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一話
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「アイラ、君との婚約は破棄だ!」
国王主催の晩餐会でレーヴ伯爵令嬢である私に衆人環視の中で告げたのはこの国の第一王子であるフレッドでした。
「どうしてですか?」
「お前がこの国を裏切ったからだ」
そう言い切る王子の顔は冗談を言っている風もなく。
もちろん私には身に覚えの一切無いことです。
「裏切ったなんて、そんな……」
濡れ衣ですと続けようとした私の言葉は、しかし別の人物の声によって遮られてしまいます。
「往生際が悪いですわよお姉様」
「イスカ! 貴女、どうしてここに」
「あら? 私が晩餐会に出席しているのがそんなに不思議ですか?」
彼女の名前はイスカ。
私の腹違いの妹でした。
確か彼女は今日の晩餐会には招待されていないと聞いていました。
というのも彼女は私の父が使用人に手をつけて生まれた子で、もちろん私はそんなことは気にせず接しては来たのですが、国王主催の場となるとその身分が足を引っ張り彼女が呼ばれることは今まで一度もありませんでした。
そんな彼女が突然私の目の前に現れたのです。
しかもその手は王子の腕を抱きかかえているではありませんか。
「王子から手を離しなさい!」
「どうして?」
「どうしても何も。フレッド王子は私の――」
そうでした。
私はつい先ほど王子から婚約破棄を言い渡されてしまったのでした。
「私の? お姉様はもうフレッド様の婚約者でもありませんのに何をおっしゃるつもりだったのですか?」
嘲笑。
確かにイスカの口元には私を嘲る笑いが浮かんでいました。
「……」
何も言えず口を閉ざした私に、イスカはさらに言葉を投げつけます。
「ああ、私の姉が裏切り者だなんて恥ずかしい限りですわ。まさかあの敵国の黒騎士に王国の情報を漏らし続けていたなんて」
ざわっ。
黒騎士の名がイスカの口から出た瞬間に、晩餐会にあつまった人々の様子が一瞬で変わってしまいました。
数年前からこの王国は隣国である公国と戦争状態が続いているのです。
最初は些細な行き違いから始まった戦いは、いつしか大きなものとなって行き、今日まで長きにわたる戦争が続いています。
しかしその戦争もある一人の人物が現れたことで大きく変わろうとしていました。
それが黒騎士です。
漆黒の全身鎧を身にまとい戦場を王国軍の裏をことごとくかき縦横無尽に駆け巡るその力は絶大で、今まで均衡状態を保っていた王国と公国とのパワーバランスは一気に崩れ、今まさに王国は存亡の危機のさなかでした。
そんな中で開かれたこの晩餐会は、表向きの華やかさの裏で今後戦争をどうすべきかという話し合いの場でもありました。
「おい、あの娘が黒騎士に情報を流していたというのは本当か?」
「だとすると黒騎士が我らの裏をかく理由も……」
「王子の婚約者という立場なら情報を手に入れるのもたやすかろう」
「裏切り者」
「あの女のせいでどれだけの被害が出たと思っているんだ」
ざわめく晩餐会の中、イスカはさらに声を張り上げ私を指さして――
「私、レーヴ伯爵家次女であるイスカは今ここに我が姉であるアイラを国家反逆罪の罪で告発いたします!!」
そう告発したのでした。
国王主催の晩餐会でレーヴ伯爵令嬢である私に衆人環視の中で告げたのはこの国の第一王子であるフレッドでした。
「どうしてですか?」
「お前がこの国を裏切ったからだ」
そう言い切る王子の顔は冗談を言っている風もなく。
もちろん私には身に覚えの一切無いことです。
「裏切ったなんて、そんな……」
濡れ衣ですと続けようとした私の言葉は、しかし別の人物の声によって遮られてしまいます。
「往生際が悪いですわよお姉様」
「イスカ! 貴女、どうしてここに」
「あら? 私が晩餐会に出席しているのがそんなに不思議ですか?」
彼女の名前はイスカ。
私の腹違いの妹でした。
確か彼女は今日の晩餐会には招待されていないと聞いていました。
というのも彼女は私の父が使用人に手をつけて生まれた子で、もちろん私はそんなことは気にせず接しては来たのですが、国王主催の場となるとその身分が足を引っ張り彼女が呼ばれることは今まで一度もありませんでした。
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しかもその手は王子の腕を抱きかかえているではありませんか。
「王子から手を離しなさい!」
「どうして?」
「どうしても何も。フレッド王子は私の――」
そうでした。
私はつい先ほど王子から婚約破棄を言い渡されてしまったのでした。
「私の? お姉様はもうフレッド様の婚約者でもありませんのに何をおっしゃるつもりだったのですか?」
嘲笑。
確かにイスカの口元には私を嘲る笑いが浮かんでいました。
「……」
何も言えず口を閉ざした私に、イスカはさらに言葉を投げつけます。
「ああ、私の姉が裏切り者だなんて恥ずかしい限りですわ。まさかあの敵国の黒騎士に王国の情報を漏らし続けていたなんて」
ざわっ。
黒騎士の名がイスカの口から出た瞬間に、晩餐会にあつまった人々の様子が一瞬で変わってしまいました。
数年前からこの王国は隣国である公国と戦争状態が続いているのです。
最初は些細な行き違いから始まった戦いは、いつしか大きなものとなって行き、今日まで長きにわたる戦争が続いています。
しかしその戦争もある一人の人物が現れたことで大きく変わろうとしていました。
それが黒騎士です。
漆黒の全身鎧を身にまとい戦場を王国軍の裏をことごとくかき縦横無尽に駆け巡るその力は絶大で、今まで均衡状態を保っていた王国と公国とのパワーバランスは一気に崩れ、今まさに王国は存亡の危機のさなかでした。
そんな中で開かれたこの晩餐会は、表向きの華やかさの裏で今後戦争をどうすべきかという話し合いの場でもありました。
「おい、あの娘が黒騎士に情報を流していたというのは本当か?」
「だとすると黒騎士が我らの裏をかく理由も……」
「王子の婚約者という立場なら情報を手に入れるのもたやすかろう」
「裏切り者」
「あの女のせいでどれだけの被害が出たと思っているんだ」
ざわめく晩餐会の中、イスカはさらに声を張り上げ私を指さして――
「私、レーヴ伯爵家次女であるイスカは今ここに我が姉であるアイラを国家反逆罪の罪で告発いたします!!」
そう告発したのでした。
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