5 / 10
➂
しおりを挟む私達は14歳になった。
学校に入学してから1年、王子の人気ぶりはそれはそれは恐ろしいもので、ゲームをやっている時は"まぁこんな綺麗な顔ならそうだよね~"くらいの感想だったのだけれど女性陣の熱気が凄すぎて、正直コワイ。
そして、王子と同じ1番上のクラスにはこの物語の主人公であるソフィアがいる。
薄桃色の長い髪に金色の瞳、まるで天使が舞い降りて来たのかと錯覚するその容姿は殿下の横にいても全く引けを取らない。
"やっぱりあの二人はお似合いだなぁ"と、私は2人が喋っている様子を見る度にそう思うのだった。
「先日のアラン先生の講義で出された占魔術のレポートに使えそうな良い文献があったのですが」
「もしかしてスキヘンティア著の"タハトの咆哮"かい?」
「そうです! 先生が話されていた星座の利用の応用儀式について詳しく書かれていましたね」
「うん、そうだね。 明日までに大体はまとめておくから後はレオも一緒にまとめよう」
…………ちんぷんかんぷーん……………。
2人はクラスの授業でも同じ班らしく、よく放課後残って一緒にレポートをまとめている。
学校の生徒達からも容姿端麗、頭脳明晰、完璧超人な2人は一目置かれている。
生まれた時から殿下とはずっと一緒にいて、その私の居場所が段々とソフィアのものになっていくのには少し心がチクリと傷んだ。
…………けれどこれはストーリー上、やむを得ないこと!!!
殿下がアリスを好きになることなんて絶対ないのだから。
悪役令嬢アリスもきっとこんな感情に悩まされたんだろうな。
だけど、嫌がらせとかそういうのは良くない。
もしも殿下のことが好きなら正々堂々しないと!
それが立派な令嬢ってものでしょう!アリス!
記憶の中の悪役令嬢アリスに叱咤する私。
私も読者に宣誓をしておこう!!
主人公ソフィアに絶対に嫌がらせをしないことを誓います!!!
…………………はっ!!!いや待つのよ……私、今とんでもないことを考えてしまった。
このチクリとした感情はゲームの"強制力"のせいかもしれない………っ!!
だってソフィアに嫌がらせをしていない私は、悪役令嬢として役不足だ。
私が悪役令嬢として、立派に嫌がらせをさせるための感情なのかも~~!?!?
その事実に私は頭を抱える。
思っていたよりゲームの強制力は強いみたいだ。
まさか私の心情にまで影響してくるなんて!!!
………緊急事態すぎる。
処刑エンド回避のためにはどうすれば……!?!?!?
「…………あれ?アリス?」
中庭のベンチで1人、愕然としているところにタイミング良く王子がやって来た。
「あぁぁぁあ、殿下!大変です!!!」
「……………う、うん? 何がかな?」
「私このままだと立派な悪役令嬢になってしまいます!! は、は、早く回避しないと首が………首が…………っ!!」
「………………うん。1回、落ち着こうか」
王子に肩を掴まれた私は、息を深く吐き出し呼吸を整える。
「…………で、何があったの?」
「危機が迫っていますの、殿下。
は、は、早く婚約破棄していただかないと、私………凄い嫌な女になってしまいますわ!」
「……………嫌な女?」
「えぇ! 今日殿下とソフィア様が一緒にいるところを見た時、こ、心がモヤッとしたのです! 私の黒き心が目覚めかけているに違いありません!!
………これはいけませんわ…………破滅ルートへまっすぐですわ!」
「………………う、ん?
えぇとつまり、僕とソフィア嬢が一緒にいるところを見て嫌な気持ちになったってことかな?」
「そうですね……………これが悪へ傾く瞬間なのだと悟りました。 」
危ないところだった…………。
前世の記憶を思い出していなかったら、私は悪役令嬢アリスの人格に乗っ取られていたかもしれない。
前世ゲームをしていた私もナイス!
思い出したこの世界の私もナイス!!
私ってなんてラッキーなの!!!
「それってつまり……………嫉妬???」
「………………………………………????」
…………んん?
今、王子はなんて言った?
………しっと? シット?? sitto??? 嫉妬??????
………ナニソレオイシイノ???
「だって僕がソフィア嬢といるのを見て嫌な気持ちになったんだよね?
他の人にそんな気持ち思ったことないでしょ?」
王子がぐいっと距離を縮めて来たから私は10歩後ずさる。
「…………で、でもでもでもでも、これは強制力ってやつでっ! そ、その、そういうことじゃないんです!殿下!」
私が下がる度にこっちに歩いてくる王子。
「ねぇ、そろそろ認めて素直になりなよ。
君、僕のこと好きでしょ?」
「……………!?!?!?
な、な、な、な、な、何をおっしゃってますの!?
そんな訳な…………………………」
私の言葉がいきなり止まったのは王子が私の頭に触れたから。
「……葉っぱ落ちてきてたよ」
そう言いながら王子は緑の葉っぱを指でクルクルと弄る。
ようやく王子の興味が移ったことに私はしっかり安堵した。
「で、アリス。 僕に何か言うことない?」
………安堵できなかったぁぁあ!!!
王子はニッコリ微笑んでいるけど、その笑顔はなんだかブラックだった。
黒いオーラが全身から漏れだしていた。
…………コワスギル。
「あ、あ、あ、ありませんわ!」
最終手段、逃走。
破滅エンドを乗り切るために鍛えた私の脚力をなめるべからず!!!
コーナーで殿下に差をつけてやる!!!
「………!? アリス!そっち危ない!!!」
王子の叫ぶ声が聞こえた時にはもう遅かった。
私は校内の池の中に頭から落ちていったのだった。
綺麗な放物線を描いた見事な着水だったと思う。
後にも先にもあんな唖然とした王子様の顔は見られまい。
………………そして、こんな恥ずかしい記憶はきっと数十年後も忘れられない。
その日の夜、私は頭を抱え羞恥に身を悶えながら眠りについた。
11
お気に入りに追加
726
あなたにおすすめの小説

