君より妹のほうが好きだと婚約破棄された聖女ですが聖女の役目を捨てて本当に好きになった竜神様に嫁ぎます

白桃

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告げられた婚約破棄

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 あの日、自分の怪我と蜥蜴の怪我を治したいと願ったおかげで聖女の力に目覚めた。
 だけど同時に妹も私より遙かに弱いけれど聖女の力に目覚めたのは意味がわからない。

「もしかしてあの子なりに私の怪我を心配したのかしら。いいえ、多分自分の罪になるのが嫌だったのよね」

 私は妹のその後の「怪我したなんて告げ口してももう怪我の痕もないんだから無駄よね」という言葉を思い出して溜息をついた。

「今思い出しても聖女の力があんなことで目覚めるとかおかしな話よね。ついでに怪我を治してあげた蜥蜴さんも元気にしてるかしら」

 私は両手を山積みの箱に向けてその時に得た聖女の力を発動する。
 どういう理由で箱の中のナチュラルキーズがあんなに素晴らしい味に変化するのか理屈はわからない。
 一度他国からかなり力の強い聖女を政略結婚で嫁がせ、同じように聖女の力を箱に使わせたことがあったという。
 しかし他国の聖女では結局ナチュラルキーズはなんの変化も起きず、失敗に終わったのだとか。

「さて、これで今日のお仕事はおしまいですね。帰りましょうか」

 私はそう独り言を呟きながら部屋に戻ろうと振り返った。
 それと同時。
 この秘密の倉庫への出入り口から一人の男が入ってくるのが目に入って、私は驚きの声を上げた。

「ダイソン様、どうしてこんな所へ?」
「侍女から君が今ここにいるって聞いてね」

 入ってきたのはこのハンドアベレジ王国の第一王子であるダイソン王子。
 つまり私の婚約者だった。

 彼はサラサラの金髪を揺らしながら、その青い瞳で私を真っ直ぐ見つめて歩み寄ってくる。
 国民からも宮廷の女性からも美しいと言われているらしいその美貌。
 だけど私はその顔が少し苦手だった。

「何かお急ぎの用件でもございますの?」

 自分の美しさに自信があるのを隠しもしないその態度がどうしても私には嫌みに思えてしまうのだ。
 そして、今日はその顔にいつにも増して嫌な予感がして、私は思わず一歩後ろに下がってしまう。

「ああ、早く君には伝えておかねばならないと思ってね」
「私にですか? いったい何を」
「実は父上からやっと許可が取れたのだが、セリア」

 そう言いながら近寄ってくる彼の目は、いつも以上にらんらんと輝いている様に感じる。

「君との婚約を無かったことにする」
「はい?」

 今この王子はなんと言ったのだろう。
 私は一瞬何を言われたのかわからず思わず聞き返してしまう。

「君との婚約は破棄するということだ」
「婚約破棄……ですか? それって……」
「僕は君よりも君の妹……シルクを愛してしまったんだ」

 その言葉を聞いて渡しの頭はさらに混乱してしまう。
 たしかにシルクは私が王子と婚約をしたと聞いてからずっと「私の方がお似合いなのに」とことあるごとに口にしていた。
 そして時々私の妹という立場を使ってこの宮廷に遊びに来ていたのも知っている。
 私には宮廷内にいる友達に会いに来ているとシルクは言っていたが、もしかすると私に隠れて王子と密会をしていたのでは無いだろうか。

「で、ですが代々この国では王の妃は聖女でなければならないという決まりが」
「それなら問題ない。シルクも聖女の力を持っているのだろう? 実際僕がナイフで怪我をしたときに治して貰ったからね」

 たしかに彼女も聖女の力を持っている。
 だけどそれは私に比べればかなり弱いもので、小さな傷は治せても大きな傷は治せない。

「でもっ」

 私はそのことを訴えようと口を開きかけた。
 だが、ダイソンはそれを手で制すると「僕の話はまだ終わってない」と言った。

「王の妃は聖女でなければならない。その決まりは絶対だ。だから明日からこの国の聖女は君じゃなくシルクになる」

 シルクが聖女……。

「それでは私は!」
「君は今までのような聖女扱いではなくなるけれど、安心してくれ」
「安心?」
「ああ。きちんと聖女の姉として教会に居場所を用意してある」

 教会。
 多分それはこの国の中央聖堂のことだろう。

「君はそこで神官となり十分にその聖なる力で民を癒やしてやって欲しい」
「神官……」
「王子に婚約破棄された君に求婚するような男はいないだろうし、ずっと神官として神に仕えていくほうがいいだろうとおもってね」

 ダイソンは一片の悪意も感じさせない笑顔でそう言うと踵を返す。
 去り際に「君の部屋は三日後にシルクのものになるから、明日までに必要なものを揃えて教会へ向かうようにね」と言い残し去って行く。

 そして私はその背中を呆然と見送るしか無かったのでした。
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