腹黒聖女の影武者に無理矢理させられましたが、実は聖女様より私の方が聖なる力を持っていました

白桃

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01 私が聖女様の影武者に?

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「は? 私が聖女様の影武者にですか?」

 貧民街に突然現れた豪華な馬車。
 その中から現れた、これまた立派な法衣を身に纏った十人ほどの人たちが炊き出しを始めたのは少し前の事。
 教会の人たちによる炊き出しは毎度の事ではあったものの、今回やって来た人たちはいつもとは雰囲気が少し違っていた。

「そうだ。君は聖女様の影武者に選ばれたのだ。光栄に思うがいい」

 炊き出しが始まってしばらくした頃、施された薄味のスープを飲んでいた私は、突然一人呼び出され馬車の中にいた。
 そこで、口ひげが立派な紳士然とした神官服を着た男にそう告げられたのだ。

「そんな。私なんかが聖女様の影武者になど恐れ多い事」

 この国は女神アルテシアを崇める一神教の国である。
 そして、代々受け継がれている『聖女』という称号は、その女神の体現者と言われるほどの聖なる力を持ったものが選ばれる。

 たしかに今代の聖女様は年齢も背格好も私に似ているかもしれない。
 だけど、何度か街でのパレードや公開儀式で見かけたあの気高いお方の影武者など私に務まるとは思えなかった。

「その聖女様がお決めになった事だ」
「聖女様が?」

 私は彼のその言葉に驚きの声を上げた。
 まさか聖女様がこの私を。
 貧民街に住む身寄りの無い貧乏人の私を見初めてくれたというのだ。
 驚くなと言う方がおかしい話である。

「聖女様の頼みであれば私に断ることは出来ません。どうぞよろしくお願いします」

 私は未だに信じられないといった気分で、上の空のまま返事を返した。

「それでは今からすぐにでも大聖堂に共に来て貰おうか。何心配するな、君の住んでいた家や家財はこちらで処分しておく」
「処分……ですか?」
「ああ、貧民の君が持っているものなぞ大聖堂に持って行けるわけが無かろう」
「でも、せめて母の形見だけは。母の形見だけは取りに戻らせてください」

 突然の事に私は彼の足にしがみつくように懇願する。
 他のものは全て捨ててもいい。
 だけど、母が私がまだ幼い頃に作ってくれた形見のぬいぐるみだけは手放したくなかったのです。
 ですが、そんな懇願する私を神官様は面倒くさそうに振り払うと――

「もう決まった事だ。お前はこれから聖女様の影武者になると言った。ならば過去は全て捨てて貰わねばならない」
「そんな!! でしたら私は影武者の話はお断りさせて頂きます」

 思わず出たその言葉に、神官はあからさまに顔を不機嫌そうにさせると、冷たい表情のまま私に告げた。

「お前がもし断るというのなら。我々はこの貧民街への援助を今後一切行わない」
「なんですって!」

 貧民街に住む者たちは、毎日毎日食べるものにも困るような生活を送っている。
 特に私のような親を亡くした者。
 更に小さい孤児たちにとって、教会からの支援が唯一命を繋げる手段と言ってもいい。
 それをこの神官は止めるというのだ。

「そんな……ひどい」

 私は神官の足下に崩れ落ちると涙を流します。
 そして私は神官に答えるのです。

「わかりました。私、ニーニャは今日この時をもって過去を捨て、聖女様の影武者になります」

 脅迫に近い言葉を聞いてしまった今、私には母の形見を捨て、聖女の影武者になる道しかもう選択肢は無い。
 だったら覚悟を決めるしかないでは無いか。

 私は暗澹たる思いを胸に抱いたまま、馬車に揺られ貧民街を出て、聖女が待つ大聖堂へ向かったのです。
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