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第6話
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食事を終えた後は、会議と言うよりは雑談に近い情報交換となり、昼休みが終わる間際に解散となる。
「新田サンも、簡単に言ってくれるよなぁ!」
エレベーターを待つ間、多聞はぼやくように繰り返した。
「でもまぁ、昔のヤツを再リリースして欲しいってリクエストをされるのは、悪い気分じゃないからな」
「まぁねェ。2人で会社に泊まり込んで、シナリオの展開でケンカしたりしたモンねェ。懐かしいなぁ」
「バッカ! これから同じような苦労をまたしなきゃならないんだぞ。懐かしいで済むかよ」
「あ、それもそうか。…サブイベント、どうしようかなぁ……」
「早いトコ考えてくれよ。押せ押せになって追われるのはゴメンだぜ」
「はい、鋭意努力させて頂きます。じゃ、また」
「ああ、頼むぜ」
上のフロアに着いた所で、多聞は企画室に消える。
柊一が製作室の扉を開けると、そこには既に3人とも顔を揃えていた。
「ちょうどいい。みんな集まってくれないか?」
「アヤシイなぁ~。会議の後にこう呼ばれると、なんとなくイイ話じゃなさそうな気がするんだよね~」
「まぁ、良くはない話だな」
「ええ~、そうなンすか?」
「あ、もしかして今日の会議は反省会かと思いきや、査定だったとか?」
「ええっ! ホントっすか?」
「バカ、違うっちゅーの」
茶化す青山を軽く睨みつけて、柊一は新田から渡された件の「アンケートデータ」を取りだした。
「先日の新作に付けたアンケートハガキの集計結果だ。参考になるから、目を通しておくように」
「ええ~、どれどれ?」
青山に手渡された書類を、広尾と神巫が左右から覗き込む。
「うっわ~、結構辛辣なコト書いてありますねェ!」
「褒められてるの企画ばっかりで、操作とか映像はクレームばっかりですよ~」
「そう思ったら、次回は消費者を満足させるプログラム作ってみろ」
「ええ~? 今の処理速度じゃ無理ッスよ~」
「ああ、次回は新機種でリリースに決まったから、前回よりはプログラムも楽になるさ」
「うっへェ! やっぱそっちになるンすかぁ? 俺、ライバル社のプレイしてみましたけど、なかなかとんでもないッスよ?」
即座に根を上げた神巫を、青山は書類から顔を上げてまじまじと見つめた。
「ハルカさぁ、それ買ったの?」
「何をッスか?」
「だから、そのプレイしたって言うゲーム」
「そりゃあ、買わなきゃ出来ないでしょ?」
「ライバル社に貢献してどうするんだよ?」
柊一の一言に、神巫は目をしばたたかせた。
「………え?」
「バッカだなぁ! そんなの営業に言えばちょちょちょいっと回してくれるに決まってるでしょ?」
「ええっ! そーなンすかっ!」
「当たり前じゃないか。わざわざ相手の利潤に貢献してどうするんだよ?」
ショックを隠せない神巫の背中を、青山と広尾が揃ってバンバンと叩く。
「まぁまぁハルカ君、良い勉強になったじゃないか!」
「こういう事は、身をもって知った方が忘れなくていいぞ!」
笑い転げる先輩達に返す言葉もなく、神巫は拗ねたような顔で溜息を吐く。
「なんか、スッゲー損した気分」
「まだ人気商品だから、中古屋に持っていけば多少は高値で引き取ってくれるって」
「ホントかなぁ?」
「まぁ、神巫のギャグはそれぐらいにしておいて。その他にちょっと面倒な話があるんで聞いてくれ」
「ええ~? チーフが面倒なんて言うんじゃよっぽどイヤな感じ?」
「古いシリーズのリメイク企画が出てきて……」
伝えられた内容に、青山と広尾は顔を見合わせる。
「リメイク……って?」
「旧機種でリリースされている初期シリーズを、コンプリートボックス仕様で最新機種向けに移植する」
「あ~あ、出るんじゃないかと思っていたら、とうとうその話が出ましたか?」
「先刻のアンケートの中にそういうリクエストがあったら、新田サンがすっかりその気になっちゃって。なんかいきなり出す事に決まったっぽいんだけど……」
「だけど?」
「実のところ、リリース予定日なんかの詳細はハッキリしてないから。即座になにがどうってワケじゃないんだけど……、新田サン、動くとなるとせっかちだから。ある程度の作業はしておかないと、後で痛い目を見るんでな」
「製作をコロス気ですか!?」
「次回作はまだ企画から上がってきてないから、コロスって程でもねェだろ?」
「これだからも~!」
「でも今、格別ヒマってワケでもないですよ? 俺もタケシも担当してるメインプログラムの進行があるし…」
