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傷だらけのあなたを守りたい
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エリシア王国の国境は、連日の戦いで荒れ果てていた。カルディア軍の総攻撃が迫り、騎士団は最後の防衛線であるリヴァス川のほとりに陣を構えた。ミリアはローブの裾を握り、川の流れを見つめた。水の音が彼女を落ち着かせたが、胸の奥では不安が渦巻いていた。
「巫女、準備はいいな」
ダリウスの声が背後から響く。ミリアが振り返ると、彼は鎧を纏い、剣を手に立っていた。赤銅色の髪が風に揺れ、鋭い瞳に決意が宿る。彼女は小さく頷いた。
「うん。水で敵を押し留めるよ。あなたは気をつけて」
ダリウスが一瞬目を細め、口元に微かな笑みを浮かべた。
「お前が無茶しなけりゃな」
その言葉に、ミリアの心が温かくなった。戦場での共闘を重ねるうち、ダリウスの冷たさが薄れ、彼女への気遣いが垣間見えるようになっていた。彼女もまた、彼の強さに頼り、彼を守りたいと思うようになっていた。
やがて、カルディア軍が川の対岸に現れた。数百の兵士が喊声を上げ、弓矢と槍を手に進軍してくる。ダリウスが剣を抜き、炎を放つと、赤い火柱が敵の先頭を焼き払った。ミリアは川に手を向け、水を操る。青い光が広がり、川の流れが急激に増し、敵の足を絡めとった。
「今だ、騎士団!」
ダリウスの号令で騎士たちが突撃し、戦場は混乱に包まれた。ミリアは後方で水を操り続け、敵の動きを封じる。だが、カルディア軍の将軍が狡猾な策を仕掛けてきた。斥候がダリウスを孤立させるため、偽の退却で彼をおびき寄せたのだ。
「ダリウス、待って!」
ミリアが叫んだ時には遅く、彼は敵の包囲網に飛び込んでいた。炎が周囲を焼き尽くすが、敵の数が多すぎる。弓兵が矢を放ち、ダリウスの肩を貫いた。彼が膝をつくと、ミリアの心臓が止まりそうになった。
「ダリウス!」
彼女は考えるより先に走り出した。騎士たちが止める声を無視し、戦場の中央へ向かう。敵兵が彼女に気づき、槍を構える。ミリアは両手を広げ、水の壁を呼び起こした。青い障壁が槍を弾き、彼女を守る。だが、その隙に別の兵士が放った矢が、彼女の腕をかすめた。
「くっ……」
血が滲むが、ミリアは歯を食いしばって進んだ。ダリウスの前に立つと、彼女は水を渦巻かせ、敵を押し退けた。彼が驚いた顔で彼女を見上げる。
「お前、何!? 下がれ!」
「嫌だ! あなたを置いていけない!」
ミリアの声が震え、涙が溢れた。彼女が水を操り続ける中、ダリウスは立ち上がり、炎を放つ。二人の力が交錯し、敵の包囲を破った。騎士団が援軍として駆けつけ、カルディア軍はついに撤退した。
戦場が静まり、ミリアは膝をついた。腕の傷が疼き、息が上がる。ダリウスが彼女に近づき、肩を掴んだ。
「無茶をするなと言っただろ! なぜ庇った!」
彼の声は怒りに満ちていたが、瞳は震えていた。ミリアは弱々しく笑い、彼を見上げた。
「あなたが大事だから。私には、あなたが必要だから」
その言葉に、ダリウスが息を呑む。彼の手がミリアの肩を強く握り、彼女を胸に引き寄せた。鎧の冷たさと彼の熱が混じり、ミリアの心を包む。ダリウスが低く呟いた。
「馬鹿か、お前……」
戦場に風が吹き、血と焦げ臭さが漂う中、二人はしばらくそのままでいた。
神殿に戻った夜、ミリアはベッドに横たわり、腕の傷を水で癒していた。青い光が傷口を塞ぎ、痛みが和らぐ。扉がノックされ、ダリウスが入ってきた。彼は鎧を脱ぎ、簡素な服に身を包んでいる。肩の傷に包帯が巻かれ、疲れが顔に滲んでいた。
「傷はどうだ」
「もう大丈夫。あなたは?」
「問題ない」
ダリウスがベッドの脇に座り、ミリアを見つめた。彼女は少し照れて目を逸らす。沈黙が流れ、彼が口を開いた。
「……なぜだ。あの時、俺を庇った理由」
ミリアが顔を上げ、彼の瞳を見る。そこには苛立ちや怒りではなく、困惑と何か温かいものが宿っていた。彼女は静かに答えた。
「戦場であなたを見てた。炎を振るう姿が、強くて、でも寂しそうで。あなたが傷ついたら、私まで壊れそうだった。だから、守りたかった」
ダリウスが目を閉じ、長い息を吐いた。彼の手がミリアの頬に触れ、初めて優しく撫でた。
「俺は炎しか信じなかった。家族を失ってから、ずっとそうだ。でも、君の水は違う。俺の炎を抑えて、落ち着かせてくれる。あの戦場で、初めて誰かを失うのが怖いと思った」
ミリアの胸が熱くなり、涙が溢れた。彼女はその手を握り返し、言った。
「私もあなたのそばにいたい。炎でも、水でも、お互いを支えられるなら」
ダリウスが目を細め、彼女の額に自分の額を寄せた。息が触れ合い、二人の間に静かな熱が生まれる。彼が囁く。
「君が必要だ、ミリア。俺を支えてくれ」
「うん、私も……ダリウス」
名前を呼び合った瞬間、二人の心が重なった。
