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14 最終話
しおりを挟むあれから半年、新しく即位されたネージュ様は国の体制を一新させていきました。
裏ではずっと動き、貴族達にも根回しをしていた彼は暴動なども一切起こさせない素晴らしい采配を見せました。
王が変わっただけなのに.................不思議です、空気は爽やかに、街は随分と明るく、人は穏やかになった気がするのです。
..............長く長く続いた苦しみの時代が幕を閉じようとしているからでしょうか。
お父様はネージュ様から宰相の誘いを受けました。
しかし、お父様はそれを丁重にお断りしたそうです。
その理由は"娘と......そして、新しくできた息子のそばになるべくいたいから"。
ルーとお父様は既にとても仲が良くなっていて、よく二人で異国の話をしながら盛り上がっています。
.........!!! そうです。ルーはネージュ様に婿養子の許可をいただき、正式に王位継承権を捨て、私と婚約しました。
結婚は私の成人までお預けです。
そしてアルラーナ侯爵家も大きく変わりました。
商団長の息がかかった使用人が多かったので、ほとんどの使用人は屋敷を追い出されました。
義母や義妹は散財していたらしく、ドレスだけでも何百着と言う量がありました。
荷物は全て売られ、屋敷の中はスッキリとしました。
そして、お父上は侯爵邸内の隠し部屋へと私を案内してくださり、お母様との思い出の品を沢山見せてくださりました。
お母様のものはもう何もないと思っていた私はとても感動し、それから数日ずっとその部屋に入り浸ってしまいました。
そして今日から私は、ルーとお父様、そして側近の皆様と共に旅に出ます。
父様が国交を結んだ国のうち、まだ貿易が開始されていない国を訪れ、貿易商品の確認とルートの確定を行うそうです。
塔から出たことがなかった私は貧弱でこのままだと連れていけない、と父様に告げられたのでこの日のために一生懸命体を鍛えました。
「リア、あれが海だ!」
そのルーの言葉に私は顔をあげました。
坂のずっと下に、どこまでも続く広い蒼がありました。
空の青よりもっと深く、輝いているような蒼です。
私は驚きと感動で、ルーの手をぎゅっと強く握りしめました。
「これから俺たちはあの海を渡って、違う国に行くんだ」
「海を........渡って........」
それは途方も無い旅のように感じました。
けれども、まだ見たこともないような世界を見ることができるという確信も持たせてくれました。
「ルー、私はやく下に行きたいです!海に触れてみたいです!」
「わかったから、そんな慌てて走るな!転ぶぞ!」
ルーは私のことをよく分かっていました。
塔から出て運動をしていたとはいえ、私の足腰はまだまだ弱いのです。
私は道のちょっとした段差ですぐ転びそうになってしまいました。
倒れかけた私の体をルーは片手で支えてくれて、ひょいっと起こしてくれました。
その顔は呆れ気味でしたが、転びそうになっても満面の笑みを浮かべている私を見て、ルーも優しく微笑んでくれました。
側で海を見るのは更に不思議な体験でした。
近くの海水は透明に見えるのに、遠くに行くにつれて深い....深い青色になっているのです。
そして、砂浜には色とりどりの綺麗な貝殻が落ちていて.......
それはまるで、ばら撒かれた宝石のようで私は目を輝かせました。
「ルー!もっと、あっちまで見たいです!」
「んー、まだ時間も平気そうだし行ってみるか!」
「はい!」
私はルーの手をぐいぐいと引っ張って、砂浜を進んで行きました。
同じ海でも場所が変わると景色も違いました。
穏やかな波もあれば、激しい波もある。
海水の表面が緑色に見える場所もありました。
小さい魚が集団で泳いでいるのが見えたり、大量のカニが顔を出しては逃げて行ったり.......。
見れば見るほど海は面白い世界でした。
そして、進んだ先にあった岩の隙間に赤い小さな花が咲いていました。
海辺ではあまりお花を見なかったので珍しいと思い、私はその花に手を伸ばしました。
「あっ!!リアちょっと待て、触れるな!!」
私の行動に気がついたルーが止めに入りましたが、もう時既に遅し........でした。
指に花が触れた場所から、赤い花が地面に咲き乱れ始めました。
「リア早く離せ!こんな広いとこでやったら、体力持たないだろ!!」
その言葉に私は慌てて、花から手を離しました。
確かに今までは室内でしか花を触ってきませんでした。
あれからルーに色々なお花畑に連れて行ってもらいましたが、私はあまり花に触れないようにしていました。
そして、その代わりにルーが花冠やお花の指輪を作ったりして、私を楽しませてくれたのです。
「危なっかしいな、リアは。まさかこんなお転婆姫だったとは」
「..........嫌いになりましたか?」
私は少し不安になって、ルーを見上げました。
ルーは一瞬ポカンとした顔をして、その後すぐに笑い出しました。
「いーや??もっと愛おしくなったよ。毎日思い出を重ねるごとにね」
その言葉に私は顔を真っ赤にしました。
「.......綺麗だな」
ルーは周囲を見渡して、そう呟きました。
砂浜には赤い花が敷物のようにびっしりと咲いていて、私たちが座っている岩肌からも赤い花が私たちを囲むように咲いていました。
風が吹くと、赤は揺れ海の青に赤が舞いました。
「そろそろ時間だ」
そう呟いたルーは岩肌をさっと降りて、下の地面に着地しました。
そして、下で腕を広げて待っていてくれました。
私は迷いなくその腕に飛び込みます。
私を受け止めてくれたルーは、そのまま私をギュッと抱きしめました。
私もルーの顔を見上げ、彼を抱きしめ返しました。
愛する人の体温が存在が、今ここにあります。
それは普通のことかもしれませんが、私達にとっては今二人で居られる未来を勝ち取れたことは奇跡のような幸運が続いたおかげでした。
それを私も.....ルーも分かっていたからこそ、この何気無い二人の時間が私達にとってはとても大切なものなのです。
「ルー」
「ん?」
「あの日...............私を見つけてくれて...........ありがとう」
あれが全ての始まり.........。
私とルーの不思議な出会いが、今日この日へと未来を繋いでくれました。
ルーは優しく微笑んで、私の頭を撫でました。
「きっと精霊様が教えてくれたんだ。俺は、風の吹く方へ好奇心のまま進んでいただけ........でも、そうだな。この力がなくても、俺はいつかリアを見つけていたんだろうな。....................予感がしたんだ、そこに望むものがあるって」
「私も..............ルーはいつか見つけ出してくれたような気がします」
「だろ?リアがいない人生なんて考えられないし、俺らの出会いは運命というより必然だったんだと思うよ」
遠くで船の汽笛の音が鳴り響きました。
その音にルーは顔を上げました。
「リア、出発の時間だ。..........まだ見ぬ世界を探しに.........一緒に行こう」
ルーが差し出した手を私は取ります。
そして、二人で船へと歩き出しました。
これからきっと楽しいことだけではなく辛いことや、悲しいこと、そして苦労することもあるのでしょう。
............それでも、もう私は大丈夫です。
彼と共に歩む人生、それが私にとって”幸せ”そのものだから..........。
(虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話 完結)
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また物語を読ませていただけると
幸いです
ありがとうございました
三点リーダー多用よりも、疑問符や感嘆符多用の方が読みにくい(⌒-⌒; )
物語自体はとても面白く、一気読みしてしまう程でした(*^^*)
まだいくつか読んでない作品もあるので、そちらも楽しませていただきますね(p*'v`*q)
泣いてしまいました😭
素敵なお話をありがとうございました✨