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第21話
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「……ああ、もうこんな時間か?」
ふと、ディスプレイから顔を上げて、柊一は壁の時計を見上げる。
「コーヒーでも煎れますか?」
柊一の集中力が途切れた事に気付き、神巫は声を掛けた。
ごく当たり前の人間なら、集中して物を考えている時にそれを中断させられる事を不快に感じる。
こうした仕事をしている人間の場合、それは特に気を遣う部分である。
そう言う意味でも、ディスプレイを見つめている柊一に声をかけ損ねていたフシはあるのだが。
だが本当の事を言うと、集中している時の柊一には声など掛けても無駄なのだ。
それこそ肩を掴んで引っ張るか、真横に立って名前を呼ぶかしない限りは、気付きもしないのである。
初めのうち、それを知らなかった頃は、本気で「嫌われて」いるのかと勘ぐったほどだ。
「神巫の方は、目処が付きそうなのか?」
「目処が付くと言えば付きますが、付かないと言えば付きません」
「なんだそりゃ?」
「チーフのプログラム、見てると飽きないンで」
「バッカ。仕事しろよ」
「してますよぅ。でも、東雲サンのテクニックを盗むのも忙しいから、してないのかな?」
「まぁ、盗めるモンなら盗みまくってくれ。その方が、俺の仕事はラクになる」
「はい! 頑張ってチーフにはそのうち、デスクに向かったままプログラム以外の仕事をしないでも良いぐらいにフォロー出来るようになりたいと思います」
神巫の答えに、柊一は一瞬酷く驚いたような顔をする。
「バ………なに言ってンだ! 生意気言ってンじゃねェぞ」
「大真面目なのになぁ…。つーか、そうなる為にもっと動作確認の仕事とか、回して欲しいデ~ス!」
「ん? ……うん」
神巫としては「検品=信頼の証」という構図を知っているから、その仕事を回してもらいたい…という意味を暗に込めて言ったつもりだったが。
なぜか、柊一の返事は芳しくない。
「なんスか、その気のなさそうな返事は?」
自分に対する信頼が、まだそれほど足りないのかと少し不満混じりで思わず食い下がってしまう。
「いや、あの~。センパイのテクを盗む……つーのは、推奨するケド……」
「でしょうねェ? 会社としては、プログラマーの技量が上がるコトに不満なんか無いでしょうから」
「俺だって、神巫のレベルが上がった方がイイと思ってるよ」
「じゃあ一体、そのなんつーか全然ノリ気なさそーな返事はなんなンです?」
「神巫はまだ若いし、プログラマーとしては駆け出しだから、あんまりなぁ……」
「は? 若いウチの方が脳が軟らかいンだから、他人のテク盗むなら今の方がイイんじゃないンですか?」
「青山のテクなら、目一杯盗んで良いケド、広尾はな…」
「広尾サンのテクは、なんか盗んじゃいけないモンダイでも?」
「いや。広尾は良いプログラマーだよ。でも広尾のやり方は基礎からじっくり組み上げる努力型だから、青山や神巫みたいにその場の思いつきで一気にプログラミングしちゃう情熱型とは全然違うんだよ。ある意味、広尾は全体像を頭ン中に完全に描いてプログラムしてるから、一部だけ見ると余分に見えるプログラムが全体から見ると絶対必要なパーツだったりするンだけど。オマエとか青山は、行き当たりバッタリって言うとちょっと言葉が悪いけど、瞬間の発想力とセンスだからなぁ」
「でも、タイプの違うヒトのモノの方が、会得する物も大きンじゃないんですか?」
「それは、神巫が自分のスタイルを確立出来てからの話だよ。オマエがプログラミングに自分のカラーを出せるようになったのは、最近になってだろう? プログラムを見れば、指示書を見なくても誰が作った物か解るくらい、プログラムってのは作った人間が出る。でも今のオマエはまだそこまで行ってないから、今はまだ自分と似たタイプのプログラマーのテクを盗んで、自分の基盤を作る時期なんだよ。だから出来れば、広尾のプログラムは神巫に見せたくないちゅーか……」
最後の方は口の中で呟くようで、良く聴き取れなかったが。
神巫は柊一の言葉に、少し大袈裟だけれど「感動」していた。
「チーフって、カッコイイっすねェ!」
「バッカ、褒めてもなんにも出ないぞ。………あ、そうだ。先刻の夕飯代、いくらだ?」
「アレは俺が好きで買ってきたモンですから、構いませんよ」
「そーいうワケにいかねェちゅーの。大体俺の方が上司で年も上なのに、神巫に奢って貰ったらそれこそカッコつかないって」
「そーっすかぁ? でも牛丼奢っておけば、今度なんかあった時にもっと高くてもっと美味いモノ食わせて貰えるかもしれないじゃないッスか?」
「そーいう魂胆かよ?」