神殿の窓から月光が差し込み、ベッドを照らす。ミリアの手から小さな水の光が舞い、ダリウスの肩から炎の粒子が上がる。二つの力が交じり合い、部屋に幻想的な輝きを放った。
「巫女、準備はいいな」
ダリウスの声が背後から響く。ミリアが振り返ると、彼は鎧を纏い、剣を手に立っていた。赤銅色の髪が風に揺れ、鋭い瞳に決意が宿る。彼女は小さく頷いた。
「うん。水で敵を押し留めるよ。あなたは気をつけて」
ダリウスが一瞬目を細め、口元に微かな笑みを浮かべた。
「お前が無茶しなけりゃな」
その言葉に、ミリアの心が温かくなった。戦場での共闘を重ねるうち、ダリウスの冷たさが薄れ、彼女への気遣いが垣間見えるようになっていた。彼女もまた、彼の強さに頼り、彼を守りたいと思うようになっていた。
やがて、カルディア軍が川の対岸に現れた。数百の兵士が喊声を上げ、弓矢と槍を手に進軍してくる。ダリウスが剣を抜き、炎を放つと、赤い火柱が敵の先頭を焼き払った。ミリアは川に手を向け、水を操る。青い光が広がり、川の流れが急激に増し、敵の足を絡めとった。
「今だ、騎士団!」
ダリウスの号令で騎士たちが突撃し、戦場は混乱に包まれた。ミリアは後方で水を操り続け、敵の動きを封じる。だが、カルディア軍の将軍が狡猾な策を仕掛けてきた。斥候がダリウスを孤立させるため、偽の退却で彼をおびき寄せたのだ。
「ダリウス、待って!」
ミリアが叫んだ時には遅く、彼は敵の包囲網に飛び込んでいた。炎が周囲を焼き尽くすが、敵の数が多すぎる。弓兵が矢を放ち、ダリウスの肩を貫いた。彼が膝をつくと、ミリアの心臓が止まりそうになった。
「ダリウス!」
彼女は考えるより先に走り出した。騎士たちが止める声を無視し、戦場の中央へ向かう。敵兵が彼女に気づき、槍を構える。ミリアは両手を広げ、水の壁を呼び起こした。青い障壁が槍を弾き、彼女を守る。だが、その隙に別の兵士が放った矢が、彼女の腕をかすめた。
「くっ……」
血が滲むが、ミリアは歯を食いしばって進んだ。ダリウスの前に立つと、彼女は水を渦巻かせ、敵を押し退けた。彼が驚いた顔で彼女を見上げる。
「お前、何!? 下がれ!」
「嫌だ! あなたを置いていけない!」
ミリアの声が震え、涙が溢れた。彼女が水を操り続ける中、ダリウスは立ち上がり、炎を放つ。二人の力が交錯し、敵の包囲を破った。騎士団が援軍として駆けつけ、カルディア軍はついに撤退した。
戦場が静まり、ミリアは膝をついた。腕の傷が疼き、息が上がる。ダリウスが彼女に近づき、肩を掴んだ。
「無茶をするなと言っただろ! なぜ庇った!」
彼の声は怒りに満ちていたが、瞳は震えていた。ミリアは弱々しく笑い、彼を見上げた。
「あなたが大事だから。私には、あなたが必要だから」
その言葉に、ダリウスが息を呑む。彼の手がミリアの肩を強く握り、彼女を胸に引き寄せた。鎧の冷たさと彼の熱が混じり、ミリアの心を包む。ダリウスが低く呟いた。
「馬鹿か、お前……」
戦場に風が吹き、血と焦げ臭さが漂う中、二人はしばらくそのままでいた。
神殿に戻った夜、ミリアはベッドに横たわり、腕の傷を水で癒していた。青い光が傷口を塞ぎ、痛みが和らぐ。扉がノックされ、ダリウスが入ってきた。彼は鎧を脱ぎ、簡素な服に身を包んでいる。肩の傷に包帯が巻かれ、疲れが顔に滲んでいた。
「傷はどうだ」
「もう大丈夫。あなたは?」
「問題ない」
ダリウスがベッドの脇に座り、ミリアを見つめた。彼女は少し照れて目を逸らす。沈黙が流れ、彼が口を開いた。
「……なぜだ。あの時、俺を庇った理由」
ミリアが顔を上げ、彼の瞳を見る。そこには苛立ちや怒りではなく、困惑と何か温かいものが宿っていた。彼女は静かに答えた。
「戦場であなたを見てた。炎を振るう姿が、強くて、でも寂しそうで。あなたが傷ついたら、私まで壊れそうだった。だから、守りたかった」
ダリウスが目を閉じ、長い息を吐いた。彼の手がミリアの頬に触れ、初めて優しく撫でた。
「俺は炎しか信じなかった。家族を失ってから、ずっとそうだ。でも、君の水は違う。俺の炎を抑えて、落ち着かせてくれる。あの戦場で、初めて誰かを失うのが怖いと思った」
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「私もあなたのそばにいたい。炎でも、水でも、お互いを支えられるなら」
ダリウスが目を細め、彼女の額に自分の額を寄せた。息が触れ合い、二人の間に静かな熱が生まれる。彼が囁く。
「君が必要だ、ミリア。俺を支えてくれ」
「うん、私も……ダリウス」
名前を呼び合った瞬間、二人の心が重なった。
神殿の窓から月光が差し込み、ベッドを照らす。ミリアの手から小さな水の光が舞い、ダリウスの肩から炎の粒子が上がる。二つの力が交じり合い、部屋に幻想的な輝きを放った。
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