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第二章
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しおりを挟む「ち、違うんだ………。ミラを本当に愛していた訳ではない……………。」
「……………はい???」
「私はどこかで分かっていた。君が私のことをほんの少しも好いてくれていないことを。だから…ミラに君は”悪人だと言われた時、私は自分を納得させたのだ。”君は悪人だから私にあんな興味がないというような態度をとるのだ”と。それに愛していると言って慕ってくるミラの傍にいるのは心地良かった。苦しくなくて……………楽だった。私は……………真実より、そうやってミラの言うことを信じ自分の心を守ることを優先したのだ。」
私がロベルトのことを好きではないという事実に彼が気づいていたことには驚いた。
いつも私の前では偉そうな態度をとっていたロベルト。
心の中では”私がちっとも自分のことを好きではない”と知っていながら、その事実から目を背けていたのだ。
それはロベルトなりの防衛本能だった……………でも自分の心を守るために他人の感情を無視して良いわけがない。
私は彼に何も言えずに、ただただ立ち尽くすだけで
ロベルトは言葉を発さない私に構わず、俯いたまま話を続けた。
「そして.......婚約破棄をすれば、君が泣きついてくるかもしれない、と思った。私にすがりつき、私を求める君が見れると思った。…………初めて君の心を私のものにできるかもしれないと私は思ったのだ。...............今思えば、馬鹿馬鹿しい考えだったが。」
ロベルトは唇を強く噛み締めていた。
あまりにもその力が強いので、唇は真っ白だった。
彼が…後悔していることは伝わってきた。
だけど、残念ながら私の気持ちが揺れ動くことはない。
過去のロベルトの散々な態度を見てきた私の中で、彼の印象が良くなることはきっともう………ないのだ。
「…………そうですか。とにかく…ミラに興味がないのなら、婚約相手は私達姉妹ではなく他をあたってください。貴方の相手になりたい令嬢なんて沢山いらっしゃいますから」
「マリー!!! 本当に、私は君が好きなんだ!!初めて学校で見た日に一目惚れしたんだ………!!!そんなこと言わないでくれっ!!」
ロベルトの大きな声に、通行人が数人こちらを振り返った。
大体ロベルトの美しい容姿のせいで、無駄に目立ってしまっている。
それに………この人は今、なんて言った???
………一目惚れ………???
私は自分で言うのもなんだが、外見はあまり良くない。
確かに以前も私のことを”美しい”と言ってくれていたけれど、婚約破棄をしてきた時点であの言葉も冗談だったと思っていた。
両親も姉も、そして他の令嬢達も私の容姿を蔑んでいた。
”汚らしい色” 私の髪と目を見て両親は言った。
”同じ姉妹なのに貴方は地味ですわね” ロベルトに好意を寄せていた令嬢達はそう言って私を嘲笑った。
”顔から気品がないって、貴方って残念な人” ミラは夜会に行く前、必ず私の容姿を馬鹿にした。
そんな私に一目惚れって……………
ロベルトのあまりの趣味の悪さに流石に同情してしまいそうだ……………。
「お願いだ!!!もう一度考え直してくれ!!!君のためにならなんでもするから!!!」
……………側から見れば、恋人たちの完璧な修羅場だった。
私は恥ずかしさで、頭を抱えたい気分になっていた。
城下街と言えど、噂は一瞬で広がる。
明日にはグレースに質問ぜめにされること間違いなしだった。
さて、どうやってこの男を家に帰そうか……………。
未だに私の手を握り、離そうとしないロベルトに私は困り果てていた。
……………その時だった。
後ろから人影が近づいてきて、甘く優しい香りと暖かい体温が私を後ろから包んだ。
「お話中申し訳ないが、ロベルト殿。この方はもう私と未来の約束を誓ったんだ。その手を離していただけるかな?」
「.......は???」
呆然としているロベルトを他所に、後ろから私を抱きしめるように立っている..........リオは私からロベルトの手を離してくれた。
