ワーカホリックな彼の秘密

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第10話

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 ふと気が付くと、そこはどこかの室内だった。
 目の前に見えるのは、白っぽい綺麗な天井で。
 一瞬、病院にでも運び込まれたのかと思い、慌てて身体を起こす。

「気が付きました?」

 声を掛けられてそちらに振り向くと、すぐ側に神巫が座っていた。

「あ………」

 辺りを見回し、柊一はそこがどうやら神巫の部屋だと気付く。
 特別広くもない室内に、ベッドと必要な家具が置かれている。
 フローリングの床にローテーブルと14インチぐらいのテレビがあり、床に散らかっているクッションを適当にかき集めた場所に神巫は膝を抱えるようにして腰を降ろしている。

「なんで…神巫が……?」
「向かいのホームに東雲サンがいるな~って思って眺めてたンすケド、なんか様子がおかしいっつーか挙動が変って言うのも失礼なんすケド、そんな風に見えたんで。どうしたのかなって思ってそっちのホームに行ったら、階段で俺の上にチーフが落っこってきたんで、かなりたまげました」
「あ、じゃあ…あの時……」

 誰かに名前を呼ばれたような気がしたのは、気の所為ではなかったらしい。

「救急車を呼ぼうとしたら、東雲サンがどうしてもイヤだって言うんで…。仕方ないから駅前でタクシー拾ってウチに…。広くもないし、きったないからどうしよっかな~って思ったンすけど、他に思いつかなかったし。俺チーフん家がどこだか知らないんで…。スミマセン」
「いや……、俺の方こそ迷惑を掛けて……」

 ベッドから降りようとして、柊一は自分が下着以外なにも身につけていない事に気付く。

「あ、スーツはハンガーに掛けてあるんで。気分悪い時は、身体締め付けるの良くないって言うし。ベッドにそのまま寝かせたらシワになっちゃうでしょ? 断りも無しに服を脱がせるのはどうかとも思ったンすケド、でも、男同士だし構いませんでしょ?」
「う……ん……。そう、だな……」

 そこで変になにかを言い張っては逆に不審に思われるだろうと思い、柊一は特にその事を言及しなかった。
 神巫が、自分の身体の異質な部分に全く気付いていないのならば、それに越した事はない。

「すまなかったな、世話を掛けて…」
「世話だなんて、とんでもないですよ。俺は東雲サンのお役に立てて嬉しいくらいです。ホントにきったない部屋で申し訳ないんですけど、ゆっくり休んでいってください」
「いや、神巫のベッドを占拠する訳にもいかないだろう。こんな時間だし、早く休んでくれ」
「なに言ってるんですか! こんな時間ってのは俺の台詞ですよ」

 神巫が親切に申し出てくれるのはありがたかったが、とにかく少しでも落ち着いている間に自分の部屋に帰りたかった。

「危なっかしいなぁ…。まだフラフラしてるじゃないッスか?」
「神巫に心配されるほどじゃないよ。…馴れてるから、大丈夫だ」

 無理に笑うと、柊一はベッドから降りて掛けてあるスーツに歩み寄ろうとする。
 が、身体を動かした事ですぐにもあの貧血に似た症状がぶり返してきた。
 視界が一気に狭まってきて、気付いた時にはもう身体が傾いている。

「危ないっ!」

 側にまとわりつくようにしていた神巫が、咄嗟に支えてくれた。
 だが、抱きすくめられるような形で神巫に支えられて、柊一は半ばパニックに陥ってしまう。

「や……っ!」

 反射的に腕を伸ばして、柊一は神巫の身体を突き飛ばしていた。
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