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第1話
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社屋の前に立った東雲柊一は、おもむろにポケットからセキュリティ解除のカードを取り出した。
時刻はまだ午前7時になっていない。
当たり前だが、道行く人も数えるほどだ。
手慣れた様子でセキュリティを解除して、それから入り口の施錠を外す。
「おはようシノさん、いつも早いねェ」
不意に声を掛けられて、吃驚して振り返ると見慣れた長身が立っていた。
「レン? おはよう、どうしたんだ? 遅刻常習犯がこんな時間に来るとは珍しいじゃないか」
「ヤダなぁ! 俺が遅刻常習犯だったのなんて、スッゲー昔の話じゃないか」
「俺の記憶の限りじゃ、遅刻してショーゴに叱り飛ばされてる印象しかないんでね」
扉を開くと、多聞は特に悪びれる様子もなくちゃっかり先に社屋に入っていく。
柊一は数年前まで、家庭向けテレビゲームの製作を請け負う下請け企業に勤めていた。
その時、柊一のプログラミングにクレームをつけにきたのが他でもない、今、隣をのほほんとした顔で歩いている多聞蓮太郎だった。
黙っていると怒っているようにしか見えないコワモテの顔が、日本人にしては規格外の190cmを越える長身のてっぺんにくっついている。
そんな多聞が気炎を吐きながら怒鳴りこんできたものだから、担当営業の若い男は竦み上がり、事務の女子社員は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
しかし一方の柊一もまた、負けん気では誰にも引けを取らない頑固者だったのである。
自分の仕事に毅然としたプライドを持ち、相手が得意先であろうが出資者であろうが、理不尽だと思ったら絶対に己を曲げる事などしない。
時には上司にまで煙たがられるような一面を持ち合わせている柊一と、完全に頭に血が上っている多聞は、その場で真っ向からぶつかり合った。
だが結局「よりよい物を完成させたい」という、同じ気持ちを持っている事に気付いた瞬間、怒鳴り合いは苦笑に終わり、すんなりと和解する事が出来た。
それからは別の企業に勤めていながらも、なんとなく帰り際に食事に行くような事が増え、多聞と柊一は次第に互いをよく知るようになったのである。
多聞がその容姿で、日常生活で無駄に損をしている…などという事も、後になって知った。
仕事への情熱が人一倍強い柊一は、惰性的な流れになっている職場の現状に強い不満を持っており、同じ情熱を同じように持て余していた多聞と話すうちに、おのずと「独立」の話題がのぼるようになった。
元々多聞は、大手の企業に就職する事によってコネを作り、資金繰りの目処が立った所で独立をしようと考えていたと言い、柊一が一緒にやってくれるのならば、独立は組織を整えた会社という形にして立ち上げようと言ってくれた。
柊一は、卓越したセンスを持つ多聞との仕事に魅力を感じていたし、発注元の言いなりで納品しなければならない下請けの実情にうんざりもしていたから、その話に乗った。
そして多聞が経理のエキスパートである新田聡史を、柊一が幼なじみで営業経験のある松原章吾を連れてきて、4人で会社を起業したのが数年前の話なのである。
時刻はまだ午前7時になっていない。
当たり前だが、道行く人も数えるほどだ。
手慣れた様子でセキュリティを解除して、それから入り口の施錠を外す。
「おはようシノさん、いつも早いねェ」
不意に声を掛けられて、吃驚して振り返ると見慣れた長身が立っていた。
「レン? おはよう、どうしたんだ? 遅刻常習犯がこんな時間に来るとは珍しいじゃないか」
「ヤダなぁ! 俺が遅刻常習犯だったのなんて、スッゲー昔の話じゃないか」
「俺の記憶の限りじゃ、遅刻してショーゴに叱り飛ばされてる印象しかないんでね」
扉を開くと、多聞は特に悪びれる様子もなくちゃっかり先に社屋に入っていく。
柊一は数年前まで、家庭向けテレビゲームの製作を請け負う下請け企業に勤めていた。
その時、柊一のプログラミングにクレームをつけにきたのが他でもない、今、隣をのほほんとした顔で歩いている多聞蓮太郎だった。
黙っていると怒っているようにしか見えないコワモテの顔が、日本人にしては規格外の190cmを越える長身のてっぺんにくっついている。
そんな多聞が気炎を吐きながら怒鳴りこんできたものだから、担当営業の若い男は竦み上がり、事務の女子社員は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
しかし一方の柊一もまた、負けん気では誰にも引けを取らない頑固者だったのである。
自分の仕事に毅然としたプライドを持ち、相手が得意先であろうが出資者であろうが、理不尽だと思ったら絶対に己を曲げる事などしない。
時には上司にまで煙たがられるような一面を持ち合わせている柊一と、完全に頭に血が上っている多聞は、その場で真っ向からぶつかり合った。
だが結局「よりよい物を完成させたい」という、同じ気持ちを持っている事に気付いた瞬間、怒鳴り合いは苦笑に終わり、すんなりと和解する事が出来た。
それからは別の企業に勤めていながらも、なんとなく帰り際に食事に行くような事が増え、多聞と柊一は次第に互いをよく知るようになったのである。
多聞がその容姿で、日常生活で無駄に損をしている…などという事も、後になって知った。
仕事への情熱が人一倍強い柊一は、惰性的な流れになっている職場の現状に強い不満を持っており、同じ情熱を同じように持て余していた多聞と話すうちに、おのずと「独立」の話題がのぼるようになった。
元々多聞は、大手の企業に就職する事によってコネを作り、資金繰りの目処が立った所で独立をしようと考えていたと言い、柊一が一緒にやってくれるのならば、独立は組織を整えた会社という形にして立ち上げようと言ってくれた。
柊一は、卓越したセンスを持つ多聞との仕事に魅力を感じていたし、発注元の言いなりで納品しなければならない下請けの実情にうんざりもしていたから、その話に乗った。
そして多聞が経理のエキスパートである新田聡史を、柊一が幼なじみで営業経験のある松原章吾を連れてきて、4人で会社を起業したのが数年前の話なのである。
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