見せた。
「俺、知らなかったな。シノさんが、男を相手にするなんて。しかも、あんなガキが好みのタイプだったんだ?」
「違う、あれは………っ!」
「あれは? ヤだなシノさん。それってハッキリ自分だったって認めてるってコトだよ?」
スウッと顔を寄せてくる多聞に、柊一は竦み上がったようになって逃げる事も出来ない。
全く躊躇する様子も見せずに寄せられた多聞の口唇は、少し冷たくて。
思わず目を閉じて歯を食いしばったが、頬に手を当てられて強引に口を開かされる。
「…んぅ……!」
両手はデスクの端を握ったまま、柊一は自分の口腔内を犯している多聞の舌先を、酷くリアルに感じていた。
驚愕に強張って無抵抗の様子を了承と取ったのか、多聞の手が頬から外されて緩やかな動きで柊一のスラックスの前立てを撫で上げる。
その瞬間、柊一はハッと己を取り戻した。
咄嗟の事で、手加減など全く出来ずに。
繰り出された拳は、多聞の頬をしたたかに打ち付ける。
「……てェ~」
蹌踉めいた多聞は、切れた口唇の端に手を当てながらこちらに振り返った。
「なんだよ? あんなガキはOKで俺は殴られる訳?」
状況はともかくとして「人を殴ってしまった事」に対する後ろめたさに怯んでいた柊一だったが、その一言に思わず激昂する。
「ふざけるなっ!」
袖机とデスクによって半ば追いつめられたような場所に立たされていた柊一は、多聞を突き飛ばすようにして強引に道を開くと、そこに放置してあった自分のカバンを掴み後ろを振り返らずに企画室から飛び出した。
「あのなぁ、それだって俺なりにイロイロ手を尽くしてるんだぞ」
「そりゃ、解ってるよ~。シノさんが勉強家だって、知ってるモン。…あ、このアニメーション面白いねェ。なんかいつものシノさんっぽくないけど」
「ん? ああ。そりゃ俺のプログラミングじゃねェよ」
「そうなん? 誰だろう? 広尾クンにしちゃラフだけど、青山クンのって感じでも無いよねェ?」
「神巫だよ」
その名前を告げられた瞬間、多聞の顔は明らかに強張ったが。
ディスプレイに目を向けていた柊一は、それに全く気が付かなかった。
「最初の掴みを見た感じだと青山に似たタイプのプログラマーだと思ったけど、意外に細かいコトにも神経がいくヤツでさ…」
「シノさん、ずいぶん神巫のコトを評価してるんだね」
「特別にどうってワケじゃねェよ? ただ先々面白い人材だと思うし、ウチはご存じの通り人間が居着かない部署だから、残りそうな若手として歓迎してるだけだぜ?」
「そうかな? 案外ひいきにしてるんじゃないの?」
後輩に対する率直な感想を述べたつもりだった柊一には、多聞のその言葉は心外だった。
「イヤにつっかかる言い方するじゃないか?」
「別に…」
「なんだよ? まるで俺が神巫のコトを特別扱いしてるみたいな言い方に聞こえるぞ?」
「俺はそんなコト言ってるつもりないケド。シノさんがそう感じるのは、心当たりがあるからじゃないの?」
「なんだと?」
そんなつもりはなかったが、しかし多聞の言葉に柊一は微かに狼狽えた。
神巫に対して、過大評価をしているつもりはないし、格別ひいきにしてやっているつもりもない。
会社という組織の中で、柊一は1つのチームを預かるトップであり、神巫はチームの部員に過ぎない。
その立場に置いては、神巫も青山も広尾も全部同じく公平に扱うべきスタッフ達だ。
そして柊一は、自分が新田や松原はもちろん多聞にも「部下を公平に扱える人間」だと認められていると思っていた。
しかし。
神巫とプライベートで特殊な付き合いをしている自分が、第三者から見て絶対に神巫だけを特別扱いしていないとは断言出来ない。
その、ほんの一欠片の迷いから生じた柊一の動揺を、多聞は見逃さなかった。
「心当たり、あるんだ?」
振り返った表情と、告げられた台詞。
まるで冷笑を含んでいるような、突き放すような声音。
今までに見た事もない多聞の態度に、柊一は怒りを感じる前に戸惑った。
「心当たり……なんて、あるワケないだろ……」
「ホントに?」
スウッと立ち上がった多聞は、やや高い位置から柊一を見透かすように見つめてくる。
「な…んだよ……? 根拠もないのに、変な言い掛かり付けてくるなよなっ」
必死になって睨み返しても、微かに膝が震えてしまう。
「言い掛かり……なんかじゃないよ。だって俺、見ちゃったから」
「なにを?」
「深夜のオフィスで、神巫とメイクラブしてたの。アレ、シノさんだよね?」
多聞の言葉に、柊一は驚愕する。
言葉を返す事も出来ず目を見開いている柊一に向かって、多聞は穏やかに微笑んで見せた。
「俺、知らなかったな。シノさんが、男を相手にするなんて。しかも、あんなガキが好みのタイプだったんだ?」
「違う、あれは………っ!」
「あれは? ヤだなシノさん。それってハッキリ自分だったって認めてるってコトだよ?」
スウッと顔を寄せてくる多聞に、柊一は竦み上がったようになって逃げる事も出来ない。
全く躊躇する様子も見せずに寄せられた多聞の口唇は、少し冷たくて。
思わず目を閉じて歯を食いしばったが、頬に手を当てられて強引に口を開かされる。
「…んぅ……!」
両手はデスクの端を握ったまま、柊一は自分の口腔内を犯している多聞の舌先を、酷くリアルに感じていた。
驚愕に強張って無抵抗の様子を了承と取ったのか、多聞の手が頬から外されて緩やかな動きで柊一のスラックスの前立てを撫で上げる。
その瞬間、柊一はハッと己を取り戻した。
咄嗟の事で、手加減など全く出来ずに。
繰り出された拳は、多聞の頬をしたたかに打ち付ける。
「……てェ~」
蹌踉めいた多聞は、切れた口唇の端に手を当てながらこちらに振り返った。
「なんだよ? あんなガキはOKで俺は殴られる訳?」
状況はともかくとして「人を殴ってしまった事」に対する後ろめたさに怯んでいた柊一だったが、その一言に思わず激昂する。
「ふざけるなっ!」
袖机とデスクによって半ば追いつめられたような場所に立たされていた柊一は、多聞を突き飛ばすようにして強引に道を開くと、そこに放置してあった自分のカバンを掴み後ろを振り返らずに企画室から飛び出した。
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