ほら、誰もシナリオ通りに動かないから
蔵崎とら
恋愛
乙女ゲームの世界にモブとして転生したのでゲームの登場人物を観察していたらいつの間にか巻き込まれていた。
ただヒロインも悪役も攻略対象キャラクターさえも、皆シナリオを無視するから全てが斜め上へと向かっていってる気がするようなしないような……。
※ちょっぴり百合要素があります※
他サイトからの転載です。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

この異世界転生の結末は
冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。
一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう?
※「小説家になろう」にも投稿しています。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】白豚令息の婚約者だったはずの私は、いつのまにか精悍な騎士の婚約者になっていました
江崎美彩
恋愛
幼馴染で許嫁の彼は、大切な一人っ子として親から大変可愛がられて育った。
彼は幼い頃に体が弱かったため、あまり家も出ず、真っ白でぽっちゃりとした見た目から『白豚令息』なんて馬鹿にされていた。
でも、優しくて穏やかな彼をわたしは嫌いになれなかった。
見た目が良くても嫌な性格の男性に嫁ぐよりも『白豚令息』と呼ばれる彼の元に嫁ぐ方がいい。
そう思っていたのに……
学校を修了した彼を迎えるために、乗合馬車の到着を待っていたら、彼の姿が見当たらない。
「貴方の婚約者である『白豚令息』はもういない」代わりに現れた精悍な騎士がわたしに告げた。
さっくり読める短編です。
※他のサイトにも掲載しています。

悪役令嬢ズが転生者だったとある世界
よもぎ
恋愛
よくある貴族学園を舞台にした乙女ゲームで「婚約破棄される悪役令嬢たち全員が転生者だったら?」を形にしました。学園での話は割とすぐに終わります。その後のお話が主体です。
ざまぁはここにないのでないですね。

悪役令嬢に転生したようですが、前世の記憶が戻り意識がはっきりしたのでセオリー通りに行こうと思います
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したのでとりあえずセオリー通り悪役ルートは回避する方向で。あとはなるようになれ、なお話。
ご都合主義の書きたいところだけ書き殴ったやつ。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる