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第二章
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しおりを挟む「昼休憩入りまーす!!」
私は他の従業員の方達に聞こえるように報告をして、店の外に出た。
もうすぐ働き始めてから、一週間が経つ。
仕事にはだいぶ慣れてきて、この商店街の他のお店に友達もできた。
「あっ!!! こっちだよ!マリー」
そう言いながら手を大きく振っているこの少女はグレース。
私の街での初めてのお友達だ。
グレースのお店のテーブルで私たちは、それぞれ持ってきたものを広げた。
私のボックスに入っているのはケーキ、そしてグレースのボックスに入っていたのはサンドウィッチだ。
こうやって毎日それぞれご飯とスイーツを持ってきて、半分を交換するのだ。
ちなみにグレースの働いているお店はレストランで、両親が経営しているお店だそうだ。
成人する前から手伝いはしていたけれど、本格的に働き出したのは最近なので、ほとんど私と同期みたいなものだった。
「ん~おいしぃ~~~~!!!」
「本当に最高!!疲れた後のご飯って良いわよね!!」
「こう………なんというか、ご飯が体に吸収されているのを感じるっていうか!!」
「わかる!!! それに、グレースの家のこの屋外のテーブル席も良いわよね~太陽の光を浴びて、街行く人を見ながら食事できるのって楽しいわ!」
「本当???なら誘って良かった!!」
グレースは満面の笑みを浮かべていた。
実はグレースはアルビレオの幼馴染の一人で、彼の紹介で仲良くなった。
多分、街に知り合いのいない私を気遣って、紹介してくれたのだろう。
アルビレオは本当に優しい人だった。
「マリーは仕事とか生活で困ってることとかない???一人暮らしなんでしょう???」
「最初は戸惑うことも多かったけれど、最近は慣れてきたわ!! 私適応力の早さには自信があるのよね~」
「ふふっ確かに慣れるのが早いよね!! 元々は貴族だったんでしょう?」
「一応ね~。でも私は家族と離れて田舎で暮らしていた期間が長いから、本当の貴族と一緒にしちゃ怒られちゃうかもしれないわ」
「そうなの?? でも滲み出るオーラみたいなのがあるよ!!」
「何それ??? こんな髪の令嬢なんていないわよ」
私は笑いながらそう言った。
だけどグレースは少し悲しそうな顔をした。
貴族のご令嬢は普通長くて美しい髪を持っている。
けれど私の髪は顎くらいまでの長さしかない。
”元貴族である”と聞けば、何かあったと察するのは容易なことだった。
だからグレースもこんな表情を浮かべているのだ。
でも私はこの短い髪も気に入っている。
軽いし、貴族の家のように風呂場が設置されていない新居ではこっちの方が断然楽だった。
それに城にいたあの日、リオがわざわざ理容師を呼んで私のボサボサだった髪を綺麗に整えさせてくれたのだ。
あの時は見るに耐えなかったけれど、今は大丈夫。
「そうだ!!私、マリーに聞きたいことがあったの!!」
「なあに???」
「いつも夜に迎えに来る、あのかっこいい男性は誰なの!?!? 恋人!?!?」
グレースは目をキラキラと輝かせて私を見つめている。
その乙女な笑顔に私は半笑いでしか返せない。
な、なんて説明すれば良いのだろう………。
恋人ではないけど、ただの友達………でもない気がする。
それにただの友達がこんなに毎日会いに来るのはおかしいわよね………………???
私の悶々とした表情にグレースは首を傾げた。
「そ、そんなに難しい関係の方なの…………???………………はっ!!もしかして禁じられた恋……とか???そのせいで、マリーは貴族でいられなかったとか…………!?!?!?か、悲しすぎるよお…………」
「い、いや違うわ!全然違うわよ、グレース。なんというか微妙な関係なの。恋人ではないわ!!」
「なるほど!!恋人ではないけどもうすぐゴールインしそうな………、あれよね!!!」
............そ、それなのか???
グレースが何を指しているのか分からなかったけれど、私はとりあえず笑ってその場を誤魔化す。
「へぇ~?別に恋人じゃないんだ???」
その時、グレースの後ろからアルビレオが現れた。
彼はグレースの家のサンドウィッチを片手に、ひょいっとグレースの横の席に座り、サンドウィッチを食べ始める。
グレースはアルビレオが現れた途端、頰を真っ赤に染め、俯きがちになった。
……………わ、わかりやすいわね………。
確かにアルビレオからグレースを紹介された日も、こんな風に顔を真っ赤にしていた気がする。
あれは初対面で緊張していた訳ではなくて、アルビレオと一緒にいることに緊張していたのね……!!
「そうよ?古い友人なの。」
「んじゃ、幼馴染みたいなもんか?俺とグレースみたいな」
そう言ってアルビレオはグレースに笑いかけた。
その瞬間、グレースは口を魚みたいにパクパクさせながら更に顔を赤くした。
この二人は幼馴染………。
グレースがいつからこんな調子なのか知らないけれど、アルビレオもグレースの好意に全く気づいていないようだった。
………鈍すぎる………。
「昔はね。ここ5年会っていなかったから、幼馴染とは言えないわ」
「へぇ~、にしては仲良いよなぁ。普通、仕事帰りに友人を家まで送ってくか??」
「………普通はしないわね」
「わかった!!あっちがお前に片思いしてるんだろ???」
「……………」
私の微妙な反応に、アルビレオは”あったり~”と嬉しそうに言って口笛を吹いた。
………そんなところで勘を働かせるのなら、横にいるグレースの気持ちに気づいてあげて欲しいわ。
私は内心ため息をつきながら、ジュースのストローに口をつける。
「でもあれだな。あいつと一緒にいるマリーを見てるとやっぱり貴族だったんだな、って思うんだよな」
「なにそれ???」
「ほら、あいつのエスコートでマリーがお店から出て行くところを見ると、夜会に出かける本物のお貴族様みたいだって毎回感心するんだよな」
「それはリオのエスコートのおかげね~。本当に凄い人って相手まで気品があるように見せちゃうものなのよ」
私はそう言ってから、ジュースを飲み始めた。
………果実の酸味と甘みが丁度良くて口の中が幸せだぁ~。
「それ私も思っていたの、マリー。いっつも素敵だなぁ………って」
「なんだ?グレース、そんな夢見る乙女みたいな顔して。お前もあんな風にエスコートされたいのか?」
「い、いや!!!ち、ちがっ」
「ふはっ、そんな慌てなくても良いだろ?? ほら、口にクリームついてるぞ。とってやるから動くなよ」
アルビレオはグレースの顔を覗き込んだ。
彼の顔の近さに驚いたのか、グレースは目を大きく見開いている。
アルビレオはグレースの口元についている生クリームを指ですくい取り、自分の口元に持っていった。
彼は”お~やっぱり、うまい”とか呑気なことを言っているけど、グレースはあんまりにも緊張しすぎたのか呆然としていて、数秒瞬き一つもしなかった。
”リンゴーンリンゴーン”
お城の鐘が鳴り響く音が私達のいる城下町にも聞こえてきた。
その音にグレースもハッとしたように顔をあげた。
「グレース、私戻るわね??今日も話せて楽しかったわ!!」
「私もよ、マリー!!!また明日ね???」
そう言って私達は笑いあった。
私は手を振り、その場を去る。
角を曲がるところで振り返れば、私より遅く休憩を始めたアルビレオはまだ昼食を食べていて、二人きりになることに気がついたグレースは挙動不審になって慌てていた。
そんなグレースに私は心の中で”ファイト!!!”と応援しながら、お店に帰ったのである。
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