魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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番外トーマ編

07 俺がついに腹を決めた件

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ベリア騎士団の訓練場にて。

俺は久しぶりに剣を握っていた。

「オラオラオラオラ!腰が引けてんじゃねぇのっ?」

「ぎゃああっ!無理ッス!バケモノッス!」

「弱音吐いてねぇで、かかってきやがれい!」

正直、骨のあるヤツはチラホラといる。

弱音ばかり吐いているこの平団員ミリヤも、油断すれば隙をついて牙を剥いてくるのだから。

「隙ありぃ!」

「あるかバーカ!」

「あっ、王女様!そこは危ないッスよ!」

「え、ソフィ…」

「嘘ッス!」

ガンッと練習用の剣で顔面を殴られる。

「ーーーっ…!!!」

してやられた。
俺は鼻を押さえつつ「ぐぬぬ…」と唸り声をあげる。

「負けは負けだ。ミリヤの昼飯は俺が奢ってやる」

「うぇーい!やったー」

練習用の剣を片づけた俺は、壁に立てかけてあったバスターソードを手にした。

「というと思ったか、このクソガキが!」

「いやぁあああ!その大剣はズルイッス!」


昼食を奢らされた俺が邸に戻ると、ちょうどルーファスが商談から戻って馬車を降りたところだった。

「おい、鼻どうした?」

「…騎士団のクソガキにしてやられたんだが何か?」

「口が悪いな、そんなに歳も変わらんだろ。お前いつの間にか以前の脳筋男に戻ってないか?」

「猫かぶりサービス期間は終了したんで」

「期間限定とか聞いてないぞ」

延長しろとルーファスが圧をかけてくるがお断りだ。

それでもちゃんと時と場合は弁えている。
側近の仕事の時はスーツと眼鏡を着用するつもりだから。

「ところでさ、ルーファス」

「国王を呼び捨てにするな」

「だって『陛下』も『義父上』もしっくりこなくてさ。正式な場ではちゃんと呼ぶよ」

「呼び捨てでしっくりくるな。まぁいい、勝手にしろ」

「いいのか」

許されるんだとちょっと意外に思う。
許されなくても呼ぶ気満々ではあったのだが。

「早く用件を言え」

「再建してる橋のことなんだけどさ。『ベリア橋』とかクソつまんねぇ名前のヤツ。あれ、俺が名前つけ直してもいい?」

「ああ、好きにしろ。あの新しい橋も好きに名付けていいぞ」

「やりぃ」

「いや、急に不安になった。一応どんな名前にするか報告しろ」

俺の喜ぶ姿を見てルーファスが意見を翻す。
失礼なヤツめ。俺のネーミングセンスに舌を巻くがいい。

「東の鉄製のが『朝陽橋』で西の木製のが『夕陽橋』!」

「…うむ、普通だな?」

「は?ルーファス、あの橋で夕日見たことないだろ。めちゃ綺麗なんだぞ!な、ヤナギ」

通りすがるヤナギに「なっ」と声をかける。
ヤナギは嫌そうな顔をしつつ「何ですか」とこちらの会話に加わった。

「めちゃ綺麗って、貴方はお嬢様の顔しか見てなかったじゃないですか」

「え、えええ?」

「バカップルに挟まれて私は終始居た堪れない気持ちでした」

「一緒に出掛けたいってヤナギが言ったんじゃん」

「だからこそ後悔したって話です。お嬢様には邪魔者扱いされるし、もう二度とついていきません」

予想以上に辛辣キャラで面食らう。
うわ、大好物。もっと絡んで仲良くなろう。

「わかったわかった。今度は二人で行こうな」

「どうして私と貴方で行くんですか。そんなことをしたらお嬢様に嫉妬で殺されてしまいます」

「なんで俺とヤナギに妬くんだよ。そんなわけないじゃん」

「そんなわけあるんです!まったく貴方は」

「あ、クララ!ごめん、野暮用。続きは今度な」

