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しおりを挟む..............コツッコツッ
外が闇に包まれた頃、窓に硬いものが当たる音がしました。
私はその音に笑顔を隠し切れませんでした。
これは合図です。
私は窓を大きく開き、後ろに下がります。
そうすると数秒もしないうちに、彼はするりと慣れたように窓枠を飛び越え、部屋の中に入って来ました。
「久しぶりだな」
「また来てくれて嬉しいです。ルー」
数ヶ月に一度、彼とは会っていますが、また一回り大きくなったような気がします。
出会った頃はそう変わらない身長だったのに、今では大きく見上げないと彼の顔が見えません。
子供の頃から美しい顔立ちの少年でしたが、ここ数年でぐっと大人び、さらに端麗になったように思います。
「最近はなかなか抜け出せない。エヌリスに監視されてんだよ」
「試験があるのでしたっけ?」
「あー...........そーそー、机に向かって座ってるのは苦痛だよ」
”俺は武闘派なんだよ”とぶつぶつ独り言を呟いているルーがおかしくて、私は思わず”ふふっ”と笑いをこぼしてしまいました。
「笑ったなあ??」
「こういうところは昔から変わりませんよね。」
私の言葉にルーは少し顔をしかめた。
「身長も高くなって、体つきもたくましくなって、昔より静かで大人びたなと思いますが、やっぱりルーはルーで安心します。」
「バカにしてるだろ」
「いいえ?安心するんですよ。とても。」
出会いの日から数年の月日が過ぎ去りました。
ですから、あの日の約束をルーが今も覚えててくれているのかは............怖くて聞けません。
別に、”ただの冗談だった”でも良いのです。
あの日の幸せな感情、ルーと一緒に過ごした穏やかな日々の思い出だけで、私は十分幸せをいただいたから。
.....................だけど.....................
どうしても願ってしまうのです。
塔の外に出て、毎日何気ない日々を彼と過ごすことを。
私の知らない世界の美しさを彼に教えてもらうことを。
夢に見てしまうのです。
..............コツン
彼が一歩私に近づいたことで靴音が響きました。
ルーは私の前に立ち、一輪の花を私の髪に飾ってくれました。
私に会いに来るたび、違う花を彼はとって来てくれるのです。
間接的に季節の移ろいを感じられる花のプレゼントは私にとってとても嬉しいものでした。
「綺麗ですね」
「ああ、お前の瞳の色の花だ」
そう言ってルーは私の顔を覗き込みました。
近くで見ると、彼の目の下にはくまがありました。
目も充血していて、疲れた様子が感じられます。
私はルーの頰に手を伸ばし、彼の顔を近づけました。
「ルー、あまり眠れていないのですか?」
「..............ばれたか」
「バレバレですよ.......。無理して来てくれたんですね」
私はそのまま彼の手を引いて、椅子に座らせました。
ルーが長居できないことは知っていましたが、少しでも休ませたかったのです。
「俺が、リアに会いたかったんだ」
ルーは私の中の罪悪感に気づいてか、そう言いました。
そういった彼の細やかな優しさが私は好きでした。
「リアには俺の兄弟のこと、話したことあったよな?」
「昔、聞いた気がします。”怖い”お兄様が二人いらっしゃるのでしたっけ?」
「俺、そんなこと言ってたのか。............まあ、事実だな。その上の兄ととある約束、というか契約を結ぶことができてな..........凄い大事な契約なんだ。このチャンスは逃せない。だから少し.....焦っている。」
「........そうなのですか.......。私は、ルーの力にはなってあげることができないのが.............悔しいです。」
「..........リア「でも、いつでも祈っています。ルーが精一杯頑張れるように。ルーが幸せになれるように。」
そう言って、私は刺繍の入ったハンカチを彼に渡した。
幼い頃から、ヴィーナに刺繍を習っていた私は、今では刺繍が大の得意になっていた。
「これは.......」
「昔、ルーが私にリアと名付けてくれた時のことを思い返していたのです。隣国では、ヴァルメリアは幸福を呼ぶ女神とされていて、彼女の化身がこの不死鳥、だそうです。ルーに幸を運んで来てくれたら嬉しいのですけれど」
彼はハンカチを広げて、穏やかに微笑んでくれた。
「リアの刺繍の腕は年々上がっていくな。この調子じゃ城の針子を越えるぞ?」
「ルー、煽てすぎです!! そもそもお城の針子の刺繍なんて、どこで見る機会があるんですか~」
私がそう言うと、ルーは「ははっ」と笑い声をあげました。
..............コツン
靴音を立て、また一歩ルーは私に近づきました。
彼はズボンのポケットから小さな黒い箱を取り出しました。
その黒い箱には金色の細かい装飾が施されていて、とても高価そうに見えました。
「渡すか、迷っていたんだ。リアが気に入ってくれるか..........不安で」
そう言って目を逸らしたルーの表情は少し幼く見えて、私は笑顔をこぼしました。
「受け取ってもらえるだろうか」
彼がゆっくりと開いた箱の中にあったのは、キラキラと輝くネックレスでした。
真ん中について宝石は孔雀色で、装飾は華美過ぎず、とても美しい仕上がりのものでした。
私は感動のあまり、息を飲みました。
「いつも........お前は俺の瞳が好きだと........綺麗だと言ってくれるから」
ルーは珍しく、顔を真っ赤にしています。
それがあまりにも新鮮な表情なので、私は驚いて彼をまじまじと見つめてしまいました。
「私........こんなにも綺麗なものをいただいて良いのでしょうか............?」
「俺としては、受け取って欲しいんだが??それは俺の心だ」
「........ふふっとても嬉しいです。これを見るたびにルーを思い出して、元気になれそうです!!」
私の言葉にルーはにっこりと微笑みました。
「そろそろ帰らなくては」
「そうですか.........、お花もいつもありがとうございます」
そう言って、私は耳にかかったお花を髪の間から取り出します。
そうすると一面にお花畑が広がったかのように、石畳の床の上に真っ赤な花々が咲き乱れました。
「うわあ、綺麗ですね~。ルーからいただくお花は不思議ですよね。私が触ると途端にお花畑が広がるなんて!!」
「いや.........何度も言ってるが、俺が疑問だ。なんなんだ、これは」
「ええ?」
ルーは困惑した表情を浮かべていました。
私は最初、お花はこういうものだと思っていたのですが、どうやら違うと最近ルーが教えてくれました。
ルーは来るたびに違う花を持ってきてくださるのですが、私が触れるといつもこうやって一面にお花畑が広がるのです。
「まあ、良い。綺麗だしな!」
「ええ。綺麗です」
「それじゃ、また来る。」
「はい!ネックレス、大切にしますね」
ルーは最後に私の頭を軽く撫で、塔の外へと出て行きました。
私は彼からいただいたネックレスをギュっと握りしめます。
いつも彼が背を向け、去ってしまう瞬間は寂しいですが、このネックレスがその気持ちを抑え、安心させてくれました。
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