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第5話
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「今日の議題は、やっぱ反省会?」
「うん、まぁそう。お弁当と一緒に置いてある書類に、適当に目を通しておいて」
置かれている冊子には、表紙らしい1番上の紙に「社外秘」と赤の判が押されていた。
「なんですか、このいやに分厚い資料は?」
「アンケートハガキの集計結果」
「ええ~? 今回ずいぶん集まったねェ!」
ペラペラとページをめくりながら、多聞が頓狂な声を出す。
「いつもの倍はありそうじゃないですか。どうしたんです?」
手に取った柊一も改めてその書類の重さに驚きの声を上げた。
「新田サンの発案で、アンケートに答えると抽選でオリジナルサウンドトラックのCDプレゼントっつーのをやったら、それだけ反響があったんだ」
「新田サンの作戦勝ちだね」
「まぁ、俺は数字の計算しか出来んからなぁ。まぁ、たまには貢献する事もあるンよ」
「その資料は、全部でこの4部しか作ってない。表紙に仰々しく書いてあるが、管理には気をつけてくれ」
「ずいぶん厳しいね。なんかあるの?」
「こんな零細企業の些末な書類なんかそれほど欲しがる輩もいないとは思うが、最近は御上がウルサイんでなぁ」
「オカミ?」
「抽選付きのアンケートだから、無記名じゃないワケ」
「ああ、個人情報……」
確かに言われてみれば、一覧の中には本人の名前と住所や年齢に職業など細かい情報が記載されている。
新田は「零細企業」と言ったが、しかしこうした情報というのは意外にも金になったりするし、一方で最近ではそうした物の取り扱いをぞんざいにすれば社会的に厳しい目で批判されるから、企業にとってはイメージダウンに繋がっていく。
柊一達が扱っている「家庭用ゲーム」の購買対象は小学生から高校生ぐらいの「未成年」がほとんどだが、彼らのお財布事情は基本的に保護者の管轄にある。
保護者はこちらの商品の内容を知らない分、製品のクオリティが高くても企業のイメージが悪くなれば金を出そうとはしなくなるだろう。
「零細……って、言えない量だと思うけど? これ、1ページに何件のデータが掲載されてるのさ?」
「ん~? それなら余計に大事にしてね」
いつもの事だが、新田の進行ぶりは雑談と差して変わらない調子で行われる。
弁当を食べながらの進行だから、余計に「不真面目」ムードが濃厚になる傾向もあるのだが。
「んで、このアンケートに目を通して、ちょっと思いついちゃったコトがあるんだ」
「ええ~? 新田サンの思いつきはコワイからなぁ」
「思いつきっつーか、アンケートに書いてあったんだけど。次回はやっぱり、新機種にして欲しいですっつーのがすごく多い意見だったのね。それと一緒に多かったのが、前の機種はもう持ってないから、昔のゲームをやりたくても出来ないって意見だったんだ」
「まさか、新田サン………」
「うん、移植してプレミアムボックスとかでリリースしたら、結構売れそうな予感がするので」
「ので………?」
「出します」
「決定してんじゃん!」
「問題ある?」
新田の「毎度お馴染み」マイペース発言に、多聞と柊一は顔を見合わせた。
「そっちのスケジュール、どうよ?」
多聞が柊一に訊ねる。
「ウチはいつだって、同じようなモンだから。でも、移植となったらただ移すだけじゃなくて、イベントを増やしたりとか…やっぱりボーナスちっくな旨味を入れておかないとマズイでしょ? そっちの状況次第だな」
柊一の返事に、多聞はちょっと考えるような仕種をした。
「そーだなぁ。まぁ骨子は完全に出来上がってるワケだから、その辺は別に問題ないよ?」
「そっちが平気なら、こっちはスケジュール詰めるぜ?」
「ほうら、全然OKじゃん!」
「OKじゃないっちゅーの」
自信満々に言い切る新田に、多聞と柊一は苦い笑みを向ける他に為す術もない。
「じゃあ、本日の会議はこれまでと致します~。う~ん、美味しかった。ごちそうさま」