遠くにクララを発見し「それじゃまたな、二人とも」と手を振って別れる。

「ソフィ、起きたか?」

「はい、ちょうど先程」

「何か言ってた?」

こっそりクララに前情報を貰おうと試みる。

「それが、あまり覚えてないと」

「覚えてないかぁ」

「殴って逃げ出して捕獲されたことは覚えているようです」

「ははは」

笑っていると「お嬢様がすみません」とクララが改まって頭を下げる。

「お嬢様は昔から不器用なのです。裏目に出るようなことばかりやらかして」

「…」

俺は黙ってその頭の上にポンと手を乗せた。

「わかってるよ、心配すんなって」

クララはソフィーナとそんなに歳が変わらないのに完全に母親目線だ。
訊けば専用侍女になってから随分と長いらしい。
人間関係を築くのが苦手なソフィーナは失敗することが多く、駄目な子ほど可愛いという心理が働いているのだろうか。

「じゃあ、夕食の後にでも話すか」

「え、今すぐに話すのではないのですか?」

「んー、今から厨房に行く約束してんだよな。今日の夕食のことで料理長と。だからその後」

クララは意外そうな顔で首を傾げていたが「ではそのように伝えておきます」と一礼した。

「うん、よろしくな」



その日の夕食はクリストの執務室で一緒に食べることにした。

今朝のことが気になるのか、クリストがもの言いたげな顔でチラチラとこちらを見てくる。

「ソフィとはまだちゃんと話してねぇよ」

「そうなのか」

「この後で話す約束はしてある」

「…」

「それ、美味い?」

黙々と食事をするクリストを見つめ、訊ねる。
クリストはフォークを止め「これ?」と口に運んでいたソレをじっと見つめた。

「そういえばあまり見ない料理だな。カリカリで塩気があって美味い」

「だよな。俺の自信作」

「お前が作ったのか。料理が趣味とは知らなかったな」

「別に趣味とかじゃねぇけど」

行儀悪く頬杖をつき、はぁとため息を漏らす。

「俺さぁ、一日に一度は家族と一緒に食事したい派なんだよね」

「…は?」

クリストの顔が途端に歪む。
あ、コイツ今絶対『メンドクサイ奴だな』と思っただろ。

「でないとなーんか落ち着かないっていうかさ」

「それで用事もないのに私を誘ったのか。ソフィを誘えよソフィを」

「…んー、ふふ」

「なんだ、気持ち悪い」

「いやだってクリスト今、俺のこと普通に家族だと思っただろ」

指摘され、クリストは少しだけ食事の動きを止めた。

「お前は違うって?」

「現時点、ソフィはだいぶ家族、クリストはギリ家族、ルーファスは友人って感じかな」

「国王を友人扱いするな」

呼び捨てもやめろと叱られる。
予想通りの反応だ。

「でもさ、そんな頻繁にアベルに行くわけにもいかねぇじゃん?だから腹を決めてこっちでも家族を作っていこうと思ってさ」

「ああ」

「今日はあちこちで皆に声をかけてた」

「皆?」

少々困惑気味に「皆とは?」と訊ねられ、今日一日で声をかけた者を挙げていく。

「ベリア騎士団の皆だろ、ルーファスとヤナギとクララだろ、それから料理長と厨房の皆。んでクリスト」

「お前の家族の範囲、広すぎないか?」

「寂しがり屋なんだ」

だははと笑い飛ばす。
お陰で今日は楽しかった。

「俺は両親とかユーリみたいにスゲェことは何も出来ない普通の人間だけど、此処で負けないくらい楽しい家族を作るよ」

「お前は多分、普通じゃないぞ」

「いいよ、そういう慰めは」

「いや、ええと…うん。そうか」

何か言いたげに言葉を濁したクリストは食後の水を飲み、ナプキンで口元を拭いた。


「少なくとも俺にとってお前は優秀な側近で、いなくなっては困る存在だ。此処に居る為に必要ならば、気が済むまで好きにやれ」




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