ワーカホリックな彼の秘密

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第4話

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 社屋は、国道沿いにある3階建ての小振りなビルを賃貸している。
 1階は営業と総務、2階に企画と製作が置かれ、3階はロッカールームと喫煙所を兼ねた給湯室がある。

「チーフ、珍しいですね。12時きっかりに席を立つなんて?」

 エレベーターの前に立つ柊一に、広尾が声をかけてくる。

「ん? ああ。今日は定例会議だから」

 柊一の答えに、広尾は「なるほど」という顔で頷いた。
 定例会議は1階の営業と総務が使っている大部屋の奥にある、会議室とは名ばかりの物置じみた小部屋で行うのが常なのだ。
 しかもそれは、仕出しの弁当を頼んで食事をしながら話をする…と言うシステムなのである。
 1階で降りた広尾は食事をする為に玄関に向かい、柊一は会議室に行く為にそこで広尾と別れた。
 件の会議室は大部屋を横切らなければ入れない形になっているので、否も応もなく柊一は大部屋の扉を開ける。と、先に部屋を出て行った筈の神巫が、そこに立っていた。

「どうした、神巫? メシに行かないのか?」
「いえ、行きますよ。ただ、総務のキムちゃんとイブちゃんと約束してるんで、待ってるンです」
「は?」

 一瞬言われている事が理解出来ず、柊一は首を傾げる。

「ウチの総務に、ガイジンなんていたっけ?」
「ヤだな~、チーフ! 木村サンと伊武サンだからキムとイブなんですよ。木村サンと伊武サンって呼ぶより、その方がカワイイでしょ?」
「そう………なのか?」

 柊一には全く理解出来ないが、どうやらそれで本人達は納得しているらしい。

「カンちゃん、お待たせ」
「じゃあ、食事行ってきます」
「ああ、時間までに戻って来いよ」

 2人の女子社員を連れて出ていく神巫を見送っていると、後ろから肩を叩かれる。

「シノ、どうした?」
「いや……あーいうのが理解出来ないのって、やっぱそれだけ俺が歳食ったのかナ~? とか思って」
「あんなの?」

 柊一の促す先を目で追った松原は、女子社員と連れだって歩いていく神巫の姿を見て笑った。

「なに言ってンだよ、俺達が相手にしてるのはもっと若い世代なんだぞ? しっかりしてくれよ、稼ぎ頭」

 背中を叩かれ、柊一はようやく思い出したように会議室に向かう。
 扉を開けると、そこには既に新田と多聞が座っていた。

「スミマセン、遅くなりまして」
「いーよ、いーよ。さぁ、座って。…じゃあ、まずは全員でいただきますをしましょう」

 まるっきり保育園の保父さんのような態度で両手を合わせる新田に、三人は黙って従った。

「今日は、いつもと仕出し屋さん変えてみたんだ。やっぱりオイシイお昼を食べながらだと、話も和やかに進むよね」
「新田サン、単に総務で一緒に飯食ってくれるヒトがいないだけなんじゃないの?」

 呆れ顔の松原に、弁当箱の蓋を開けかけた格好のままで新田は不満そうな顔をした。

「しっつれいな! これでもキムちゃんとイブちゃんにサトちゃんって呼ばれてるんだよ?」
「ウチの会社、いつからそんなガイジン雇ったンだよ?」
「木村と伊武でキムとイブなんだと」
「面白いよね、若いコってさぁ」
「総務に木村と伊武しかいないならそれでもイイけどさぁ、他にもヒトがいるんだから面白がる前に注意しよーよ、新田サン………」
「ええ~? みんなでニックネームで呼び合った方が和気藹々しててよくない?」
「よくないの! そんなコトして、うっかりセクハラで訴えられても知らないよ!」

 総務のチーフであり代表取締役の新田、営業責任者の松原、製作責任者の柊一、企画責任者の多聞の4人が重役のフルメンバーになる。
 柊一・松原・多聞の三人よりも一世代上になる新田は名目上「総取締役」になっているが、彼がそれに任命された理由は1にも2にも「最年長だから」という理由だけの、実態は笑顔も体型もまろやかな見た目通りの人の好い人物だ。
 結局、生真面目な性格の松原が場を仕切る事の方が多く、新田も他の2人もそれに関して異論はない。
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