ワーカホリックな彼の秘密

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第15話

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「おはようございます、東雲サン」

 ひときわはつらつと元気な声で入って来たのは、ほかでもない神巫だった。
 初めて製作室に来た時から元気いっぱいで、更に人懐こい笑みでなにげなく誰とでもうち解ける事が出来る男だったが。
 先日の一件以降、今まで以上に熱烈(?)に愛想を振り撒いてくるような気がする。
 オマケに最近、神巫の出勤時間がイヤに早くなっているのだ。
 大体この男は、前述の如く人付き合いのいい気さくなタイプで、押さえる部分はキチッと押さえてマメに振る舞っているから周囲の評判は非常に良く、職場の先輩諸氏から大変可愛がられているのだが。
 その実、日常面では時に怖ろしくズボラでだらしがない。
 入社当初は遅刻常習犯で、新入社員の中のブラックリストの筆頭株だったのに。
 それが最近、部内で柊一に次いで早々に出勤してくるのだ。

「ああ、おはよう」

 短く応えて、柊一は用意しておいた指示書をまとめて神巫に手渡すと、早々に顔を背ける。
 朝の日課を済ませてから部下達が出勤してくるまでの時間と、皆が帰宅した後の時間は、柊一にとってささやかな「何にも煩わされずに仕事に没頭出来る」至福の時で。
 出来れば少しでも長く放っておいて貰いたい…と思っている。
 神巫曰く「東雲サンのご都合を考慮した上で、ちゃんと黙っておとなしくしていますヨ」などと言っているが。
 しかし、実のところ柊一は平素神巫とどう接して良いのか、すっかり判らなくなっていた。

「東雲サン、ここの指示なんスけど…」
「どれだ?」

 振り返って、柊一はそのまま凍り付く。
 あまりにも予想外の近距離に、神巫の顔があったからだ。

「東雲サン?」

 顔を覗き込むようにして声を掛けられた瞬間、柊一は咄嗟に後ろに飛び退いた。

「うわっ!」

 狭い部屋にデスクトップ型のパソコンが設置されたデスクがギッシリ詰まっている部屋では、必然的に人間の居場所はギリギリまで狭められている。
 飛び退いた先にはキャスター付きの椅子があり、蹴躓いた柊一は後ろ向きに仰け反った。

「大丈夫ですか?」

 腕を取られて身体を支えられたお陰で、とりあえずは転ばずに済んだが。
 身体ごと接近された事で、ますます混乱してしまった。

「いいから、放せ!」

 思わず取られた腕を振り払い、柊一は神巫から飛び退くようにして一歩離れる。

「それで、どこが疑問なんだ?」
「あ、はい。ここなんスけど…」

 改めて指示書を差し出してきた神巫の顔が、心なし笑っているような気がする。

「笑うな」
「えっ? 笑ってませんよ?」
「笑ってる」
「笑ってませんってばっ」

 そこまで否定されては、さすがにそれ以上我を張る訳にも行かない。
 が、しかしやっぱり納得は出来なくて、未練がましく上目遣いに神巫の顔を睨みつけてしまった。
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