そして、ロベルトから守るように自分の後ろに私を隠してくれた。
こんな真っ昼間、きっと公務の時間だろうに…………。
よく見れば、彼は汗をかいていて呼吸も荒い。
走ってきてくれたのは一目瞭然だった。
「お前…この前の夜会の………」
ロベルトはリオを見てそう呟いた。
私は首を傾げたが、リオはにこりと微笑んだ。
「先日はどうも。あの後、仲直りはできましたか???」
「お前がっ!!! …………………………いや、お前のおかげで騙されていたことに気がつけたし……な……」
どうやらリオとロベルトは面識があるようだった。
「……………というより…未来の約束とは…………なんだ???」
「言葉の意味の通りです。」
「それは……………それはっ……………!!!」
「ええ、ご想像の通りのことでしょう」
………まぁ、未来の約束は確かにしたわね。
不敵な笑顔を浮かべるリオからそんな言葉を聞いたロベルトは確実に勘違いをしているけれど好都合だ。
「お前は………一体誰なんだっ!?!?!? 俺からマリーを奪おうなんて……!!!」
ロベルトはリオの胸ぐらを掴んだ。
私はロベルトの乱暴なその行動に焦って、彼をリオから離そうと足を踏み出したけれど、リオは片手で私を制止した。
その力が強くて私は改めて気づかされた。
……………リオはもうあの頃の子供ではないことを。
守る存在では…もうないんだ。
私はハッとして歩みを進めた足を戻した。
ロベルトが顔を真っ赤にして怒っている傍、リオは表情を崩すことなくにこやかに微笑んでいる。
そして自分の胸ぐらを掴んでいるリオの手に自らの手を重ねて彼は口を開いた。
「あぁ。まだ名乗っておりませんでしたね。私の名前はリオ・アルバスト……この国の第二皇子です」
その言葉にロベルトは目を見開いた。
彼はリオの胸ぐらを掴む手の力を抜き、慌てて彼から離れた。
「さぁ、ロベルト殿。早くお帰りください。これからマリーは仕事で忙しいのです。それに彼女に会いたい時は前もって私に連絡をください。そして彼女の仕事場にも近づかないでください。今日のように彼女に迷惑をかけるなんてもってのほかです」
リオは笑顔を浮かべているが、その瞳は鋭く冷たかった。
そんな表情を見たことがなかった私はリオをまじまじと見つめてしまう。
……………いつものどこか可愛らしい雰囲気とは全然違う……………。
新しいリオの一面を垣間見ているようだった。
「……………ロベルト殿??????」
なかなか動き出さないロベルトに、再度リオが圧をかけた。
その低い声に、ロベルトは慌てたようにその場を後にした。
あの自己中心的なロベルトといっても、流石に王子には逆らわないようだ。
私はホッとして息をはいた。
「り、リオ。ありがとう。だけど、公務中では......???」
「そうですね、急いで帰らねばなりません。不安だと思いますが、ロベルトもしばらくは来ないでしょう。また夜にきますので、それまでお仕事頑張ってください。」
そう言ったリオは私の頭を優しく撫でた。
その優しい手つきに私は緊張が抜けていくのを感じた。
リオはもう一度私に笑いかけると、私の頭から手を離した。
温もりが消え、少し…名残惜しい気持ちになってしまったが、私は何も言わずにリオの顔を見上げた。
「あの…」
「どうしました?マリー」
「今日は……助けてくれてありがとう………」
私の言葉にリオは嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そんな表情を見ていると、何故か私まで幸せな気持ちになった。
「もう昼休み過ぎてしまっていますよね?見送りは要らないので早くお店に戻ってください」
リオはそう言って、私をお店の方へ連れて行った。
私は公務を抜け出してきたらしいリオが心配だったが、リオが何も言わないので大人しくお店に入った。
私がお店に入ったのを確認すると、リオは笑顔で私に手を振りその後足早に去って行った。
その後ろ姿を目で追いながら、私はまた”ありがとう”と小声で呟いた。
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