「ハイ、もちろんデス」
悪びれずに答えると、柊一は呆れたように笑う。
ふと、ディスプレイから顔を上げて、柊一は壁の時計を見上げる。
「コーヒーでも煎れますか?」
柊一の集中力が途切れた事に気付き、神巫は声を掛けた。
ごく当たり前の人間なら、集中して物を考えている時にそれを中断させられる事を不快に感じる。
こうした仕事をしている人間の場合、それは特に気を遣う部分である。
そう言う意味でも、ディスプレイを見つめている柊一に声をかけ損ねていたフシはあるのだが。
だが本当の事を言うと、集中している時の柊一には声など掛けても無駄なのだ。
それこそ肩を掴んで引っ張るか、真横に立って名前を呼ぶかしない限りは、気付きもしないのである。
初めのうち、それを知らなかった頃は、本気で「嫌われて」いるのかと勘ぐったほどだ。
「神巫の方は、目処が付きそうなのか?」
「目処が付くと言えば付きますが、付かないと言えば付きません」
「なんだそりゃ?」
「チーフのプログラム、見てると飽きないンで」
「バッカ。仕事しろよ」
「してますよぅ。でも、東雲サンのテクニックを盗むのも忙しいから、してないのかな?」
「まぁ、盗めるモンなら盗みまくってくれ。その方が、俺の仕事はラクになる」
「はい! 頑張ってチーフにはそのうち、デスクに向かったままプログラム以外の仕事をしないでも良いぐらいにフォロー出来るようになりたいと思います」
神巫の答えに、柊一は一瞬酷く驚いたような顔をする。
「バ………なに言ってンだ! 生意気言ってンじゃねェぞ」
「大真面目なのになぁ…。つーか、そうなる為にもっと動作確認の仕事とか、回して欲しいデ~ス!」
「ん? ……うん」
神巫としては「検品=信頼の証」という構図を知っているから、その仕事を回してもらいたい…という意味を暗に込めて言ったつもりだったが。
なぜか、柊一の返事は芳しくない。
「なんスか、その気のなさそうな返事は?」
自分に対する信頼が、まだそれほど足りないのかと少し不満混じりで思わず食い下がってしまう。
「いや、あの~。センパイのテクを盗む……つーのは、推奨するケド……」
「でしょうねェ? 会社としては、プログラマーの技量が上がるコトに不満なんか無いでしょうから」
「俺だって、神巫のレベルが上がった方がイイと思ってるよ」
「じゃあ一体、そのなんつーか全然ノリ気なさそーな返事はなんなンです?」
「神巫はまだ若いし、プログラマーとしては駆け出しだから、あんまりなぁ……」
「は? 若いウチの方が脳が軟らかいンだから、他人のテク盗むなら今の方がイイんじゃないンですか?」
「青山のテクなら、目一杯盗んで良いケド、広尾はな…」
「広尾サンのテクは、なんか盗んじゃいけないモンダイでも?」
「いや。広尾は良いプログラマーだよ。でも広尾のやり方は基礎からじっくり組み上げる努力型だから、青山や神巫みたいにその場の思いつきで一気にプログラミングしちゃう情熱型とは全然違うんだよ。ある意味、広尾は全体像を頭ン中に完全に描いてプログラムしてるから、一部だけ見ると余分に見えるプログラムが全体から見ると絶対必要なパーツだったりするンだけど。オマエとか青山は、行き当たりバッタリって言うとちょっと言葉が悪いけど、瞬間の発想力とセンスだからなぁ」
「でも、タイプの違うヒトのモノの方が、会得する物も大きンじゃないんですか?」
「それは、神巫が自分のスタイルを確立出来てからの話だよ。オマエがプログラミングに自分のカラーを出せるようになったのは、最近になってだろう? プログラムを見れば、指示書を見なくても誰が作った物か解るくらい、プログラムってのは作った人間が出る。でも今のオマエはまだそこまで行ってないから、今はまだ自分と似たタイプのプログラマーのテクを盗んで、自分の基盤を作る時期なんだよ。だから出来れば、広尾のプログラムは神巫に見せたくないちゅーか……」
最後の方は口の中で呟くようで、良く聴き取れなかったが。
神巫は柊一の言葉に、少し大袈裟だけれど「感動」していた。
「チーフって、カッコイイっすねェ!」
「バッカ、褒めてもなんにも出ないぞ。………あ、そうだ。先刻の夕飯代、いくらだ?」
「アレは俺が好きで買ってきたモンですから、構いませんよ」
「そーいうワケにいかねェちゅーの。大体俺の方が上司で年も上なのに、神巫に奢って貰ったらそれこそカッコつかないって」
「そーっすかぁ? でも牛丼奢っておけば、今度なんかあった時にもっと高くてもっと美味いモノ食わせて貰えるかもしれないじゃないッスか?」
「そーいう魂胆かよ?」
「ハイ、もちろんデス」
悪びれずに答えると、柊一は呆れたように笑う。
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