パンッと両手を合わせた新田に、松原もまたやや呆れ顔で溜息を吐くだけだった。
「うん、まぁそう。お弁当と一緒に置いてある書類に、適当に目を通しておいて」
置かれている冊子には、表紙らしい1番上の紙に「社外秘」と赤の判が押されていた。
「なんですか、このいやに分厚い資料は?」
「アンケートハガキの集計結果」
「ええ~? 今回ずいぶん集まったねェ!」
ペラペラとページをめくりながら、多聞が頓狂な声を出す。
「いつもの倍はありそうじゃないですか。どうしたんです?」
手に取った柊一も改めてその書類の重さに驚きの声を上げた。
「新田サンの発案で、アンケートに答えると抽選でオリジナルサウンドトラックのCDプレゼントっつーのをやったら、それだけ反響があったんだ」
「新田サンの作戦勝ちだね」
「まぁ、俺は数字の計算しか出来んからなぁ。まぁ、たまには貢献する事もあるンよ」
「その資料は、全部でこの4部しか作ってない。表紙に仰々しく書いてあるが、管理には気をつけてくれ」
「ずいぶん厳しいね。なんかあるの?」
「こんな零細企業の些末な書類なんかそれほど欲しがる輩もいないとは思うが、最近は御上がウルサイんでなぁ」
「オカミ?」
「抽選付きのアンケートだから、無記名じゃないワケ」
「ああ、個人情報……」
確かに言われてみれば、一覧の中には本人の名前と住所や年齢に職業など細かい情報が記載されている。
新田は「零細企業」と言ったが、しかしこうした情報というのは意外にも金になったりするし、一方で最近ではそうした物の取り扱いをぞんざいにすれば社会的に厳しい目で批判されるから、企業にとってはイメージダウンに繋がっていく。
柊一達が扱っている「家庭用ゲーム」の購買対象は小学生から高校生ぐらいの「未成年」がほとんどだが、彼らのお財布事情は基本的に保護者の管轄にある。
保護者はこちらの商品の内容を知らない分、製品のクオリティが高くても企業のイメージが悪くなれば金を出そうとはしなくなるだろう。
「零細……って、言えない量だと思うけど? これ、1ページに何件のデータが掲載されてるのさ?」
「ん~? それなら余計に大事にしてね」
いつもの事だが、新田の進行ぶりは雑談と差して変わらない調子で行われる。
弁当を食べながらの進行だから、余計に「不真面目」ムードが濃厚になる傾向もあるのだが。
「んで、このアンケートに目を通して、ちょっと思いついちゃったコトがあるんだ」
「ええ~? 新田サンの思いつきはコワイからなぁ」
「思いつきっつーか、アンケートに書いてあったんだけど。次回はやっぱり、新機種にして欲しいですっつーのがすごく多い意見だったのね。それと一緒に多かったのが、前の機種はもう持ってないから、昔のゲームをやりたくても出来ないって意見だったんだ」
「まさか、新田サン………」
「うん、移植してプレミアムボックスとかでリリースしたら、結構売れそうな予感がするので」
「ので………?」
「出します」
「決定してんじゃん!」
「問題ある?」
新田の「毎度お馴染み」マイペース発言に、多聞と柊一は顔を見合わせた。
「そっちのスケジュール、どうよ?」
多聞が柊一に訊ねる。
「ウチはいつだって、同じようなモンだから。でも、移植となったらただ移すだけじゃなくて、イベントを増やしたりとか…やっぱりボーナスちっくな旨味を入れておかないとマズイでしょ? そっちの状況次第だな」
柊一の返事に、多聞はちょっと考えるような仕種をした。
「そーだなぁ。まぁ骨子は完全に出来上がってるワケだから、その辺は別に問題ないよ?」
「そっちが平気なら、こっちはスケジュール詰めるぜ?」
「ほうら、全然OKじゃん!」
「OKじゃないっちゅーの」
自信満々に言い切る新田に、多聞と柊一は苦い笑みを向ける他に為す術もない。
「じゃあ、本日の会議はこれまでと致します~。う~ん、美味しかった。ごちそうさま」
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