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聖女のお仕事

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 ハンドアベレジ王国。
 周りを高い山脈に囲まれた小さな王国であったが、代々周りの山々に住む竜に守られ他国からの侵略も受けずに脈々とその歴史を紡いできた。

 国の主たる産業は高山地帯でしか生えないチュラルキという木から獲れる樹液である。
 この樹液は門外不出の製法によって最上級の香りを持つ甘味料となり、チュラルキーズという名で国外の上流層へかなり高額で売られていた。

 生産数も限られ、製法も秘密のため他国は真似出来ず価格はどんどん高騰するばかり。
 そして製法を知ろうと何度もスパイが送り込まれた。
 だが入手した方法で他国が同じようにチュラルキーズを作ろうとしても本家本物のチュラルキーズほど風味良いものは作れずに断念したという話だ。

「まさか聖女の力を使って最後にひと味加えてるなんて思わないわよね」

 私は自らに与えられた城の最奥にある秘密の倉庫で一人ぼやく。
 目の前には出荷前の大量の『チュラルキーズ』が入った箱が積まれている。

「ぼやいていても仕方ないわね。これが私の……聖女であり王妃になる者の仕事なんだから」

 ハンドアベレジ王国の片隅の村で生まれた村娘でしかなかった私が、こんなに綺麗で豪華な服を着て第一王子の婚約者としてくらせているのも、私が一番強い聖女の力を持っていたからだ。

 聖女と言ってもこの国限定の話で、一般的に簡易的な治癒魔術が使える程度の力である。
 他国の国全体を守る結界を張れたり、土地を富ませたり、死者を蘇生させたり出来る『聖女』に比べれば微々たる力だ。

 なのになぜ聖女とよばれ敬われるのか――それはこの国で生まれ育った聖女の力は、この国を支えるナチュラルキーズを作るのに必要不可欠な最後のピースだからである。

 ちなみに私の次に強い力を持っていたのは妹のシルクで、彼女はことあるごとに私に「お姉ちゃんさえいなきゃ私がお姫様だったのに」と愚痴を言ってくる。
 昔から妹と私は仲が悪かった。

 村の庭で怪我をした大きな蜥蜴を見つけた時も私が治療しようとしたら「そんな気持ち悪いものに良く触れるわね!」と、その蜥蜴に石を投げ出した。
 慌てて間に入った私は、その石が頭に当たって怪我をしたのを覚えている。

「さて、仕事しなきゃ」

 私は頭の中に浮かんだ妹の顔を振り払い両手を箱の山に向けた。

 まさかその妹シルクが自分の婚約者である第一王子ダイソンと愛を語り合っていたなんて。
 この時の私は知るよしも無かったのでした。



♥♥♥♥♥♥あとがき♥♥♥♥♥♥♥

久々に作品を書き始めました。
よろしければ感想などもいただけるとうれしいです。
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