「解った。じゃあこれは、俺がヒマ見て少しずつやっておくから………」
「チーフだって、そんなにヒマじゃないでしょう!」
青山と広尾が異口同音に一喝すると、柊一はビックリした顔でかたまった。
「新田サンも、簡単に言ってくれるよなぁ!」
エレベーターを待つ間、多聞はぼやくように繰り返した。
「でもまぁ、昔のヤツを再リリースして欲しいってリクエストをされるのは、悪い気分じゃないからな」
「まぁねェ。2人で会社に泊まり込んで、シナリオの展開でケンカしたりしたモンねェ。懐かしいなぁ」
「バッカ! これから同じような苦労をまたしなきゃならないんだぞ。懐かしいで済むかよ」
「あ、それもそうか。…サブイベント、どうしようかなぁ……」
「早いトコ考えてくれよ。押せ押せになって追われるのはゴメンだぜ」
「はい、鋭意努力させて頂きます。じゃ、また」
「ああ、頼むぜ」
上のフロアに着いた所で、多聞は企画室に消える。
柊一が製作室の扉を開けると、そこには既に3人とも顔を揃えていた。
「ちょうどいい。みんな集まってくれないか?」
「アヤシイなぁ~。会議の後にこう呼ばれると、なんとなくイイ話じゃなさそうな気がするんだよね~」
「まぁ、良くはない話だな」
「ええ~、そうなンすか?」
「あ、もしかして今日の会議は反省会かと思いきや、査定だったとか?」
「ええっ! ホントっすか?」
「バカ、違うっちゅーの」
茶化す青山を軽く睨みつけて、柊一は新田から渡された件の「アンケートデータ」を取りだした。
「先日の新作に付けたアンケートハガキの集計結果だ。参考になるから、目を通しておくように」
「ええ~、どれどれ?」
青山に手渡された書類を、広尾と神巫が左右から覗き込む。
「うっわ~、結構辛辣なコト書いてありますねェ!」
「褒められてるの企画ばっかりで、操作とか映像はクレームばっかりですよ~」
「そう思ったら、次回は消費者を満足させるプログラム作ってみろ」
「ええ~? 今の処理速度じゃ無理ッスよ~」
「ああ、次回は新機種でリリースに決まったから、前回よりはプログラムも楽になるさ」
「うっへェ! やっぱそっちになるンすかぁ? 俺、ライバル社のプレイしてみましたけど、なかなかとんでもないッスよ?」
即座に根を上げた神巫を、青山は書類から顔を上げてまじまじと見つめた。
「ハルカさぁ、それ買ったの?」
「何をッスか?」
「だから、そのプレイしたって言うゲーム」
「そりゃあ、買わなきゃ出来ないでしょ?」
「ライバル社に貢献してどうするんだよ?」
柊一の一言に、神巫は目をしばたたかせた。
「………え?」
「バッカだなぁ! そんなの営業に言えばちょちょちょいっと回してくれるに決まってるでしょ?」
「ええっ! そーなンすかっ!」
「当たり前じゃないか。わざわざ相手の利潤に貢献してどうするんだよ?」
ショックを隠せない神巫の背中を、青山と広尾が揃ってバンバンと叩く。
「まぁまぁハルカ君、良い勉強になったじゃないか!」
「こういう事は、身をもって知った方が忘れなくていいぞ!」
笑い転げる先輩達に返す言葉もなく、神巫は拗ねたような顔で溜息を吐く。
「なんか、スッゲー損した気分」
「まだ人気商品だから、中古屋に持っていけば多少は高値で引き取ってくれるって」
「ホントかなぁ?」
「まぁ、神巫のギャグはそれぐらいにしておいて。その他にちょっと面倒な話があるんで聞いてくれ」
「ええ~? チーフが面倒なんて言うんじゃよっぽどイヤな感じ?」
「古いシリーズのリメイク企画が出てきて……」
伝えられた内容に、青山と広尾は顔を見合わせる。
「リメイク……って?」
「旧機種でリリースされている初期シリーズを、コンプリートボックス仕様で最新機種向けに移植する」
「あ~あ、出るんじゃないかと思っていたら、とうとうその話が出ましたか?」
「先刻のアンケートの中にそういうリクエストがあったら、新田サンがすっかりその気になっちゃって。なんかいきなり出す事に決まったっぽいんだけど……」
「だけど?」
「実のところ、リリース予定日なんかの詳細はハッキリしてないから。即座になにがどうってワケじゃないんだけど……、新田サン、動くとなるとせっかちだから。ある程度の作業はしておかないと、後で痛い目を見るんでな」
「製作をコロス気ですか!?」
「次回作はまだ企画から上がってきてないから、コロスって程でもねェだろ?」
「これだからも~!」
「でも今、格別ヒマってワケでもないですよ? 俺もタケシも担当してるメインプログラムの進行があるし…」
「解った。じゃあこれは、俺がヒマ見て少しずつやっておくから………」
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