ワーカホリックな彼の秘密

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第16話

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 神巫は不審な様子で背後をチラリと振り返り、不意に手を伸ばしてきたかと思うと柊一の身体を引き寄せて、素早く頬に口唇を押しつけてくる。

「そんな顔して、朝から誘わないでくださいよ」
「バカ!」

 叱責されても、全く悪びれる様子もない。

「誰もいないし、来る気配もないんだから、いいじゃないですか」
「よくない!」

 自分の方が絶対的に正論を述べている筈なのに、神巫の顔を真っ向から睨みつけようとすると自分の顔が紅く染まってくるのを感じる。

「東雲サンって意外とマゾっぽい気質あるんじゃないッスか?」
「くだらないコト言ってるんじゃない! 公私はちゃんと区別しろっ!」

 額の辺りをピシャリと叩くと、さすがに少しは堪えたらしい。

「はぁい」

 反省の色はほとんど伺えない子供っぽい返事を残し、自分のデスクに引き上げていく。
 溜息を一つ付いて、柊一は先程蹴躓いた椅子を定位置に戻すと腰を降ろした。
 だが、ディスプレイに向かったものの仕事に集中出来ない。
 神巫のふざけた発言が、小さなトゲのように意識の端に引っかかっている。
 ふと気付くと、先程神巫の口唇が掠めていった頬を指先でなぞっていた。

「チーフ?」

 不意に声を掛けられて、柊一は飛び上がるほど驚いてしまう。
 自分の不審な行動を見られたかと必要以上に狼狽える柊一を、出勤してきたばかりの青山は怪訝な顔で見つめていた。

「な、なんだ!?」
「今日の指示書、貰いに来たンですけど?」

 青山の隣に立っている広尾が、申し訳なさそうに手を出した。

「あ……………。ああ、スマン」

 慌てて選り分けておいた指示書を選び出し、差し出す。

「チーフ、疲れてます?」
「いや、別にそんなコトは……」
「昨日、早番だったクセにまた居残りしたんでしょう?」
「してねェよ」
「全く、ウチのチーフはワーカホリックだからな~」
「誰がワーカホリックだよ! 俺は別に好きで残業してねェちゅーの!」
「はいはいはい、全くそのとーりですね~」

 青山はまるで柊一の言葉など聞いていないようなそぶりで、片手をヒラヒラさせながら離れて行ってしまう。

「あんまり無理しないでくださいね、チーフ」

 気遣い半分揶揄が半分の青山には、少々大人げないとは思いつつも我を張る事も出来るが。
 ひたすら心配そうな顔で気遣いだけを滲ませた広尾には、さすがにつっかかる訳にもいかない。

「……解ってるよ」

 ボソリと一言返すと、広尾は微かに笑ってデスクに戻っていった。
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