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「少しは落ち着いたかい?」
「ええ、ありがとうございます」
「それは良かった」
衝撃的な婚約破棄宣言の後、謁見の間を追い出された私は暫く何も考えられずそこで動けずに居ました。
そんな私を見つけ、声を掛けてくれた方。
それが今、私の対面に座り優雅にティーカップを傾けているエルトリアの第二王子リーク様でした。
いえ。
今は王弟でしょうか。
「話は聞いている」
リーク様はダルト様に比べて繊細で優しい顔をしています。
その顔に浮かぶ表情が雲って見えるのは見間違いでは無いでしょう。
「そう……ですか」
「まさか兄がここまで愚かだったとは思わなかった。兄に代わって謝罪するよ。本当にすまない」
リーク様はそう言うと、手にしたカップをテーブルに戻して頭を下げた。
私はまさか王弟である彼がそんなことをするとは思わず、慌ててしまう。
「リーク様、頭をお上げください」
「しかし、我が兄が貴女にしたことは王として、貴族として到底許されることでは――」
「それはそうですけれど。でもリーク様がダルト様の代わりに頭を下げることでは無いですわ」
今、この部屋には私とリーク様しかいない。
リーク様が私を気遣って人払いをしてくれたからだ。
もしこの場に他の者がいたならば彼も立場上頭を下げるなどと言うことはしなかったかも知れない。
いや、もしかすると聡明な彼のこと。
最初から私に謝罪するために人払いをしたのかも知れない。
「ファリスの策略にまんまと兄は嵌められてしまったんだ」
「えっ?」
リーク様が頭を上げて暫く。
私たちはお互い無言でティーカップの中身をゆっくりと口の中へ流し込んでいた。
そんな重い沈黙の後、リーク様の口からこぼれた言葉はそんな驚きのものだったのです。
「父上の葬儀の時の事を覚えているかい?」
「はい、もちろんですわ」
「あの日、友好国の使者としてファリスからは王の代理として第一王女が来ただろう?」
一年前。
王が急逝した。
その葬儀に友好国ファリスの代表としてやって来たのがファリスの第一王女であるエリーゼ姫でした。
その姿は女である私から見てもとても美しく。
身につけている者からその所作も含め、大国ファリスと小国エルトリアの差を見せつけられているようでした。
「あの日、兄はエリーゼ姫と王代理として会談をした。その時にどんな話があったのか私も知らないが、あの日から兄は変わってしまった」
ダスト様とエリーゼ姫。
その二人の出会いは偶然ではなくファリスが仕掛けた罠だとリーク様は言う。
「ファリスは兄に姫を嫁がせることで、この国を奪おうとしている。僕はそう考えている」
「国を……奪う?」
「そうだ。今までファリスは表向きは長い間友好国を演じていた。かつてはあれほど我が国の『資源』を奪おうと躍起になっていたというのに……だ」
私はリーク様の不穏な言葉に何も言い返せずただ黙っているしかなかったのです。
「ええ、ありがとうございます」
「それは良かった」
衝撃的な婚約破棄宣言の後、謁見の間を追い出された私は暫く何も考えられずそこで動けずに居ました。
そんな私を見つけ、声を掛けてくれた方。
それが今、私の対面に座り優雅にティーカップを傾けているエルトリアの第二王子リーク様でした。
いえ。
今は王弟でしょうか。
「話は聞いている」
リーク様はダルト様に比べて繊細で優しい顔をしています。
その顔に浮かぶ表情が雲って見えるのは見間違いでは無いでしょう。
「そう……ですか」
「まさか兄がここまで愚かだったとは思わなかった。兄に代わって謝罪するよ。本当にすまない」
リーク様はそう言うと、手にしたカップをテーブルに戻して頭を下げた。
私はまさか王弟である彼がそんなことをするとは思わず、慌ててしまう。
「リーク様、頭をお上げください」
「しかし、我が兄が貴女にしたことは王として、貴族として到底許されることでは――」
「それはそうですけれど。でもリーク様がダルト様の代わりに頭を下げることでは無いですわ」
今、この部屋には私とリーク様しかいない。
リーク様が私を気遣って人払いをしてくれたからだ。
もしこの場に他の者がいたならば彼も立場上頭を下げるなどと言うことはしなかったかも知れない。
いや、もしかすると聡明な彼のこと。
最初から私に謝罪するために人払いをしたのかも知れない。
「ファリスの策略にまんまと兄は嵌められてしまったんだ」
「えっ?」
リーク様が頭を上げて暫く。
私たちはお互い無言でティーカップの中身をゆっくりと口の中へ流し込んでいた。
そんな重い沈黙の後、リーク様の口からこぼれた言葉はそんな驚きのものだったのです。
「父上の葬儀の時の事を覚えているかい?」
「はい、もちろんですわ」
「あの日、友好国の使者としてファリスからは王の代理として第一王女が来ただろう?」
一年前。
王が急逝した。
その葬儀に友好国ファリスの代表としてやって来たのがファリスの第一王女であるエリーゼ姫でした。
その姿は女である私から見てもとても美しく。
身につけている者からその所作も含め、大国ファリスと小国エルトリアの差を見せつけられているようでした。
「あの日、兄はエリーゼ姫と王代理として会談をした。その時にどんな話があったのか私も知らないが、あの日から兄は変わってしまった」
ダスト様とエリーゼ姫。
その二人の出会いは偶然ではなくファリスが仕掛けた罠だとリーク様は言う。
「ファリスは兄に姫を嫁がせることで、この国を奪おうとしている。僕はそう考えている」
「国を……奪う?」
「そうだ。今までファリスは表向きは長い間友好国を演じていた。かつてはあれほど我が国の『資源』を奪おうと躍起になっていたというのに……だ」
私はリーク様の不穏な言葉に何も言い返せずただ黙っているしかなかったのです。
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